農業
「うーん、どうしたものか」
風呂事件から一夜明け。
俺は今、ひとり外で唸っていた。
「そうじゃないだらよ女神の人!」
「え、わたし何か間違ってましたか!?」
「全然ダメだっただら。いいだら? 全体魔法を放つ際は、もっとこうかっこいい決めポーズをとる必要があるだらよ!」
「ええ! それって別に間違ってるわけじゃないんじゃ……」
また複数の敵に襲われた時のために、プラチナが全体魔法の指南をシンシアさんに行うのを尻目に俺は目下の問題について考える。
昨日は近場で山菜類が確保できたおかげで夕食が肉類に偏らずに済んだけど、シンシアさんはあの食欲だし、いずれ近場の山菜を取り尽くすのも時間の問題だ。
かといって、山菜のためにこの危険な森を散策するのも現実的じゃない。
健康を保ちながら生きていくには野菜から摂れる栄養素は不可欠だ。
野菜不足は抵抗力を弱めて風邪をひきやすくなるし、毎日肉だとさすがに内臓も疲弊して疲れやすくなる。
「うーん……このパーティーではもう自然と俺が料理番を担っているし、仲間の栄養管理は俺の役目だ。どうしたもんかなぁ」
「ーーはぁ、プラチナちゃんが熱血すぎて疲れちゃいましたぁ〜……」
そこへ汗だくのシンシアさんが項垂れた様子でやってくる。
「ふぅ。ところでスザクさん、さっきから悩んでるみたいですけど、どうかされたんですか?」
「あーそれなんだけど、今後食卓に出す野菜をどうやって安定的に採取するか考えてて。いっそ農業でも始めるかなぁ。ま、種も何もないし無理だろうけど。ははは……」
「農業、できますよ?」
力なく笑う俺だったが、シンシアさんの発言聞いて目を見開く。
「え、できるって……シンシアさん、どういうこと?」
「わたし、豊穣を司る女神なんです。だからある程度、自然界のルールを無視して作物を実らせる力があるんですよ。手始めに何か用意して見せましょうか?」
どこか少し自慢げに自分のことを誇らしげに指すシンシアさん。
「マジでそんなことできるの?」
「はい、大マジです♪」
どうやら本当らしい。
事実ならすごいことだった。
俺は前のめりになって詳細を問う。
「ちなみにその力って、こっちで指定した任意の野菜を実らせることができたりする?」
「はい、世に出回っているものであればなんとかなるかと」
「マジか……」
つい言葉を失ってしまうほどの力をシンシアさんは持っているらしかった。
この世界の野菜には見たことがないものも多いが、前の世界にあったような野菜も存在していた。
「そっか、じゃあ手始めにーー」
俺はいくつかの野菜に加え、穀物のオーダーを伝えていた。
「わかりました。豊穣の女神、シンシアにすべてお任せください♪」
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