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1-3 魔法とスキル

「魔法っていうのは、いわば運動能力と同じようなもんだよ」


 料理の片手間、プレーはそう言った。魔法は誰にでも使えるものらしい。その名前だけ聞くとどうしても限られた者にしか使えないという印象があるが、この世界ではそうでもないらしい。


「魔法には四属性があってね。

 一人が扱えるのは大体一属性だけなんだけど、上級魔法使いなんかになると複数属性が操れるとか」


 火、水、風、土。この四属性が基本の魔法となるという。また、どの属性の魔法を使えるかは先天的に決まるらしい。基本的には血族によって魔法の属性や系統は継承されるのだとか。


「あたしは火属性の家系だからね。こうして料理するのには事欠かないのさ」


「魔法って、どうやって出すんですか?」


「魔力を燃料にするんだよ。まあそんなの意識しなくてもえいってやれば普通に出るさね」


 その普通というのが分からない。魔法を経験したことのない私からすれば、それすらも未知なのだ。


「魔法って、遺伝によって決まるんですか?」


「遺伝?」


「あ、えっと・・・。

 その、親から子へと受け継がれるんですか?」


「そうだよ。血族伝承が基本だからね。

 だから医士の子は医士、学士の子は学士なんだよ」


 医士というからには、治療魔法などを持っているのだろうか。であれば、学士なら鑑定魔法だろうか。しかし、四属性の内それらはどれに入るのだろうか。治療魔法から、ヒーリング効果といえば何となく水か風のイメージだが、鑑定となるといよいよ分からない。


「医士って、回復魔法とかを使えるってことですか?」


「ああ、そうだよ。正確には、“治療”スキルになるがね」


「スキル?」


 まずい、また新たな単語が出てきた。


「スキルってのは、一人につき二つずつ持っている先天的な力のことだよ。

 一番多いのは“操作”スキルで、医士の持つ“治療”スキルはかなり稀少なんだ」


 スキルは一人当たり二つまで持っているのだという。しかしそのうち一つは血族伝承スキルであり、親と同じスキルを継承することになる。そしてもうひとつが、固有スキルであり、これはその個人の独自のものとなる。

 このことから親二人を合わせて、合計四つのスキルがあることになる。血族伝承スキルはそのどれか一つを継承するのだ。つまり、医士の子供が必ずしも治療スキルを継承するとは限らないのである。そのため、医士や学士などの希少なスキルを保有する人間は子供を多くつくることが国から義務付けられているらしい。


「つまり、魔法とスキルの二つの能力があって、全ての人間がそれらを必ず一つか二つは使えるってことですか」


「そうだね、その理解で合ってるよ。

 あんたは親のスキルが何かとかは分からないのかい?」


 知るはずもない。多分、持ってもいないだろう。しかしその道理からすると私は、固有スキルは持っていても血族伝承スキルは持っていないのでないのだろうか。


「魔法・・・、何属性かも分からないです。

 スキルも、何も・・・」




「じゃあ、確かめてみるかい?」




 まごつきつつ答えると、プレーは存外に気にしないといった様子でそう訊き返してきた。


「確かめるって・・・、え?

 そんなに簡単にできるんですか?」


「できるさね。ほら、このボール貸してあげるからやって見なさいな」


 そういって、料理に使わないボールをひとつ貸してくれた。


「・・・ドウヤレバイイノデショウカ」


「手をかざしてごらん。

 そして、火だったら火の、水なら水のイメージをしつつ、手先に力を込める感じだよ」


 言われるがまま手をかざす。自分の中に魔力があるとはついぞ感じてはいなかったが、私は素直にプレーの言う通りにした。


「・・・何か唱えた方がいいですか?」


 魔法と言えば呪文である。呪文を詠唱してこそ、魔法を発動したという実感があるものだろう。


「いや、何でもいいよ。イメージができて、それを具現化できりゃ何でも」


 しかし、そこまで理想通りとはいかないらしい。確かに、彼女も先程何も言わずに指先に火を灯していた。

 とはいえ、魔法である。それも、異世界転生しての魔法である。きっと、とんでもない威力の魔法が飛び出るに違いない。


「どこに行くんだい?」


「一応、庭へと・・・。

 強すぎて家が吹っ飛ぶといけないので」


 内心のワクワクを抑えきれぬまま、私は井戸の近くにボールを置き、手をかざした。土間からはプレーも見守ってくれている。さあ、私ばかりが驚くのはもう疲れた。今度はそっちが私に驚く番だ。




