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第15プルプル 溶岩湖

 やぁ! ついに十五話だよ。よくまぁ続いたもんだ。


 僕らはひとまず何処に行こうかの相談をしていた。魔法少女に溺れてる姉を無視してね。今思うと何であんなことを口走ったのか自分でも分からない。


「父さん……僕はジェットコースター……いや、止めとく」


 少しだけ興味はあった。少しだけ。でもあれは人間にはきっと不向きだ。僕はそう思ったよ。マグマの上をレール無しで走る謎のファンタジーコースター。そばで見るだけで多分満足したと思う。


「マグマコースターに乗りたいのか? まぁあれなら人間でもいけるか?」


「お母さんは身長制限で乗れないわねぇ」


「いや、だから止めとくって」


 乗りたかった訳じゃない。あの謎が知りたかっただけなんだ。


「うはー! 良い仕事したわー! あれ? どうしたのみんな。こんなところで」 


 ここで姉も合流した。すごく晴れやかなポインポインに何があったか知るのが怖かった。なのでスルーした。


「お、ようやく戻ったか。いや、これから溶岩湖に行ってみることになってな。あそこのアトラクション……人間が出来るのはマグマコースターぐらいか?」


「……アスレチックは無理ね。そのまま死んじゃうし。マグマバイクも……」


「絶対に燃えるよね! 溶けるよね! ファンタジーさんはちょっと頑丈すぎないかな! 生き物としておかしいよ!」


 ここで抗議しないと僕は死ぬ。僕は直感したよ。


「んじゃマグマコースターにするか。一応安全面では基準に合格してるから……死にはしないはずだ」


 直感したけど無駄な事もあるのだ。ぐー!


 こうして僕らは溶岩湖ドリームランド内、巡回カートに乗せてもらいマグマアスレチックエリアに赴くことになっちゃった。


 カートの運転手はロボで笑った。ファンタジーなのにロボかよと。ウイットに富んだ会話も出来るというハイテクなロボさんだった。


 ……ファンタジーなのにねぇ。ロボってねぇ? ある意味ロボもファンタジーなのかねぃ。SFって言うし。そんなこんなで僕らは移動したのであった。


 ロボさん、飴ちゃんくれた。すごく良いロボさんだった。また利用しようと思った。



 


 溶岩湖アスレチック……。


 僕が初めてこの地に降り立った時の事を思い出す。あれは僕の鼻にティッシュを詰め込めようとするファンタジーさん達から逃げるようにしてバスを降りた……いや、この辺は忘れていいことだ。


 とにかく僕はまた溶岩湖を臨む事になった。あのときとは全てが違う。見える風景も違って見えていた。柵の向こうに見える溶岩湖はまるで……。


 ボコボコボコボコ……じゃぼん! ぎゃー!


「……いや、同じだ。またパンツ丸見えだし」


 今も盛大にファンタジーさんが空飛ぶキノコから滑り落ちていた。そしてひとしきりマグマの中で悶絶したあと、マグマからジャンプするんだ。黄金色に輝くマグマの飛沫を散らしてね。


「こらー! 他の女のパンツなんて見ちゃダメでしょー! お姉ちゃんので我慢なさーい!」


「……いや、姉さんノーパンだし」


「……はっ! 確かに!」


「……母さんもノーパンだぞ、コウ」


「あらあらまあまあ……えっち」


 また和太鼓な音がした。それも連打。マッスル要塞がマッスル空中要塞になってたけど……多分夢だね。


「まぁ今度パンツ履いてあげるからコウちゃんは他の女のパンツなんて見ちゃダメよ?」


「……はぁ」


 気の無い返事だけども、その時の僕には想像出来てたんだ。これ以上ないくらいに延びきったパンツをそのプルプルボディに被った変態スライムのビジョンがさ。


「ぐふっ、そうだぞ……コウ……あのパンチラは危険だ……見せつけておきながら、ぐっ、責任を取らせに来るからな」


 父さんは映画に出てくるような今にも死にそうな兵隊さんばりに喋ってた。あれだよね、妻に愛してると伝えてくれ、みたいなノリだ。まぁ今の惨状はその妻が犯人だから……ぐー?


