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塔に閉じ込められたかわいいお姫様は純潔を誓った騎士様をいじめたい

作者: KATINO

「ラナ姫が囚われているのはここか……」


 男が目の前にある塔を見上げ、そう呟く。

彼は仕立てのいい服に身を包み、手には剣を握っている。

髪は短く切りそろえられ、顔つきも精練された騎士のように鋭い。


「待っていてください、ラナ姫。私が貴方を魔女の手から必ずお救いします」


 男は決意を込めてそう言うと、足を踏み出したのだった。


*****


 一方その頃、塔の最上階では――


『待っていてください、ラナ姫。私が貴方を魔女の手から必ずお救いします』

「か、か、カッコいいー!!!」


 エボニア帝国第一王女のラナ姫が顔を真っ赤にして悶えていた。彼女は今、

塔にある自分の部屋で、大きな鏡を覗き込んでいた。

 その鏡は魔道具であり、離れた場所にいる人物の姿を映し出すことができるのだ。

ラナ姫はその魔法の鏡を使って、塔の近くにまでやってきた男を観察していたのである。


「あぁ~なんて完璧な騎士様なのかしら……」


 ラナ姫は自分の胸の前で両手を組みながら、うっとりとした表情を浮かべる。

彼女は二十歳。とある理由により、この塔に幽閉されている。


「キャーどうしよ、カッコよすぎ! こんな方が私を救ってくださるの?」


 ラナ姫は興奮しながら、鏡に向かって叫ぶ。するとその時、

部屋の扉がノックされる音が響いた。コンコン。


「姫様……」


 ラナ姫の返事を待たずに部屋に入ってきたのは、一人の女性だ。

彼女はラナ姫の身の回りのお世話をする機械メイドで、名をカリーという。

カリーはジト目でラナ姫のことを見ると、呆れたようにため息をつく。


「今回はどんな男性を見ていらっしゃったんですか? 

陛下が姫様をこの塔に幽閉した理由をもうお忘れですか?」


「あ……」


 ラナ姫は三ヶ月前の出来事を思い出したのか、気まずそうな表情になる。

彼女の脳裏には、激怒する父王の姿があった。


『ラナよ! 城中の男がお主のせいで大変なことになっておる!!』

『お、お父様? いったい何のことです?』

『お主の不純異性交遊のことじゃ! 純潔を奪われたと、騎士たちが嘆いておったぞ!!』

『そ、それは……ええっと……』

『問答無用!  反省するまで、塔の中で頭を冷やしておれ!』

『そ、そんな! お父様! お父様ー!!!』


 ……というやり取りがあったのだ。


「く、くっそ~! 彼らが先に物欲しそうな顔をして見てくるから悪いのよ! 

うあ~! 思春期の乙女を塔に閉じ込めるなんて、酷すぎるわ!」

「自業自得です」

「ぐぬぬ……。私の座右の銘は、『来る男拒まず、去る男追わず』なのにぃ~。

カリー! これがそんなに悪いことかしら!?」

「ええ、姫様。悪いことです。悪いに決まっているじゃありませんか」


 カリーは淡々と答える。


「だって仕方ないじゃない! 私はただ、ちょっと優しく微笑みかけてあげただけなのよ! 

