第19プルプル 父の勤め
やぁ! この話で最終回さ。少し他の話と毛色が違うけど仕様さ。
日本異種族対応局。
ここは日本に暮らす異種族達、ファンタジーさんと呼ばれる者と日本人との日々の様々な問題を解決するために作られた組織だ。
ま、当然表向きは、であるが。
そんな役所的な建物は今日も相談を持ち込むファンタジーさんで賑やかだった。
「……恋人が欲しいです」
「……とりあえずバイトでもして出会いを増やしてはどうですかね」
切実な願いを吐露するのはエルフ耳のファンタジーさん。そしてその相談に答えているのは引きつった笑みを何とか維持したマッチョの職員。家庭では父として反抗期の息子を幾度となく潰してきた巨躯の男、名を田中と言う。そう、俺だ。
「……もうしてます。でも、ろくな男が居ません」
エルフのお姉さんは疲れきっていた。そのエルフ耳がしょんぼりするほどに憔悴していたのだ。
「……ちなみにどのような男性が好みなのですか?」
これも仕事。役所の職員田中は耐えていた。全ては愛する家族のため。異種族対応とは言うものの、相談の大半はこのような色事であり、乙女な相談ばかりであった。何故にマッチングを? そう思うもこれも仕事。役所の職員田中は今日も頑張っていた。
「小さい男の子が大好きです! ペロペロしたいです!」
鼻息荒く目を血走らせるエルフのお姉さん。その姿はまさにガッカリの化身、ガッカリエルフだ。本当にこいつらは。
「帰れ! 二度と来るな! あと小学校の近くにも行くんじゃねぇぞ! 振りじゃねぇからな! いいか!」
役所の職員田中のキャパは低かった。というか毎日似たような相談が来るので田中の心はいつもグロッキーだった。声を荒らげるのも毎日のこと。職場の誰もが『ああ、またか』と思う程度にいつもの事だった。
「……小学校……なるほど、その手がありましたかー」
手を叩いて閃いた様子のエルフさん。その姿はまさにファンタジーから出てきたエルフそのもの。美しく気品に満ちていた。でも瞳はドブのようにドロリとしていた。
「止めろ! 問題にしかならねぇから本当に止めろ!」
どうしてこいつらは揃いも揃ってこうなのか。役所の職員田中は頭痛に襲われていた。
「……では教師として潜り込みます。可能……ですよね?」
艶やかな笑みを浮かべるその顔はどんな男もイチコロでメロメロになるほど美しい。しかし彼女は極度の変態であり、才女でもあった。悔しいほどに。
「……許可したくない。ものすごく許可したくない。くそっ! 何で毎回変態に限ってスペックが満たされてんだよ! ああもう! 申請しとくから……科目……どうすんだ?」
異種族対応局はファンタジーさんの希望を極力応える為に全力を注ぐ義務がある。それこそが日本を救うための契約であり条約だったから。しかし実際の業務だとファンタジーさんの無茶ぶりを如何に捌くか、という胃に穴が開くような仕事ばかりだ。
……お父さんは本当に頑張ってるよ、マイサン。
「保健の先生が良いです! 是非!」
美しく気品に満ちたエルフさんの鼻からはエルフの滴がボタボタと机に滴っていた。机に朱が散る。また掃除が大変だ。
「……用務員にぶちこむか」
教員としての資格を有しているエルフさんから何とかして無垢な子供を救おうと役所の職員田中も必死である。本当に必死にならざるを得ないんだよ。
「ええ!? 用務員……用務員室に男の子を連れ込んで……ぶぱっ!」
鮮血が相談窓口に降り注いだ。床に倒れ込んだエルフは血塗れだった。
「治療班ー! この変態に鎮静剤ぶっこんで外に捨てとけ」
これが日本異種族対応局の代表的業務であった。
しかし役所の職員田中には裏の顔があった。それは日頃の業務とは違い日本の平和を維持する秘密の役割で……。
「……男の子を……私は……諦めないぃぃぃ」
相談窓口のブース内。そこには長い髪を血に染めた亡者のような変態エルフが欲望の声を上げながら蠢いていた。
「……大使館に連絡すっか」
お父さんは……お父さんは本当に! 毎日頑張ってるんだよ、マイサン!
最終話はお父さんでした。一応この話は連作になった場合に生きてくる感じなので、これ一話だと物足りないと思います。
ひとまずはお父さんがファンタジーさんに慣れてる理由、とお考えください。あと変態なファンタジーさんは少な目です。多くのファンタジーさんはノーマルな性癖です。
そこがこの物語の基本ですから。
まともな物語を書く。それもちゃんと一冊のボリュームで。
今回のテーマはこんな感じです。だから変態は少ないのですよ、サーモンの書いたものにしては極端に。
主人公なんて、ただのおっぱい星人ですからね。お姉ちゃんは……あれぐらいは恋する乙女として普通です。うん、普通。スライムなだけで。
この先スライムとのラブコメはどうなるのか……ラブコメになるのか? という問題もありますが、ひとまずはここで筆を置くことになります。
実はこれを書いているのは第一話を投稿した日で、どれだけ読まれるのか、まさにミステリーな状態です。予約投稿で一気に設定しましたよ。機械って苦手なので本当に大変でしたわ。
完結までいって読者数が一桁だったら本当にどうしよう。まぁそれでも書くんですけどね。
ではまた次回。生きていればまた。