「ほらほら早くマグマコースター乗り場に行くわよ」


 ここにもアトラクション循環カートはあったけど大抵の人はマグマを見ながら歩いていた。溶岩湖の周りは、あえて整備してなくて赤土が顔を見せる荒れ果てた荒野となっている。まぁそれも溶岩湖の周囲だけで、少し離れるとちゃんと整備された道と緑に溢れた遊歩道があるんだけどね。


 ざっくざっくと土の地面を歩くのが、ここでの楽しみって事らしい。だから僕らも歩いて乗り場まで行くことにした。溶岩湖を見ながらね。


 ボコボコボコボコ……じゃぼん! いやーん!


「あの人すごいね」


 見せつけてきたよ。ガッツリと。上着から靴下に向かって何か紐っぽいのが延びてたけど……ありゃなんだったんだろう。変な靴下だった。太ももまである靴下とか。


「……ああ、あれは痴女と呼ばれる類いのものだ。コウは関わらない方がいい。父さんもあれにはちょっと嫌な思い出が」


「再婚前の話? それとも浮気な話?」


 それ次第でまた父さんは和太鼓になっちゃうのに。


「……最初の結婚前の話だ。まだ父さんがコウよりも……いや、中坊の時の話だよ」


「……何故言い換えたの?」


 そこにはきっちり反応いたす! 拙者ヒジカータゆえ。


「……ほら、見てごらんマイサン。マグマコースター乗り場が見えてきたよ」


「……結構並んでるね」


 上手くかわされた気もするけどマグマコースターは大盛況だった。溶岩湖に面した岸壁にコースターへの乗り場があって、お姉さん達が綺麗に列をなしていた……まぁそれだけなんだけど。


「……シンプルすぎない?」


 そのあまりにもあまりな光景に僕は不安を覚えたよ。岸壁にコースターがドン! それだけ。


 幾つかのコースターでローテーションしてるみたいだけど、ひとつのコースターに乗れるのは四人ぐらいという小さな……トロッコなんだよ。近くで見たら。


「レールを設置しなければジェットコースターなんてあんなものだぞ?」


 ……そもそもレールの無いジェットコースターを僕は知らない。まぁジェットコースター自体乗るのは……多分二回目かな。


「うー、お姉ちゃんも身長制限でアウト」


 一応看板が立ってて注意事項が書いてある。列に沿っていくつも立てられてるけど……。


「……お父さんは体重制限で逆にアウトか。まぁバランスが崩れるから仕方無いか」


 ……つまり……残りは僕だけ?


「無理して並ばなくてもー」


「あ、結構回転は早いみたい。これならすぐに乗れそうよ、コウちゃん」

 