それで勘違いした男たちが勝手に迫ってきたんだもの!!」

「それを世間では誘惑したというのです。姫様はもう少しご自身の魅力について自覚なさるべきです」

「それこそ仕方ないことだわ! 両親の美貌をそのまま受け継いだおかげで、私は超絶美少女なんだからね!!」

「ああ、はいはい……」


 カリーは投げやり気味にそう言う。ラナ姫が美人なのは事実だが、

それを自分で言い切るところがなんとも残念なように思えたのだ。


「……でも、カリーが一緒でよかったわ!!」

「はい?」


 突然、明るい声でそう言われて、カリーは首を傾げる。


「だって、カリーは魔女だって勘違いされているじゃない! 『魔女に捕らえられた可哀想な姫様が塔に閉じ込められている』って噂になっているんでしょ?」

「まあ、そうですね」

「そのおかげで、カッコいい騎士様が次々やってきてくれるのよ! しかも、全員レベルが高いの! あ~ん、素敵ー!!」


 ラナ姫は鏡の中の男を見ながら、再び顔を真っ赤にする。


「はぁ……。私が用意したその監視鏡で見て、イケメンじゃなかったら追い返すじゃありませんか。

階段前に配置した、機械仕掛けの偽ドラゴンで。お人が悪い……」

「ええっと……。だって、顔は大切だし……」


 ラナ姫は恥ずかしそうにモジモジと指を動かす。


「とにかく! 楽しい夜を過ごすためには、男をよく選ぶ必要があるのよ!」

「ああ、はいはい……。そんなことを言っている間に、今回の騎士様がここに到着しそうですね」

「待ってました!!」


 ラナ姫の顔がパァッと明るくなる。だが――


「姫様。王都の税金に関する書類が溜まっておりますが……」

「うげ……」


 ラナ姫の笑顔が一瞬で消える。


「陛下は、早く反省を終えて戻って来いと仰っしゃられておりました。仕事を手伝ってくれと」

「行かない! 行かない! 絶対行かない!!」

「ですが……」

「ここで書類だけチェックした後、送り返せばいいって話だったじゃない! 私はここから出るつもりはないわよ!!」

「はぁー……。では、何かありましたらお呼びください。機械ドラゴンで片付けますので」


 カリーはラナ姫の説得を諦め、そう言う。


「分かったわよ! カリーは早く下がって! 私と騎士様の出会いに邪魔だから! ほら、行った行った!」

「はぁ……」


 カリーはため息をつきながら部屋から出て行く。そして扉を閉めた後、カリーは意味深に微笑む。


「男に目がない我らのラナ姫様……。ですが、今回は――」


 カリーは今回の騎士の姿を思い浮かべる。『純潔の聖騎士アロン』。

それが今回、塔にやって来た彼の名前である。

 彼にはどこか国の王子であるとの噂があったが、確証はない。

剣の腕は確かであり、騎士として活躍中だ。

 そのルックスと人柄は一級品。爽やかな好青年として国民にも人気があり、

女性や子どもからの受けもいい。


「今回の騎士様を誘惑するのは、容易ではありませんよ……」


 カリーは楽しそうな笑みを浮かべると、最上階から下へ向かう階段を下りていった。


*****


 カリーが去り、塔の最上階にはラナ姫だけが残された。


「ああ~。どんな風に出迎えようかしら? 下着は少し派手なものの方がいいかも……」


 ラナ姫は気合いを入れながら、机の上に視線を向ける。そこには一冊の分厚い本が置いてあった。


「カリーがくれたこの本は素晴らしいわ。これのおかげで、外見も体も、そしてアソコもいい騎士様たちと出会えたんだよね。それに……(自主規制)も……」


 彼女が上機嫌にクルクル回っているときだった。


「姫様!!」


 突然、男の声が聞こえた。それはこの部屋の外から発せられた声だ。


「!!」


 ラナ姫は慌てて声がした方に視線を向ける。すると、窓縁に一人の騎士が立っていた。


(はぅっ!?)


 彼女はその姿を見て硬直する。何故ならその騎士は、とてもイケメンだったからだ。


「ラナ姫!!」


 騎士が窓から部屋に入ってくる。


(キャー! か、かかか、カッコよすぎる!!! 何なの、あの美しさは!?」


 彼女は騎士から視線を逸らし、悶える。イケメンを前にして、彼女の心は激しく動揺していた。


「姫様、ご無事でしたか! ……ん? この書類はなんです?」


 騎士が机の上の書類に気づく。王都の税金に関する書類だ。

 アロンは、姫様は魔女に捕らえられていると勘違いをしている様子だ。そのため、数字が記載された書類がこの部屋にあることに違和感を覚えたのだろう。


「あっ。それは……」

「それは?」


 ラナ姫は説明しようとするが、いい言葉が見つからない。そして、説明を諦めた。


(すみません、騎士様。大人しく捕まってください……!!)


 彼女は心の中で謝った後、天井から伸びていた紐を勢いよく引っ張る。


「うわあああぁっ!?」


 アロンは紐によって拘束され、それと同時に宙に浮かされてしまった。


「な、何ですか、これは!?」

「すみません、騎士様。私は縛り上げるのが得意でして……」

「え?」

「あ、いえ! その……」


 あまり大っぴらにできない特技をさらけ出してしまい、ラナ姫は慌てる。


「今すぐ解いて差し上げますので!」

「ありがとうございます」

「しかし騎士様。これを解くには、騎士様の体に触れる必要があるのですが……」

「そのくらいは大丈夫ですよ。ラナ姫」


 アロンは縛られた状態のまま、爽やかな笑顔を見せる。彼は宙に浮いており、その体勢は頭がやや下方向に向いた仰向けのような状態になっている。髪は重力に従い、下に垂れ下がっている。そんな非日常的な彼の姿を見て、ラナ姫は顔を赤らめる。


(キャー! これこそDESTINY……!! 縛られているイケメン最高! この世の全てが美しく見えるわ!!!)


