魂の風呂
間があいてすみません!
『にゃん、にゃん、にゃん、にゃん』
プラチナの野営地に愛らしい鳴き声が響き渡っていた。
これらの鳴き声は主の采配によってゴーレムにゃんたちがせっせと家造りのため働く際の掛け声である。
既に彼らによってプラチナが住んでいた一人用の家は解体済み。
黒猫のような見た目の二足歩行生物たちは、森からベルトコンベアー式でせっせと伐採した木材を運び込んでいる。
そして彼らがすごいのはここからだ。
「わぁ、見てくださいスザクさん! ゴーレムにゃんたちの腕がノコギリのように変形してギコギコしちゃってます! へぇ、こうやって木々を伐採して加工してるんですね〜♪」
シンシアさん、すごく興味津々だなぁ。
感心して上半身を上下させるあまり、心許ない薄布で守られただけのメロンのような膨らみがたぷんたぷんと揺れている。
っと、そっちを見てる場合じゃなかった。
「なあプラチナ、ゴーレムにゃんたちがここまでできるのはわかったけど、建築において釘はマストで必要だろ? でもここは未開の森で釘なんて手に入らない。どうするつもりなんだ?」
「ふぇ? ヘンタイはそんなことも知らないんだら?」
白いトンガリ帽子のつばを上げ、俺を見上げる銀髪三つ編み少女プラチナ(現場監督)。
純粋に、知らないの?というような邪気のない表情である。
こいつも相手をバカにするだけじゃないようだ。
「あれを見るだらよ。家は釘なんてなくても建てられるんだらっ」
「へぇー。あれって仕口かぁ。こっちの世界にもこういう技術があるんだな」
それぞれの木材に凹凸を作り、それを組み合わせていくことでどんどん骨組みができあがっていっている。確か日本に古くから伝わる木造技術だ。
こっちの世界って西欧風だけど、だからといってまんまそういう文化形態じゃないんだよなぁ。ライスが主食の地域も少しはあったし。
「……ん? ていうか待てよ。問題なく家が作れるってことは、じゃあもしかして、風呂も造れたりして?」
「え、お風呂造れるんですか!?」
「ふろ? なんだらそれ?」
天界にも風呂はあるらしく、俺とシンシアさんは風呂についての情報を熱く語った。
「ふぅん。ウチは浄化スキルで体を清潔に保ってるだらけど、お前たちはそんな面倒な方法で体を洗うだらか。どういうメリットがあるんだら?」
「精神衛生的にめちゃくちゃ大事なんだよ! 俺も浄化スキルは持ってるけど、汚れだけじゃなくて疲れもよくとれるんだ!」
「そのとおりですよ、プラチナちゃん! この森からは出られないようですし、長く住むお家なら絶対お風呂を造っておいた方がいいです!」
「そ、そこまで言われると、少し気になるだらね。うーん、わかっただら。話を聞いてどういうものかはわかったし、ちゃちゃっと造ってみるだらよ」
そして数時間後。
見事俺たち三人の家が完成していた。
「プラチナちゃんすごいです〜!」
外観は別荘地にあるような立派な二階建てのログハウスだった。
「プラチナ、お前のこと見直したよ……。これだけのものを造るなんて、もはやプロじゃないか」
「ふっふー。大工のおっちゃんの下で働いてたんだから、プロ並みの出来になるのは当然なんだら。さ、それより中に入ってみるだらよ〜」
俺とシンシアさんは勧められるままに扉を開けて家の中へと入る。
「うわぁ、木のいい匂いが漂ってて落ち着きます〜♪」
「中も外観に負けてない……それにキッチンもある。って、家具まであるのかよ!?」
「そうだら。DIYのバイトもやってただら。暮らすために必要なアイテムはあらかた作れちゃうんだら〜」
偉そうにするプラチナだが咎める気が起こらないほど行き届いた設備だった。
どうやって造ったのかリビングにはソファーがあり、寝室となる部屋にあるベッドには寝具も一式揃っている。
だがまだ驚くのは早かった。
「さあ、ここが注文のあった風呂だだらー!」
ばーん!とリビングの突き当たりの扉が開かれる。
そこには広々とした脱衣所。
そしてその先にある扉を開くと、
「こ、これは……!?」
全身に押し寄せる湯煙。
魂を休息へと駆り立てる蒸気の匂い。
湯口より静かに注がれ、広々とした木製の浴槽に満ち満ちる魂の泉。
「そ、想像していた十倍すごい……。まるで秘湯レベルの風呂じゃないか」
「天界のお風呂もすごいですけど、こっちはこっちですごく趣があります……入る前から癒されるようです〜」
シンシアさんも良さがわかるようだ。
既に湯に浸かっているようにうっとりと蕩けた表情になっている。
「なはははは! とりあえず造ってみたけど予想以上の好反応でよかっただら」
とりあえず造ってみたって、マジかよこいつ……。
それでこの再現度ってどうなってるんだ?
プラチナはギルドを爆破したりと性格面で色々と難ありだが、俺が最初抱いたような単なる生意気なやばいガキというわけではないようだった。
こいつ、かなりできる……。
本人がどれだけ自分の価値に気づいているかはわからないが、この年でレベル50を超えて黒魔術を使いこなせていることといい、色々とできすぎだろ。
正直、恐るべき才能と言ってよかった。
まあそれを本人に言ったところで絶対調子に乗って足元を見てくるだけだから言わないけどな……。
「さ。せっかく造ったんだし、さっそく三人で入ってみるだら! ウチも風呂っていうのは初めてだし楽しみなんだらよ〜!」
「いいですね、プラチナちゃん! そうしましょう。どうやって用意したのかわかりませんけど、脱衣所にはバスタオルもありましたし、スザクさんも体をお互い隠してだったら大丈夫ですよね? さあ、一緒に入りましょう〜♪」
「え、マジで……?」
なんと嬉しけしからんことに俺は混浴の誘いを受けるのだった。
隔週くらいになるかもですが、がんばってちまちま書いていこうと思います。
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