サラダパーティー
「みんな、今日はたくさん食べてくれ!」
台所に立つ俺は、広々としたリビングに集う仲間たちへと声をかけていた。
『にゃにゃーんっ』
所狭しとリビングを埋めるゴーレムにゃんたちの鳴き声が響き渡る中、シンシアさんとプラチナも負けじと声を上げる。
「わーい、肉がたっぷりのった野菜炒めだら〜! ゴーレムにゃんたちもいっぱい働いたんだし、遠慮せずたくさん食べるだら!」
「ドレッシングたっぷりのサラダに加えて、ロールキャベツ、ポテトサラダ、ナスのおひたし、それにアスパラの肉巻きまで! これ全部食べちゃっていいんですか!?」
「もちろん。シンシアさんのおかげもあってこれだけの野菜や穀物が獲れたんだし、思う存分いっぱい食べてくれ! もちろん他のみんなもだ!」
どのメンバーが欠けても、こんなにお手軽に食材を収穫することはできなかった。だから俺は感謝の気持ちを込めて、いま作れる最高の料理を用意したのだった。
「ありがとうございます、スザクさん! それじゃあお言葉に甘えてさっそく……いただきまぁす〜!」
「いただくだら〜!!」
シンシアさんのいただきますを合図に全員がいっせいに料理へと手を伸ばす。
「まぐまぐ、うまいだら! こっちもはぐはぐはぐ……うーん、うまいだらなぁ〜!!」
「はい、全部美味しいです〜! 自分たちの手で時間をかけて育てた食材ってだけあって、美味しさ倍増ですね!」
はは……シンシアさんのおかげで全くと言っていいほど食材を育てるのに時間はかかってないけどな。
リビングを見渡すと、ゴーレムにゃんたちも各々満足そうに料理に舌鼓を打っている。
みんな満足してくれてるようでよかった。
頑張って作った甲斐があるな。
勇者パーティーにいた頃は俺がメンバーの食事の面倒を見るのは当たり前で美味しいなんて感想は皆無だったし、感謝されるようなこともなかった。そう考えれば、今の環境がどれだけありがたいかは言うまでもない。
「さて、みんなの反応も無事見届けたし、俺も収穫した食材を堪能するとしますか。いただきまーー」
と言いかけたところで気づいてしまった。
右斜め前に座るプラチナが、野菜炒めを食べる際にピーマンだけこっそりと箸で掬い、隣で幸せそうに料理を頬張るシンシアさんの皿に投入していることに。
俺は移動するとプラチナの首根っこをつかんでいた。
「おいプラチナ、何やってる?」
「うっ……な、何もやってないだら! ウチはただ夢中で美味しい料理を堪能していただけだらよ!」
ふいっとそっぽを向いて知らんぷりするプラチナだが、そう言ってる合間もこいつの手は止まらない。
「言ってるそばから他人の皿にピーマンを投入するな! お前、みんなでせっかく協力して作ったんだし、ちゃんと好き嫌いせずに食べろよな……」
「いやだらいやだら〜! だってピーマンは悪魔的に苦いだら! 女神の人には感謝してもピーマンという存在にだけは微塵も感謝できないだらよ!」
この時、親心のようなものに火がついたことを俺は後で悔する。
能力的には色々と優秀なプラチナだが、まだ年端もいかない子供なのは言うまでもない。この年で親元を離れ、物騒な森で暮らす羽目になったこいつをしっかり育てなければ、なんてこの時の俺は思ってしまったんだ。
「いいからほら、口を開けろ」
「うわー! 何するだら!?」
俺はシンシアさんの皿に一塊になっていたピーマンをスプーン目一杯掬うと、プラチナの目の前へと運んでいた。
プラチナは机を背にしているのでそれ以上は逃げることなど叶わない。
「入れるぞ」
「や、やめるだら、そんなの絶対ムリだら〜!!」
少し背徳的な感情がちらつくも俺は頭を振る。
「しっかり噛んで飲み込めよ。そら」
口を閉じて最後の抵抗を試みるプラチナだったが、俺はあくまで本人のためを思って多少無理やりスプーンを押し込んだ。
「んッッ……!!!???」
口の中にピーマンを押し込むと、プラチナは一瞬でも目を白黒させてびくっと跳ねる。
「いいぞプラチナ。ほら、噛んでみろ」
プラチナが咀嚼を試みるも、目を大きく見開いて動きを止めていた。
そして、
「おえええぇぇぇええええええええええ〜〜〜!!!!!」
ぎゃあああああああああああああっ!!!???
俺は心の中で悲鳴を上げるも、実際にその叫びが声になることはなかった。
なぜならプラチナは、あろうことに俺の顔面に向かってゲ⚫︎をぶちまけていたのだから……。
しかもなんなら少し口に入っていた。
これぞ本当のもらいゲ⚫︎である。
もちろん服もべちょべちょだ。
「おえっ……ぺっぺっ! おま、大丈夫かプラチナ!?」
とはいえ今は自分のことよりプラチナだ。
俺は口に入ったものを吐き出しつつ、彼女の方を見やる。
すると、プラチナは目に涙を浮かべてしゃくりあげており、
「う、ううっ……出ちゃっただら……女神の人たちとがんばって作った食材が……ヘンタイがせっかく作ってくれた料理が……無駄になっちゃっただら……う……ひく……っ…………うええええええええええええんっっ!!!」
「プラチナ、お前……」
どうやらこいつなりに、その辺は大事に考えてくれていたようだ。
無理やり食べさせようとした俺が完全に悪かった。
「すまんプラチナ! 俺が力づくで食べさせようとしたばっかりに……!」
俺が謝る中、ゴーレムにゃんたちが心配して主人の元に集まっていく。唖然としていたシンシアさんもようやく反応する。
「だ、大丈夫ですかプラチナちゃん! まずは口をゆすぎにいきましょう! ほら落ち着いてください、そんなに激しく泣いてるとまた気持ち悪くなってーー」
「おえええぇぇぇえええ〜〜〜っ!!!」
「きゃあああああああっ!?」
今度はシンシアさんに向けてリバースしていた。
「ゴーレムにゃん、悪いが桶を……台所にある桶を持ってきてくれ! プラチナ、落ち着け……ほら、深呼吸だ、深呼吸っ」
そんなこんなで、俺のせいもあってドタバタしたものの、その後はプラチナも落ち着いて料理を食べることができていた。
とりあえず、しばらくはピーマンの好き嫌いに関しては目を瞑ることにしたのだった。
こうして今日も、俺たちのスローライフは過ぎていく。
この時、その日々をおびやかす存在が迫っていることなど、俺たちは知る由もなかった。
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