 ……いやいや。


「ほら、みんなが乗れないのに僕だけ乗るわけには」


「ちゃんとみんなで乗れるアトラクションもあるから気にするな。中々出来ない経験だぞ? レールの無いジェットコースターなんてな」


 ……いやいやいや。


「あのね、そのね、ほら……ね?」


「コウちゃん……男の子ならば臆せず立ち向かいなさい」


「……はい。逝ってきます」


 止めは母さんだった。僕の死刑宣告はこうして出されたのだ。


「ううー、まさかこんなショボいトロッコなんて思って無かったのにー」


 近くで見たらすごくショボい。使い古したトロッコって感じだった。遠くから見た感じだと茶色くてシックな感じに見えてたのに。


「ほらほら列に並んでコウちゃん。あ、側の女に声掛けたりしちゃダメよ?」


「……でもすごく見られてるんだけど?」


 実はさっきから列に並んでいるファンタジーさんからの熱視線を感じてた。ここでも新撰組は大人気ということなのか。すごいよ、ヒジカータ。百年以上も前の人なのに。


「あれは飢えたドラゴンよ。絶対に相手しちゃダメ。巣に連れ込んで食い散らすつもりよ」


 なにそれドラゴン超怖い。


「あらあらゲルちゃーん。ちょっとこっちにいらっしゃーい」


「げっ! やばっ!?」


 何故か狼狽する紅スライムと柔らかな物腰の碧スライム。


「うふふふ」


 母さんの笑い声に何故か悪寒を感じた。


「……なんか怒らせたみたいだけど何したの姉さん」


 母さんの震えかたがブルンブルンだ。あれはお怒りモードだ。スライム属は震えかたで己の気持ちを相手に伝えるんだ。


 ……多分ね。


「……な、何でも無いわ。じゃお姉ちゃんは少しお花を摘みに行ってくるわね」


「そんな婉曲な表現使わなくていいのに」


 スライムが排泄するなんて…………僕マジ知らない。二年も一緒に暮らしてるけど知らないよ? 


 そして姉さんは列から少し離れた母さんの元へと跳ねて行った。あの跳ね具合……かなりの緊張を孕んでると見た!


「あの二人はひとまず放置だ。で、コウは……どんなお姉さんが好きなんだ?」


 列に並んだ僕には父さんが付き添っていた。何で母さんを止めなかったのだろう。僕もあの母さんは絶対に止めないけど。


「……息子にそんなセクハラを求めるの? 父さん大丈夫?」


 父さんもテンションがアホな事になっていた。旅ってそういうとこあるよね。


「違う! ファンタジーさん達の圧力が強すぎるんだ。お父さんだってこんなことを聞きたい訳がないだろう」


「……確かにすごい圧力……というか……どんどん増してる?」


 前に居るファンタジーさんも、僕の後ろに並んでいるファンタジーさんもすっごい僕らを見てた。それこそドラゴンのような目で。


 ……どんな目? 


「……ああ、だからひとまず答えを出しておけば彼女達も落ち着くと思ってな」


「ぐぬぬ。またしても正論というか正道というか……でも好みかぁ」


 僕の好きなタイプ……。でんき、とか、くさ、とかは違うよね。


「ごくり」


「ごくり」


「ぺろり」


「急げコウ! やつらは我慢が効かん!」


 まるでゾンビに追われるパニック映画だ。足が震えるくらいに圧力がすごい。なにここ、死地なの?


「んーと。清楚で奥ゆかしい和風美人が好みです」


「「……ちっ!」」


 一斉に鳴らされた舌打ちはかなりの音量になった。僕も震えるくらいにね。


「……危なかった。なんて綱渡りをしやがるんだ」


 父さんは汗を拭っていたよ。


「いや、これしかないと思ったんだけど」


 あの姉で僕も鍛えられているのだ。何が鍛えられているのか、自分でも分からないけど。あの答えが正解だとビビッと来たんだ。きっとヒジカータの怨念のお陰だね。


「……確かに危険ではあるが有効だな。で、本当の所はどうなんだ? お姉ちゃんは合致してるのか?」


「……姉さんは家族だよ? 父さん大丈夫?」


 合致しても姉なのに。


「……ぐっ、お父さんは自分の心にダメージを負ったぞ。そのまっすぐな瞳……お父さんは……ぐっ」


「父さん大丈夫? ねぇ、本当に大丈夫?」


「ぐあっ! マイサンの無垢な瞳が痛い! 痛いぞぉぉ!」


 きっと父さんは疲れてるんだ。大人って大変だもんね。きっと魔法少女になったおじさんも、今頃はお星様になってこの星をキラキラと照らしてるんだ。


 う~ん、メルヘン! 


