森の先達②
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「お前はヘンタイだけど、焼いてくれる肉はうまいだらな〜♪」
「ははは、そうだろそうだろ。まだお代わりあるからな」
森で捕まえた肉泥棒。
プラチナと名乗った幼い少女を、俺は肉でうまいこと吊って野営地に連れ帰っていた。
こうして見てると普通の子供に見えて可愛らしく思えるが、恐らくただの子供じゃないので今から色々聞くつもりだった。
「スザクさんが焼いてくれるお肉、味付けが絶妙で美味しいですよね♪ わたし、プラチナちゃんとは気があいそうです!」
「シンシアさんも喜んでくれてよかった。まだあるからゆっくり食べてよ」
「はい、ありがとうございます! じゃあお言葉に甘えて、はむっ」
俺はプラチナに向き合う。
白いとんがり帽子に白いマント。
眩い銀髪は二つの三つ編みに結われてハの字型になっており、彼女が肉を食べる度に愛らしく揺れている。
「プラチナ、お前にいくつか聞きたいことがあるんだがいいか?」
「まぐまぐまぐ……お母ちゃんに知らない人に色々聞かれても答えちゃダメと言われてるんだら。プラチナはいい子だから親の言いつけはなにがあっても守るんだら〜」
「お、新しい肉が焼けたな。プラチナは俺たちと仲良くしたくないようだし、この肉は俺がもらうか」
「あー待つだらよ! ……し、仕方ないだらね。そういうことなら、少しだけ答えてやってもいいだら」
口を尖らして拗ねたような物言い。
生意気ではあるけど所詮は子供だった。
扱い方は非常に簡単である。
俺は新しい肉を渡しつつ、
「プラチナ、お前は俺たちより先にこの森にいるって話だったけど、いつからどういう理由でここにいるんだ?」
「お前たちが来る一ヶ月前からいるだらよ。ここにいる理由は、お前と一緒で騎士団に護送されてきたからだら」
「え、じゃあつまり、お前もその年で罪人ってわけなのか?」
「その年でとは失礼だら! こう見えてウチは、出身のヨハンネ村でいうところの成人だらよっ! 成人として認められたから、こうして村の掟に従って旅を始めたんだら!」
ヨハンネ村、聞いたことない名前だな。
語尾もその地方特有の方言ってところか。
「へえ、成人。ちなみに何歳なんだ?」
「ふふん、この立派な体つきを見てわからないんだら? もう十歳になっただらよっ」
立ち上がってぺたんこの胸を張るプラチナ。
優しいシンシアさんが拍手で応じる。
「わぁ〜、プラチナちゃん十歳なんですね! 可愛いです〜! まだ十歳なのに頑張って旅をしてるなんて、わたし感動しちゃいました。頑張ってるプラチナちゃんには、わたしのお肉を少しわけちゃいます。はい、どうぞー」
「わーい、女神の人! ありがとなんだら〜♪」
この二人、けっこう相性いいかもしれないな……。
俺は構わず質問を続ける。
「十歳で成人って……普通に考えて一人旅は危ない気がするけど、あれだけの黒魔術が扱えるなら話は別か。プラチナ、さっき川でシャドウ・ウルフの群れから俺たちを助けてくれたのってお前だろ?」
「ふっ、よくわかっただらね。そう、このプラチナが黒魔術で華麗に助けてあげたんだらよ。そう考えれば、お前がウチに肉を献上するのは当然なんだら」
はぁ……子供のくせにませてるな本当。
十歳ながら、ギブアンドテイクってものを理解している。
さらに話を聞いたところ、プラチナの村は北の寒い地方にあるという。
村の家々は黒魔術師の家系で、代々修行を重ねてその秘義を次世代に伝えることを使命にしているらしい。その修行の一環としてあるのが十歳での独り立ちで、旅をして一人前の黒魔術師と証明することが親への恩返しとされているという話だった。
「なるほどなぁ。昔から厳しい修行を……だからその年でシャドウ・ウルフ数体を気絶させるだけの力量があるってわけか」
「ふっふっふっ、そうだら……わかったらもっと命の恩人であるウチを美味しい肉でもてなすだらよ!」
「もうもてなしてるだろ。ほら席につけ。まだ肉もあるし、それに話も終わってない」
「わかっただら」
プラチナは素直に腰を下ろす。
「最後にもう一つ、まだ聞いてないことがある。プラチナは何をして絶望の森送りにされたんだ? ちなみに俺は仲間の裏切りにあって国家反逆罪で追放された。つまり無実だ」
「はん、ウチの尻をさわっといて信じろって言うんだら? まあどっちでもいいけど、ウチも無実だら」
まあ、そうだよな。
こんな年で流刑地に送られるレベルの悪行を働くとは思えない。きっとこいつも俺と同じなんだ。
かわいそうに……そこはマジで同情する。
「ウチは王都にやってきてひとまず稼ぐために冒険者登録しようとしただらよ。もちろん、職業は預言書にある救国の人物と同じ、白魔術師にしようとしただら。けど能力が見合わないって理由で何度も断られて……だからウチはついにカチンときて、夜中の人がいない時を狙ってギルドを爆破してやったんだら。わーはははははっ!」
前言撤回。
このガキ、まじもんの悪人だった。
ていうかテロリストだった!
つか、ついかちんときたから爆破って……短気すぎるだろ!
「えー! 爆破って黒魔術を使ってですか? ど、どうしてそんなことを!?」
「ウチはわけあって白魔術師になりたいんだら! なのに大人たちはわぁわぁ言うばかりでちっともウチの話を聞いてくれなかったんだら……だからあれは仕方なくてーー……ん?」
「っ……二人とも!」
理由はまた別の機会に聞くとして、今はそれどころじゃなかった。
俺は二人に注意を促して立ち上がる。
「ガルルルルゥゥ……!」
デジャヴ。
シャドウ・ウルフの群れに囲まれていた。
しかも遅れて森の中から出てきたのは、周囲の個体と比べて二回りほど大きいものだ。
「さっきの群れの残党とリーダーか……。あれ、でもなんか」
俺はある異変に気づく。
なんか、こいつらの視線、プラチナの方にばっかり向いてないか?
「おいプラチナ……あいつら、なぜかお前の方を見てるっぽいんだが、なんでかわかるか?」
「ふっふっふ。ヘンタイのくせによくぞ気づいただら。シャドウ・ウルフは一度狙った獲物に非常に強い執着をもつんだら。そしてウチはあいつらから狙われてかれこれ一ヶ月経つのに逃げ回ってる天才なんだらよ! さっ、存分に褒めるがいいだらー!」
「こいつ……」
「ええっ!? じゃあプラチナちゃんの匂いを追って、オオカミさんたち来ちゃったってことですか!?」
「ふっ、つまりはそういうことだら」
俺たちが川で襲われた時もこいつはそばにいた。
恐らくシャドウ・ウルフたちはプラチナを追っていて俺たちを見つけ、餌にしようとしたに違いない。
なんというマッチポンプ。
とんだ疫病神。
俺の妹よりも遥かに度を超えた、史上稀に見るクソガキと俺たちは出会ってしまったようだった。
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