ファイア!!」




 勢いよく、短絡的な呪文を叫ぶ。すると、その瞬間。かざした手先がほのかに輝き出し、その掌の上にその光が収束すると同時。




ポンっと、小さい音を立てて光が消えた後、掌からは煙が細く長く昇るだけだった。




「ナニコレしょぼい!!」


「あっらぁ、多分アンタ火属性じゃないわよそれ」


 散々イキった発言をした後である。流石の恥ずかしさに、むしろ顔から火が出てきそうだった。


「試しに他の三属性も試してみなさいな」


 確かに、たまたま火属性じゃなかっただけかもしれない。改めて、私はボールの上に手をかざした。


ウォーター!!」


 今度はじんわりと掌が湿った。手汗が酷い時と同じ程度の、よく見ないと分からないレベルである。


ウィンド!!」


 そよそよと、微かな風を感じる。風車を回せる程度で、隙間風みたいなものだ。掌が湿っているからまだ感じやすいが、乾いていたら意識するほどでもないだろう。


ソイル!!」


 湿った掌に、微量の砂が付着する。体育で散々グラウンドの砂を触った後、水で洗い流す時の、その水を付けた瞬間のような、砂と泥とが混じった状態になった。


「威力なんてものは皆無だし、何より汚い!」


 結局ボールの中に井戸の水を入れ、そこで手の泥を洗いとった。チート能力を期待していたのに、こんなゴミみたいな力しかないとは。魔法の神秘性はどこに行ったんだ。


「いやいや、凄いわよアンタ!

 四属性全てに適性があるなんて!」


 そういえば、普通は一人一属性なんだったか。驚くプレーにふと思い出したが、たとえ全て使えるとしてもこんな何の役にも立たない効果では何の意味も無いだろう。

 最初の火属性の魔法で濡れた手を乾かしながら、私は空しさにうちひしがれつつ土間へと戻った。


「最初はそんなもんさね。

 腕を磨けば、もっとましにはなると思うけどねぇ」


 彼女のフォローだけがあたたかい。しかし、私はまだ希望を捨てきったわけではなかった。


「そうだ、スキル!

 スキルの方は、どうやって確かめればいいですか!?」


 そう、固有スキルの存在である。血族伝承スキルの方は、私はこの世界に血族がいないため絶望的だが、固有スキルならば何かしら持っているのではないか。そして、それこそがチート級に強力な能力なのではないだろうか。


「スキルねえ。普通は生活の中でふと見つかるものだけれど、一番多いのは“操作”スキルだから、それだけなら見分けられるよ」


 一番ありふれているのであれば、操作スキルの適正は私にはきっと無いのだろう。しかし、それもちゃんと確かめておかねばならない。


「どうやるんですか?」


「簡単だよ。タオルの端を持って、それを揺らすんだ。

 操作スキルを持つ人間なら、そのタオルの揺れ方を自在に操ることができるんだよ」


 操作スキルの無い人間であれば、揺らしたように波打ってしか揺れない。しかし、操作スキルを持つ人間ならその揺れ方を変えたり、凍ったように硬直させたりすることもできるのだという。

 つまり、そういったことができなければいいわけだ。そうでなければ、チート能力を持っている可能性が皆無になってしまう。


「やってごらんよ」


「よーし!」


 意気込み、少し強めに揺らした。そして手は動かしたまま、タオルに揺れを止めるよう念じてみる。




 するとあろうことか、タオルは手元からもう片方の端まで棒のようにピンと固まってしまったのだ。




「あら、操作スキルだね、アンタの固有のは」


「うっそでしょ・・・!?」


 どうやら魔法もスキルもありふれている世界で、私は凡庸な能力しか持っていないらしい。せっかく異世界にやって来たのだが、早くも私は元の世界に帰りたくて仕方がなかった。


魔法は一人一属性が基本ですが、人によっては複数属性を操れます。

基本単属性のみの人間は、他属性の魔法を使おうとしても何も起きません。

手汗ほどの水も出ません。

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