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第8ポヨポヨ 疑念と狂気。そして父

 やぁ! ここからどんどん重くなるよー!


 ここは学校。そして教室だ。どつかれながらも僕は無事に学校にたどり着くことが出来た。今回は誰にも絡まれなかった。でもみっきーがすごい目で僕を見ていた。道中ずっと。そんなにペット発言はNGだったのか。


 みっきーは真面目な委員長だね。


 二日ぶりの学校は特に何も変わっていなかった。校門の校長はいつもと同じでトランクス一丁でポージング。


 いつもの教室。いつもの学校。


 ……そう、いつもの僕の席。


 結局姉も母もあのあと出てこなかった。父さんは普通に仕事に行った。


 ……少なくとも見かけは普通だった。息子を囮に使った非道な親にしては。


 全ては過激派を殲滅するための過程に過ぎなかった。あのセロリも、姉とのケンカも。全てが利用されていた。あの日襲われた時、僕が一人で居たことはきっと偶然じゃない。


 わざと隙を見せて襲わせたんだ。スライムは見掛けに反して戦闘力が高い。そして何より結界をスルー出来る力がある。あの時、姉が助けに来なかったのはそれが必要なかったからだ。


 あの姉ならたとえケンカをしていても助けに飛んで来る。それは何度か経験済だ。それがなかった。そして何よりあの日、僕は無傷だったんだ。


 今までも過激派を名乗る者達に襲われた事は何度もある。怪我をした事も数えきれない。姉に命を救われた事もある。バズーカからな。


 だからこそ異常。あのおじさんは無害な人だった。武装は何かしていたかも知れない。しかしきっと使うことはなかったはずだ。殴っても使わなかったし。


 全て……全て分かった上であの事件は起こされた。


 そう考えるのが妥当なんだ。囮の安全を考慮した上での過激派殲滅作戦。病院での念入りな検査はせめてもの配慮、罪滅ぼしのような物だろう。異常なんて何処にも無かったのだから。だってお尻の……なんでもない。


 そして……そして何よりあの父はそれを知っていた。知っていて僕を……騙した。騙し続けていたんだ。


 家族を囮に使い、尚も騙し続ける。


 僕は怖くなった。信じられなくなった。父も。姉も。母も。


 僕はいいように利用されて騙され続けるのか。違う過激派が出てきたらまた利用されるのか? 便利な駒として。囮として。


 こうなると全てが怪しくなってくる。父がスライムと結婚したのも、スライムの姉が出来たということも、二人が異常に好意的だった事も、全てが僕を利用するための布石に見えてくる。


 それはきっと気のせいじゃない。だって僕は現に沢山襲われているんだから。異種族に反対する過激派に何度も何度も。そしていつもちゃんと助けられている。都合良く、死ぬこともなく。


 過激派からすれば異種族と関わりがあるただの子供、これほど狙い撃ちしやすい的はない。わざわざテロを起こすより、とても簡単だろう。


 僕は気付いてしまった。この恐ろしいほどの冷徹さに。子供を利用している大人の汚さに。そして父の……無反応に。


 一時たりともそばにいたくなかった。確かめるのが怖かった。でもあの時の父は認めたんだ。認めて……しまったんだ。僕を利用していたことを。


 そして僕から逃げたんだ。背を向けて……。



 でも……こうなるのは当然だったかも知れない。


 今まで僕がずっと目を背けてきた事。それが原因ならむしろ納得できる事だ。


 何せ僕は壊れてる。元々壊れているんだ。使い捨てに持ってこいじゃないか。父が利用していたのも大人として当たり前だ。だって僕はそのくらいしか役に立たない欠陥品なのだから。


 記憶障害を持つポンコツ。そんな子供を愛せる訳がない。大切な訳がない。


 そう、僕は人の成り損ない。壊れた人形。死んでも構わない物……いや、今までも死にかけた事は何度もあるけど、それも全て治療のデータを取っていたとすると辻褄があう。


 あの紅いスライムが僕の体を壊すとき、やたらとその後の対処がスムーズだったのだから。すぐに病院に運ばれて十分しないで終了、そして帰宅。そんな事を何回も。


 あの紅いスライムがそれならば緑のスライムは何を……そうか。


 ああ、そうか……あの緑のスライムは体調を管理していただけか。飯を作っていたのも家事をしていたのも僕の全てを把握するためか。


 そうか……そうか。全て……全てじゃないか。はは。あははははははははははは!

 

 ははははははは!


