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笹島鈴音は死んでしまった。

意外にも彼女の死を悲しむ人は多く、クラスではすすり泣く声が聞こえ、学校では黙祷を行い彼女の死を悼んだ。

しかし、どれだけの人が正しく彼女の死を理解しているのだろう。

結局彼女は家族から捜索願いも出されておらず、遺書なども見つかったことから自殺と断定されたらしい。

ただ警察は彼女は自殺という殺され方をしたと理解しているのだろう。

あの後私は警察にあのアパートの出来事を一部始終話した。しかし、一緒にいた骨塚さんについては少しも聞かれなかった。聞かれたのは鈴音との関係性やら自殺に関することだった。もしかしたら骨塚さんが上手く言ってくれたのかもしれないし、九頭井が明らかに犯人だと目星を付けていたのかもしれない。詳しい事は分からないが私は何のお咎めも無く、日常生活に戻された。骨塚さんとはあれから会えずじまいだ。事務所も閉りっぱなしで、三法事さんに聞こうにも前言ったホテルの一室はもぬけのからだった。

だらだらとむなしい時間だけが過ぎていった。

高校のテスト期間を迎えて暇になった私は海に来ていた。得意な数学も今日は解けている気がせず、一日中上の空だった。

そうして海を見つめて何時間か経った時に突然後ろから声が聞こえた。

「こんな所にいたのかよ」

「っ!骨塚さん!」

驚いて振り返った時、目の前にいた人物はある意味考えられる中で最悪の人物だった。

「やぁ。鈴音ちゃんのお友達さん。骨塚先生は元気かい?」

「知りませんけど」

あの日、あの現場から忽然と消えた九頭井がそこに立っていた。

「警察はきっとあなたを追っていると思いますよ」

「だろうね~。今回は先生にも見られてたから興奮しちゃって、派手にやり過ぎちゃったよ」

「なんで、なんでこんなことしたんですか?」

聞きたかった。聞かなきゃならないと思った。それは鈴音の最後を見た者として、鈴音の友達として。

九頭井は微かに笑うだけで質問には答えず、いつの間にか私の目の前にいた。そして私の眼をのぞき込みながら言った。

「君の眼、色が見えているだろ」

少しの間息が止まった。いままで鈴音にも、家族にさえも言わなかった私の秘密。

「なんでって顔してるね。実はね、僕も同じなのさ。僕も人と違う眼を持ってる。人の感情の揺らめきが見える特殊な眼をね」

「そう、なんですか」

「そうそう。この眼があれば人を自殺させることも簡単なんだ」

「なっ。その眼で鈴音も殺したんですか」

怒りのあまり思わず私は九頭井を詰め寄った。しかし九頭井は平然とした顔を崩さず、私の眼を見て言った。

「まぁまぁ、怒るのも分かるけど鈴音ちゃんが何で自殺をしようとしたのか知りたくない?」

「し、知ってます。鈴音は私や学校のことが嫌いで」

「なんで嫌いだったか分かるかい?彼女がそこまで周囲を嫌っていた理由さ。彼女がいじめの罰を受けたからかな?それとも家族が片親だったから?はたまた交友関係に問題があったのかな?」

「それは…分かりませんけど。でも鈴音は」

「君だよ」

「っ!」

「君だよ。君がいたから居心地の悪い学校にも行った。君が献身的に世話したから高校ではあんな事した彼女の味方をして、可哀想な被害者扱いする馬鹿な男が群がった。君がいたから彼女は放課後に行きたい店に馬鹿みたいに行っていた。君がいたから彼女は自分のことを愛せなかった。君がいたから、君がいたせいで彼女は自殺した」

「なんで、私は」

「君は彼女を助けようとして、彼女を死に追い詰めていたのさ。笑えるね。僕らよりよっぽど君の方が自殺仲介人っぽいじゃないか」

「私は。私が」

「でも安心して。君は悪くない。彼女は苦しんで死んでいない。彼女は自分の意志で死ぬことを選択して、自分の意志であの瓶を飲み干した。鈴音ちゃんの死の責任は彼女にしかないよ。むしろ、彼女にとって彼女を否定し続ける世界をずいぶんと嫌っていたからね。死ぬことでホッとしてると思うけどなぁ」