 ラナ姫は歓喜しながら、彼を見つめる。彼女の心臓はこれ以上ないほどに高鳴っていた。


「ふふふ……。では、私にお任せください」

「お願いします」


 ラナ姫はアロンの拘束を解きにかかる。


(我が名はラナ。男の服を脱がすなんぞ、三秒あればこと足りる!!)


 ラナ姫は心の中で叫びながら、アロンの服に手をかける。シュババッ!一瞬にして、彼を拘束していた縄は解かれた。ただし、彼の服と共にだ。

 彼の上半身が露になる。そして、彼の首を拘束している首輪とそれから伸びる鎖だけはそのままだ。


「いや……どうして……」


 アロンが呟く。紐を解くだけではなく、なぜ服までもを脱がされたのか理解できていないようだ。


(ギクッ)


 ラナ姫は動揺する。


「姫様……?」


 アロンが整った顔をラナ姫に向ける。彼女の視線に映るのは、上半身が裸で、鎖に繋がった首輪を身に着けているアロンの姿だ。


(わ、わーっ! 何という破壊力!! 鼻血が出そう……。それに、このシチュエーション……。まるで私がアロンを支配しているみたいじゃないの~!)


 ラナ姫の興奮は限界に達していた。


「私を解放してくれるのではなかったのですか?」


 アロンがなぜか顔を赤らめつつ、ラナ姫にそう問う。だが、彼女はそれに答えない。


(ふふ……。私は服を脱がせる天才だけど、紐を解く天才ではないのよ!)


 彼女は内心でそんな言い訳をしながら、アロンを眺める。彼は自分なりに拘束を解こうとしているようだ。体を精一杯よじっている。


(ああ……。その仕草がもう……)


 ラナ姫が彼を見つめて身悶える。


「くぅ……。動けば動くほど拘束が……。姫様、早く私を楽にしてください」


 アロンが苦しそうな表情を浮かべた。


(おおおおお! もう我慢できない!! イケメンの苦痛に耐える姿も素敵過ぎるわ~!!)


 ラナ姫の理性は崩壊した。ガシッ! 彼女はアロンを押し倒し、手のひらを彼の胸に当てる。


「すごい! す……」


 そこまで言ったところで、彼女は我に返った。


「「…………」」


 ラナ姫はアロンを見下ろし、彼は彼女を見上げる。二人は数秒間、無言で見つめ合う。やがて、アロンが口を開いた。


「な、なな……何をなさるのですか!?」

「その、胸の筋肉があまりにも素晴らしくて……」


 ラナ姫は頬を赤く染め、アロンから目を逸らす。


「はい?」

「あ、貴方がカッコよすぎるのが問題なのよ!」

「はぁ……」

「実は私、恋愛問題で城から追い出されて……。実は魔女なんていないのよ!」

「はい……?」


 窮地に立たされたラナ姫は、真実を説明せざるを得なくなったのだった。


*****


「しくしく……」


 ラナ姫は涙目になっていた。


「つまりその……。ラナ姫は、お城の中で恋愛問題を起こされたため、この塔に幽閉されてしまったというわけですね?」


 アロンが状況を整理する。彼は拘束から解放され、服も再び着ている。


「はい、すみません……」


 イケメン騎士たちが助けに来てくれるのが楽しくて、つい暴走してしまっていたラナ姫である。今は一時的に反省し、しおらしい様子を見せている。


「ラナ姫は絶世の美少女だという噂を聞いておりました……。さすが、噂通りの美しさです」

「はい……。そう言っていただけて幸いです。美しいことに罪はありませんよね?」


 彼女は目元の涙を拭うフリをして、イケメン騎士の言葉に嬉々として反応する。


「そうですね……。美しいのは罪ではありません!!!」


 アロンは姿勢を正し、爽やかな笑顔を見せる。その背後には殺風景な部屋が広がっているのだが、なぜか美しい花が咲いているように見えた。彼の美貌が為せる技だ。


(ええっ!? ちょ、ちょっとちょっと!! 貴方何なの!? 女の私よりも綺麗だなんて反則よ!! 私もバックに花が欲しいわ!)