 ……もう家族なんて信じない。あんな……あんな偽物。ずっと騙していた奴らなんて。


 僕はもう信じない。





「……なぁ、コウの様子、おかしくないか」


「ええ。ずっと顔色が真っ青だわ。やっぱりショックだったのかしら」


 椅子に座り、青い顔で授業を受けているコウは昔から少し変わった奴だった。別に他の人と何処が違うという訳では無いのだけど……何か違う。思考はやや天然で行動もわりと天然。つまり天然なんだが、決して悪い奴ではない。むしろ逆だった。


 友達の為なら平気で命を捨てるような馬鹿な奴で、昔から本当に大変な目に遭わされてきた。小学校の時から既に電波系というか、あの性格そのものだったから多分そういう人間なんだろう。


 それは大怪我をして記憶障害になっても何も変わらない。


 あの時は三日間入院してすぐに会えた。でもその時のコウは全てを忘れていた。俺達の事も、親の事も。本当に全てを。俺達はそんなコウに愕然としてた。愕然としてんだけど、そんな真っ白なコウから一緒に遊ぼうと言われて更に愕然とした。


 だって記憶が無くてもコウは何一つとして変わらなかったのだから。みっきーのスカートを捲ったりとかな。いつもと全く同じ事をしてた。そしてみっきーの拳骨で泣くのも、いつもと同じだった。


 コウのリハビリは一月でなんとかなった。社会で生きるのに最低限の知識。そして常識とかをとりあえず詰め込んだ。俺達もリハビリに協力してスカートを捲るのは良くないと何度も言い聞かせた。スカートを捲るのは女子の方からでげふんげふん。


 とりあえずコウは前のコウと変わらなくなった。元々コウなんだけどな。でも大怪我の影響で記憶に障害が起きていた。それは名前を覚えられないというもの。記憶障害というよりは脳の異常……認識の異常なのだと説明されたが、その時の俺にはちんぷんかんぷんだった。


 俺は最初、その程度のもんかと、この障害を軽く考えていた。でもこれはキツかった。思ったよりも遥かにキタ。


 人の顔を見てコウが、毎回首を傾げるんだ。こいつは誰だ、ってな。


 それは友達としてずっとそばにいた俺でも泣きたくなるほどキツいものだった。覚えてもらえない事がこんなにも辛いなんて俺は知らなかった。


 みっきーは……泣いていた。泣いてるみっきーを見てコウは悲しそうな顔をするが、やっぱり名前を言うことはなかった。


 でも俺達はまだマシだった。一番辛かったのはコウのお父さんだ。


 おじさんもコウの記憶から消えていた。本当に全部消えていたんだ。コウに『おじさん誰?』と言われているおじさんを見るのは子供の俺達ですら胸が締め付けられた。おじさんはその度に辛抱強く『お父さんだ』って言い続けていた。


 おじさんは決して泣き言を言わなかった。そして涙を溢すことも無かった。少なくとも俺達とコウの前では。


 あの人はすごい。本当に強い人だと思う。俺ならすぐに心が折れて逃げていただろう。そしてコウが学校に通う事になって……やっぱり問題は色々と起きたけど、元々天然電波系だからそんなに変わる事もなかったりして一年があっという間に過ぎたんだ。


 そして退院から一年。その日コウの家でささやかなパーティーをすることになった。一周年記念と題してな。当のコウは何の一年だと首を捻ってたけどな。


 そこには沢山の人が来てた。いや、来てたような気がする? いや、来てたのは俺とみっきーの家族だけか? この時の記憶は不思議とぼんやりしてるんだけど、そのパーティーで奇跡が起きたんだ。それだけはしっかりと覚えてる。


 今までずっと父親の事を『おじさん誰?』と言っていたコウがおじさんを『父さん』って呼んだんだ。それもごく自然に。何でもないように。というか、わりとどうでもいい時だった気がする。ジュース取ってー、とかそんな感じだ。


 でもおじさんは……膝をついて泣いていた。泣いていたんだ。あのどんなときも凛としていて苦しい顔ひとつ見せなかったコウのおじさんが。


 心配したコウが近付いたらガバリと抱き締めて更に男泣きして……コウはまた病院送りになったというオチもあるけどさ。


 あのマッソーで子供を抱き締めたら、そりゃ全身骨折するよな。おじさんも真っ青になってたし。今度は退院まで二ヶ月かかった。すげぇ重傷だった。


 挿話的な物をぶちこんだので、ちょい短め。大体一話当たり五千から一万を目安にしてます。書くと大変なのに読むとあっという間なんですよね。


 本当に大変なんですよ?

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