 と、現実から逃げてた僕だけど、やっぱりファンタジーさんはファンタジーさんなんだよね。


「……ねぇ、君……私と一緒に乗らない?」

 

 またしても声を掛けられた。ファンタジーさんはしぶとい。今度は真後ろに並んでいたお姉さんだった。でもそのお姉さん……下半身が蛇だったの。上半身はちゃんと服を着ててスカートも履いてたんだけど……蛇だったの。お顔にも蛇っぽさがちらほら。


「……ほぇ? お姉さん……ウロコが……」


 ここまで異種族感が強い人は僕も初めて……いや、スライムに勝るものはないな。このぐらい普通だ、普通。ウロコごときでは怯まぬ! 拙者ヒジカータゆえ。


「あ、ちょっとコウは待っててな。お父さんが交渉するから」


 慌てた様子の父さんが蛇姉さんの手を引き、列から離れた所に連れていった。なんか……犯罪臭をそこに感じたよ。蛇お姉さん……身長が低めだったからさ。まぁ僕よりは高いけど。


「うっ、流石の私も親子丼は……え? ええ!?」


「だからな? ……ごにょごにょ……で、ごにょごにょなんだよ」


 よく聞こえないけど、蛇お姉さんは驚いていた。父さんは……多分あとで母さんにまた右フックだろう。密着しすぎだ。でも何を話してるのかさっぱりだった。親子丼って……お昼の誘いでもしたのか父さん。そして蛇だから親子丼なのだろうか。


 蛇って玉子好きだし。僕も好きだなー、親子丼。トロトロではなくてちゃんと固めた奴。玉ねぎがやっこいのが好きー。


「そんな……だってごにょごにょよ? ごにょごにょしたいに決まってるでしょ!」


「黙れ馬鹿もん。ごにょごにょでごにょごにょ……されたいのか?」


 相変わらず犯罪臭が強い会話は続いている。父さん……確実に母さんに右フックされるよ。


「ねぇねぇ、君。お姉さんと二人っきりで乗っちゃう? 今ならお姉さん……えっと実は男の子と話すの初めてで、その……これからどうしたらいいの?」 


「僕に聞かれましても……」 


 今度は僕の前に並んでたお姉さんが振り向いて話しかけてきた。このお姉さんは普通だった。普通に胸が八つあった。しかも巨乳。ちょっと涙ぐんでるおっぱいだった。


 おっぱいがいっぱいだー!


 いや、この時の僕はちょっとおかしくなってたんだ。僕は悪くないもん。


「あのね私……男の人が苦手で。ど、どんな顔でどんな話をしたらいいのか分からなくて、その……はぅ」


 おっぱいお姉さんは可愛い人だった。


「……うん、僕もどこを見て話せばいいのかさっぱりだよ。とりあえず目を見て話すしかないね。お姉さんの瞳って……猫?」


 金の白目に黒の瞳孔……まん丸おめめですごく綺麗だった。


「ふぇ!? な、何でそれを!?」


 おっぱいお姉さんは体を反らして驚いていた。


「あ、綺麗だよ? もしかしてタブー的な発言だったとか?」


 スライムに対してこのゼラチン野郎! というのと同じで激怒させるポイントだったのか。まぁ僕はそんなこと言ったこと無いけど。お姉さんのまん丸おめめが更にまん丸になった……気がした。


 胸がプルプルしてたのは多分気のせい。すごかった。


「……ううん。大丈夫。むしろ嬉しいよ。もしかして君ってハーフなの?」


 ハーフ……格好いい響き。でも僕は純粋な日本人。黒髪黒目のヒジカータ。お姉さんは可愛らしく首をコテンと倒して聞いてきた。その衝撃で八つの胸が震えた。またしてもすごいことになっていた。


「……え? あ、はい、ハーフ……いや、分からないです、はい。父さんはあそこの大きいのだけど、母さんは……産みの母親に関しては何も知らなくて」


 こんなファンタジーさんは初めてだった。顔が一気に熱くなるのを感じた。胸もドキドキしてたし。汗が体中から吹き出たよ。なんて威力だ、ヤマタノおっぱい。


「そっか。じゃあ私からは何も言えない。ごめんね」


「……えっと……」


 おっぱいお姉さんは動く度に八つの胸がポヨンと動いて……。


「こっちのお嬢さんはまともだったか。済まない」


 父さんが帰ってきた。後ろにはガッカリした様子の蛇お姉さんも居た。すごすごとまた列に戻ったけど僕を見ようともしなかった。なにごと?