 ラナ姫はアロンを見て、激しく動揺していた。彼女の動揺を感じ取ったのか、アロンが優しい口調で言う。


「あ、申し訳ありません。私のあまりの美しさがつい失礼を……」


 自意識過剰にも思えるセリフだが、アロンの美しさは実際に飛び抜けている。


「私は、自分よりも美しい女性を見たことがありません。そのせいで、どの女性とも関係を持っておらず……。おかげで『純潔の聖騎士』だなんて呼ばれています」

(ええっ!? 純潔の騎士って、そういうことだったの!?)


 ラナ姫は心の中で絶叫した。


「しかし、お姫様とはいえ、誰かを好きになることが罪になるだなんて……。理不尽だと考えたことはありませんか? 男は妻を複数持っても、甲斐性さえあれば問題にされることはありませんが……」


 アロンが真面目な顔でそう言う。


(……あれ?)


 ラナ姫はふと、何かに違和感を覚えた。


「姫様は女王になられる気はございませんか?」

(女王……? 私が……?)


 ラナ姫は自分が女王になった姿を思わず想像してしまった。だが、すぐにその妄想を振り払う。


「ど、どうしてそんな話を? 今日初めて会ったばかりなのに……」

「違います。初めてではありません、姫様」


 アロンはラナ姫の前に跪き、その手を優しく握る。コツコツ……。部屋の入り口から誰かが近づいてくる足音が聞こえた。


「カリー?」

「姫様はご存じなかったでしょうが、先日とある武闘大会が開かれました。そこで一位を勝ち取った者は、姫様の護衛に任命されるのです」


 ラナ姫の専属メイド――カリーはアロンの隣に並び、話を続ける。


「紹介が遅れましたね。こちらは姫様の護衛に任命されました、アロン卿です。姫様を安全に王宮までお連れするために、お越しいただいたのです」

「お会いできて光栄です、姫様」


 アロンは恭しく頭を下げる。


「な、なっ!? 私は何も聞いていないのに……。二人って知り合いだったの!?」

「はい。それに、実は陛下の命も受けているのです。姫様を早く王宮まで連れてこいと。後、男が出入りしているという変な噂の真偽を確かめるようにとも言われておりました」

「そっか……。お父様の仕業だったんだ……」


 ラナ姫は納得して呟く。


「まあいいわ。他に隠していることはないわよね?」


 彼女がそう問うが、アロンはニコッと微笑むだけで答えない。


(何よ、この男……)


 ラナ姫はアロンのことが掴めないでいた。


「あの……。私たち、どこかで会ったことがある?」

「はい! 小さい頃、姫様にお世話になったことがございます」

「そうなの?」

「でも……とても昔のことでして……」


 アロンはラナ姫のあごに軽く手を当て、自分の方を向かせる。ラナ姫は彼の美貌に気を取られつつも、戸惑っている様子だ。


「姫様は覚えておられないと思いますよ」


 アロンはラナ姫の耳元で囁く。そこで、彼女はアロンを振り払った。


(なんだか、タヌキのように掴めない奴ね……)


 ラナ姫は警戒する。アロンの美貌には虜になっているが、その内面はまだ見えない。


「私に忠誠を誓いなさい。報酬はこの体でいいかしら?」


 彼女は笑顔でそう問いかける。そしてさらに言葉を続ける。


「ふふっ。あなたは純潔の聖騎士だったわね。私は知っての通り、恋愛問題で塔に閉じ込められるほど困ったお姫様なんですけど?」

「…………」


 アロンはにこやかに微笑みつつ、ラナ姫の手を優しく握る。


「報酬は、貴方様が女王になることです。私をキングメイカーにしてください」


 チュッ。彼はラナ姫の手の甲にキスをした。


「貴方様が女王になられた暁には、男などいくらでもご用意いたしましょう」

(……こ、この男、やっぱりただ者じゃないわね!?)


 ラナ姫はアロンの言動を見て、確信する。


「うん……。それじゃ……今からどうする? とりあえずベッドに行こっか」

「お断りします。当然、王宮に戻っていただきます。Your majesty(我が陛下)」

「うっ!」


 夜のお誘いをあっさりと断られた上、王宮へ戻るという面倒事まで言い渡される。ラナ姫は思わず、小さな悲鳴を上げたのだった。

前に描いておいた漫画の内容です。 暴走しながら描きました! フフフ-

鈴木智平さんがマンガのノベライズをかっこよく書いてくれました! ありがとうございます!ボイスコミックにもする予定なので、お楽しみに!

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