私は、何も言えなかった。鈴音の死ぬ直前の顔がずっと頭から離れてくれなかった。でも、この人の声は優しく、私の罪を肯定して赦してくれる神のようで。

「その眼だってそうさ。僕らは少し特別なだけだ。僕らは死神によってこの眼を与えられたんだ。だからさぁ。君も楽になろうよ」

私はその手を拒むことなんて。

「俺の客に手ェ出してんじゃねぇよ根暗野郎」

雪の目の前で九頭井が突然吹っ飛んでいった。そして、そこに立っていたのは服装がおかしくて、サングラスを外している顔は少し恐い、本当は優しい人物だった。

「骨塚さん!!」

「おう。ちっと警察の奴らと世間話に花が咲いちまってな。遅くなった」

「本当にいつもタイミングの悪い人ですね。先生、いや骨塚。もう少しだったのに」

ぶん殴られたはずの九頭井は、服についた砂を払いながら、その感情のない顔に少しばかりの怒りを滲ませなら顔で立ち上がった。

「雪さん。本当に良いんですか?あなたはまたその眼で人を殺すことになりますよ」

九頭井は雪を見つめながら問いかける。正確には、その眼を覗きながら「お前もこちら側の人間だと」と問う。先ほどまでの不安に押しつぶされそうな雪ならば、もしかしたらその手を握っていたかもしれない。しかし、今は驚くほど思考が明瞭だ。

骨塚さんが私の肩を少し押す。

「ほら清水雪。あの勘違い野郎に言ってやれ」

私は九頭井向かってに思いっきり言った。

「そうかもしれません。私はまた余計なことをして人を傷つけるかもしれない。でも、私はあなたとは違います。もうこれ以上鈴音みたいな人を見たくないから。私はこれからも誰かを支える人でいたい」




「逃がして良かったんですか?」

ここにいるのは骨塚さんと私だけ。もう九頭井はここにはいない。

「あの場であいつを捕まえるのは無理だな。ナイフも持っているだろうし」

骨塚さんの事務所の中で少しぬるくなったコーヒーを飲み干す。コーヒーはブラックが飲めないから、牛乳を貰って思いっきり甘くして飲んでいる。

「あの、すみませんでした」

「なにが?」

「巻き込んでしまって。警察にも事情を聞かれただろうし、骨塚さんも面倒なこと多かったと思います。本当に迷惑かけて申し訳ありませんでした」

「別に良いさ。私用もあったしな」

「それでもありがとうございました」

雪は深く頭をさげた。すると骨塚さんは頬をかきながら小さく「おう」と言ったのが確かに聞こえた。

「じゃあもう遅いのでそろそろ帰りますね。また今度遊びにきても良いですか?」

少し笑いながら骨塚さんに問いかけると、骨塚さんは急に真剣な顔をした。

「お前も共感覚持ちだったのか」

「…はい。あの、よく生気がないとか言うじゃないですか。私、その生気みたいなのを色として見てしまうんですよ。だから悩んでいる人とか死にそうな人とかによく声をかけちゃって。でもこれからはもっと気をつけようと思います。無神経なお世話は人を死に追い詰めるってしちゃったので」

九頭井はこの眼を死神の贈り物だと言った。確かに悩みも苦しみもした。しかし、この眼と一緒に生きていくしかないんだ。だから、この眼のことをもっと知らなくちゃいけないと雪は改めて考えた。

すると骨塚さんは少し考えると思いもがけないことを言った。

「おまえ。ここでバイトしないか?」

「へ?」


これから不思議な眼を持つ少女と服装のおかしいおっさんが、事務所を訪れる悩み人の問題を解決するのは、またまた別のお話。

そして、返却されたテストをみて雪が悲鳴をあげるのもまたまた別のお話。


やっと終わりました。

始めてまともに書き切ったので拙い部分も多いでしょうが見逃してください(懇願)

さて、活動記録にこれから書くとは思いますが勢いで書くことに反省したので、次はもっとしっかり書き溜してから書きたいと思います。なのでしばらく短編続きになるとは思いますがぜひそちらもお願いします。

では、また。

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