「いえ、むしろこちらこそ……その、ご免なさい。……え、この人本当に人間なの?」


 おっぱいさんは父さんを二度見した。その気持ち……僕も分かる。


「……乳です……あ、違う。父親です」


 確かにすごいマッスルだけど、一応人間……だよね、父さんは。


「……あ。…………ああーっ! み、見てましたね!? 私のおっぱい……見ましたね!?」


 おっぱいさんに火が着いた。慌てふためき、すごい事になっていた。ヤマタノおっぱい。


「……コウ? どういうことだ?」


 父さんの瞳が険をはらむ。


「……お姉さんの瞳って綺麗デスヨネー」


 僕はそれを無視するしかない。


「ううーっ! 見た! その反応は絶対に見た!」


 おっぱいさんの瞳は涙を湛えてうるうるしていた。


「……コウ。説明しなさい。お父さん、怒らないから」


「……いや、見れば分かるじゃん?」


 むしろ説明させることは拷問に当たるのでは? それに絶対に怒る奴だ。


「やっぱり見た! どうせ気持ち悪いとか思ってるんだー! わーん!」

  

 おっぱいさんは泣き出した。僕もこのときはオロオロした。


「……コウ。説明」


 父さんの気配が有無を言わせぬものになった。これにはヒジカータも完敗さ。


「お姉さん……僕は男なんだ。だからお姉さんの八つのおっぱいに感動して……その、ごめんなさい。ガン見してました。すごく立派で目が離せなくなりました」


 だってポヨンって。動く度にポヨンて。ヒジカータは男の子だもん。


「わーん! やっぱりー! …………へ?」


「……コウ? 八つのおっぱいって……何だ?」


「……いや、このお姉さんのおっぱいだよ? 八つ並んでるじゃん。全部巨乳でプルンて」


「……そう……なのか?」


 父さんは何故かおっぱいさんにおっぱいの確認をした。父さんにも見えてただろうに。あのポヨンが。今のポインが。


「…………はい。でも……気持ち悪くないの? だって人間は……普通二つしか膨らまないし」


「……あの、その……おっぱい万歳としか」


 僕も自分にこんな性癖があったことに驚いたけど……おっぱいは尊い。それは数が増えても変わらない。僕はそれを自覚したよ。


「……うん、俺も同感だ。おっぱい万歳だ」


「ふぇ!? う、噂に聞いてたおっぱい星人ですか!? しかも親子で!? そんな……本当に実在したなんて」


「あ、いや、普通に地球人でおっぱいが好きなだけだ。しかし……いや、俺には見えんな」


 父さんは日和った。


「……確かに母さんの手前、そう言うしかないよね。お姉さん……えっと、ごめんなさい。デリカシーに欠けてました」


 人のおっぱいをガン見するのは確かにルール違反。人としてそれは駄目な行為だ。分かっていた。でも僕の目はそこから離れなかったんだ。八つのロマンがそこにはあった。だからどんな事を言われても……僕は受け入れるつもりだった。


 おっぱい万歳。それこそが全てだったのだから。

 


「…………あの、お父様? その……私はその……どうしたらいいんでしょうか。私、その、嬉しすぎて……」


「だらっしゃー! この乳お化けめぇぇー! ちょっと目を離すとこれかぁぁ!」


 それは紅い彗星。それは僕の姉。それは紅いスライム。紅い砲弾が叫びながら僕らの元へと飛んできた。それは勢いを殺すことなくおっぱいさんの顔面にぶち当たり……おっぱいさんごと溶岩の湖へとぶっ飛んでいった。


