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魔神の雷


「うわーん! スザクさん、さっきの今でまたオオカミさんたちに囲まれちゃいましたよぉ……!」



野営地の真ん中でシンシアさんが泣き叫ぶ。


俺たちは今、どこかのクソガキのせいでピンチに陥っていた。


シャドウ・ウルフの群れに囲まれてる状況じゃなければ、形が変わるほどに押しつけられたシンシアさんの豊満な膨らみももっと堪能できたに違いない。



って、バカなことを考えてる場合じゃなくて。

マジでどうすんだこの状況……。


シンシアさんは全体魔法を使ったことがないし、俺には残念ながら戦闘の心得はない。

そうなれば、頼れるのは一択だ。



「おいプラチナ、お前いつまで肉食ってる? さっきの黒い稲妻でやっつけられないのか?」


「えー……。確かに複数を足止めするにはあれが一番だらけど、なんでウチがやらなきゃいけないんだら?」


「元はと言えば、お前を狙って集まってきてるんだろうが!」



銀の三つ編みを気だるげに弄るプラチナについぞ突っ込む。



プラチナは俺たちより一ヶ月前にこの森にやってきたらしいが、こいつの話によると、その頃からこのシャドウ・ウルフの群れに狙われていたという。


シャドウ・ウルフは一度狙った獲物に非常に強い執着心を抱く。


だから今、群れの目線がプラチナに集まっている。



「はぁ……仕方ないだらねぇ。でも先に言っておくと、群れを仕切ってるあの大きいのには『魔神の雷サンダーボルト』は効かないし、取り巻きも一時的に状態異常になるくらいだらよ」


プラチナはだるそうに頭をかいた後、ロッドを手にして立ち上がる。

そして振り返ると、伏し目がちに自嘲的な笑みを浮かべ、


「もっとも、ウチのレベルがあとほんの少しだけ上がれば、この技が進化して全員に大ダメージを与えるすごい技になるだらけどね〜。でもウチは伸び悩み中だから仕方ないだら。おかげでもう一ヶ月もこいつらを倒すこともできず、ずっと追いかけられてるだらよ……はぁ」



プラチナが深いため息をつく中、俺たちは敵に追い詰められて一箇所に集められていく。


俺はプラチナの発言が気になり、急いで本人のスキルツリーを確認する。



……あれ、本人のレベルが53→55に上がってる?


あ、そっか。

今俺の料理を食べていたから、スキル【食育】の効果で上がったってわけか。


で、肝心の『魔神の雷サンダーボルト』とやらは、レベルいくつで進化をーー



「……」



俺は詳細を確認した後、ほくそ笑んでいた。



「おいプラチナ、いいからその技を使ってみたらどうだ」


「言われなくても今はそうするしかないだら」



プラチナが少し苛立たしげに青い宝石が備わったロッドを胸の前で構える。


そして彼女は、ふいに憂えた表情を垣間見せると、敵を見つめたまま消え入るような声で、



「敵を倒せなくて、また追いかけられる怖い日が続くとしても、ウチはもう……一人はイヤなんだらよ……。だから、

その場しのぎだとしてもやるんだら」



そっか。


こいつも可愛らしいところがあるんじゃないか。


まだ子供だもんな。こんな森に一人でいて、寂しくないわけがない。


プラチナがロッドに力を込めた。



「闇の門より出でし原初の悪逆よ、我がロッドに集いて万難を排せーー……ってあれ? なんかいつもと違って」



呪文の詠唱を開始した直後、プラチナを中心に暴風が吹き荒れていた。



「くっ……!」


「……す、すごい。なんですかこれっ」



微細な黒い稲妻がプラチナの顔を何度も照らし、それはどんどん勢いを増してロッドを黒く凶暴に染め上げる。


いつもと違う手応えを感じた様子のプラチナは、ロッドをさらに強く握りしめて威勢よく力を解き放つ。



「駆け抜けろ、魔神の雷サンダーボルト!」



割れんばかりの轟音と共に、視界が一瞬で黒く染め上げられた。


獣たちの断末魔の咆哮。


繰り返される黒い明滅。


辺りが静寂を取り戻すと共に視界に入ってきたのは地に伏したシャドウ・ウルフの群れだった。


リーダーと思われる大きな個体も倒れており、どうやら全てを倒し切ったようだ。



「え? いつもと違って、ぴくりとも動いてないだら……もしかしてウチ、倒しただら?」



俺は敵のステータスを確認する。


一匹残らずHPがゼロになっていた。


何がなんだかわからない様子の彼女に、俺は種明かしをする。



「実はな、俺が作った料理を食べると経験値を得られてレベルが上がったりするんだ。強力な魔物を素材にすると上昇幅も大きくなるんだが、お前は今回の食事だけでレベルが2上がった。だから技の進化条件、レベル55を満たしてこいつらを倒せたってわけだ」


「すごいですよプラチナちゃん! まさかこの土壇場で成長して敵を全部倒しちゃうなんて! また助けてくれてありがとうございます♪」



はは……まあプラチナのマッチポンプだったわけだけど、細かいことは言うまい。



「俺からも礼を言うよ。ありがとうな、プラチナ」


「い、いや……別に、その、お礼なんていいだらけど」



短いスカートをロッドで抑え、とんがり帽子を深くかぶりなおしてもじもじするプラチナ。


だが、彼女はすぐに朱色に仕上がった愛らしい顔を再び覗かせて、



「というか、お前のその能力はなんだだら!? ただのヘンタイだと思ってたら、お前の料理を食べるだけでレベルがあがるとか……それってつまり、毎日お前の料理を食べれば楽してレベルが上がるってことだらよね!?」


「まあそういうことだな」



おかげで勇者のみなさんには、なんだかんだ言って料理を食べてもらえていました。



「ふむぅん……確実に強くなれるってことは、ウチが目指す白魔術師になる夢も叶うってことだら……。ふん、そうとわかれば仕方ないだらね。今後お前らの仲間として、一緒に生活してあげるだらよ!」



相変わらずめちゃくちゃ偉そうだなこいつは……。


でもまあ、



「シンシアさん、それでいいですか?」


「もちろんです! プラチナちゃんは魔術も達者な上に可愛いですし、わたしは大賛成ですよ」


「じゃあ決まりだな。これからよろしく、プラチナ」


「え、本当にいいだら……?」



あっさり受け入れられたのが予想外だったのか、プラチナは呆けた様子だ。



「自分で言っておきながら何言ってるんだよ。それに、俺たちも二人だけで少し寂しかったんだ。だから仲間になってくれ、な?」


「わぁ〜〜♪」



大きな碧い瞳が、子供らしくキラキラと輝く。


プラチナがぺたんこの胸を張って偉そうに言う。



「ふふん、仕方ないだらね。そのかわり、毎日三食、きっちり美味しいご飯を食べさせるだらよ♪」





とまあそんなこんなで、俺たちに新しい仲間が加わった。


プラチナが戦闘面以外でも俺たちの生活に大きな影響を及ぼすことになるとは、この時は考えてすらいなかった。



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