「……ファンタジーさんてすごいよね」


「……ああ、そうだな」


 残されたのは僕と父さん。僕は……はっきりと見てしまった。おっぱいさんの八つのおっぱいがブルルンと震えていたのを。きっと父さんもガン見しただろう。


 ……すごかった。鼻血が出てないのが不思議だった。


「あらあら……あなた? それに……コウちゃん?」


 この時僕と父さんは同時にビクっとしたらしい。背後からの優しい声にね。


「ふ、不可抗力を主張する」


「僕も」


 僕たち親子は背後に居るだろう碧のプルプルに怯えていた。振り返る事も出来ずにね。


「……コウちゃん? ほら、そろそろ順番が来たようです。勿論一人乗りで絶対最凶コースを選びますよね?」


 色々してる内に本当にマグマコースターの順番が来ていた。微妙な顔のスタッフさんがぎこちない笑みを浮かべていた。


「そんなコースあるの!? え、いや、僕はあのおっぱいさんと乗ろうかなって」


 丁度マグマから上がってきたみたいだし。姉さんも一緒だけど頭に取りついてなんか暴れてるように見えていた。やっぱりマグマでも大丈夫なんだね、ファンタジーさんは。


 すごいよ、ファンタジー。


 でも僕の背後もファンタジー……振り返ると……そこにはやっぱり母さんが。


「一人で……乗りますよね?」


 それは震えすら止めたスライムのファンタジー。


「……はい。乗ります」


 僕は……負けてしまった。母さんに……暴力に完敗したんだ。ぐすっ。


「……コウ。強く生きろ」


「……うん。僕……強くなるよ」


 父と僕の関係はこの時、より深まった気がする。きっと大人になるってこういうことなんだろう。


 という感じで終わらせて列をひっそりと離れようとしたんだけどさ。


「コウちゃん」


「……ほら、僕も身長制限がさ」


 僕……ちっこいし。駄目な感じに見えなくもないと思ったんだ。


「見苦しい! さっさと乗らんか!」


「はいぃぃぃ!」


 ぶちギレた母さんは普通に怖かった。僕は恐怖に押され、目の前にまで来ていたトロッコに飛び乗った。飛び乗っちゃったの。そして気付いた。


「あの、これ……手すりとか無いんですけど?」


 トロッコの中は普通にトロッコだった。座席も無ければレバーも無し。安全装置なんてものもない……普通のトロッコだった。


「そういう仕様ですので。中で腕と足をグッ! と突っ張ることでヤバイ時を耐えてくださいねー」


 ……正直この時僕は降りるべきだったのだろう。たとえ母さんの怒りを受けたとしても。やたらと笑顔なスタッフのお姉さんに殺意を覚えていたとしても。


 でも……すぐに動き出したのよ、トロッコが。


「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 いきなりかっ飛んで僕はトロッコの中でスッ転んだ。そして……浮いた。フワリどころじゃなくてトロッコの縁までボディが出た。周りは一面溶岩で満たされてた。すごくよく見えた。見えてしまった。足場なんて存在しない。ボコボコと音が聞こえた気もする。全てがスローモーションに感じた。


 そして……ヤバイ、死ぬ! そう感じた瞬間に手と足が出た。人間って死の間際に力を発揮するって本当だったんだね。


 ガッ! と来てグッ! だったよ。


 でも……マグマコースターはそこからが本番だったんだ。


 これに関しては実は記憶がほとんど残ってない。ただ……チビりそうになってた事と足と手が降りたあともずっとプルプルしてたことだけは覚えてる。


 あと前髪が焦げてた。


 くくく、ファンタジーさんの恐ろしさを思い知ったか。


 ガチな話になりますが人間も哺乳類の名残で副乳という物があります。まぁ、今も哺乳類なんで、おっぱいがいっぱいでもおかしくはないんですよ。


 

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