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第13プルプル 父と母

 やぁ! 十三話だよ。挿話っぽいから短いよ。


「それで……あなた。仕事場の方は大丈夫なの?」


「ああ、全部終わってる。遅きに失したがな」


 息子の黒歴史鑑賞会を終えた俺達は仲良く二人でテーブルに着きお茶を飲んでいた。俺に寄り添うように椅子に座るのは透明な肉体を持つ碧色の美女。まぁあれだ。ラブワイフだ。


「もっと早くに事を起こせれば良かったんだが……」


 俺は後悔していた。あんなにも闇に堕ちたコウは初めてだったのだから。


「……コウちゃんがあんなに溜め込んでいたなんて私も分からなかった。あなたも出来ることをしてきたの。自分を責めては駄目よ」


 腕に抱き着き柔らかさと温もり、そしてプルプル感を伝えてくるのは俺の愛妻、田中ジェルである。今はコウが居ないのでいつもの姿でラブラブだ。


「……分かっているさ。コウのお陰で全てが丸く収まったことも。息子を贄にした自分は最低の父親であることもな」


 分かってはいた。しかしそれでも俺は落ち込んでいた。


「あなた……てい!」


 透明な拳が可愛い掛け声と共に横っ腹に突き刺さる。


「かはっ!」


 空間に響く鈍い音がした。体が()の字に折り曲がった。テーブルに突っ伏して痙攣が止まらない。


「今更後悔をしてる場合ですか。全てはあの時に覚悟したことでしょう。ならばこの先、成すべき事を成すしかありませんよ」


 碧色のプルプル透け透け美女は厳しかった。母さんマジ母ちゃん。


「……う、はい。すいません」


 まぁ力関係的にこうなるのはいつもの事だ。俺はいつもこの頼もしい妻に支えられている。


「それと……コウちゃんは目覚めつつあります。いえ、もう完全に覚醒しているかもしれません」


「……なに? 早すぎないか? だってそれは……」


 ちょっと覚醒とか恥ずかしい単語だが本当にそう言うのだから仕方無い。


「コウちゃんも大人になった、という事でしょう。今回の事件も大人になるための通過儀礼……というものでしょうし」


「いや、本人は絶対に認めないぞ? あと人間にはそんな適当な試練なんて無いからな?」


 ファンタジーな存在と違って人間にはそんな都合のいい物はない。もっとも、生きること全てが試練とも言えるが……それは流石に厳しすぎるだろう。


 脇腹を押さえてのささやかな抗議だ。超痛い。


「ですが今回の事でコウちゃんはまた一歩素敵な男性に近付きましたよ? あとはあなたのように立派な体になれば良いのですが」


 思案する妻には悪いがそれに関しては流石に手出し出来ない。


「そこは遺伝の関係だろう。俺は小さい頃から体が大きかったからな」


 コウは小さい頃から小さかった。それはもう可愛らしくて、お父さんは隠し撮りしまくったからな。まぁ普通に撮ったのも膨大にあるが。


「……いっそ筋肉増強剤と成長促進剤を……」


「……止めてくれ。ムキムキのコウは見たくない」


 妻の暴挙は止めねばならん。何故に妻はこうなのか……。


「そうですか? 世の女性は、こぞってムキムキの筋肉に群がると、この前テレビで……」


「それは当てにならない情報だからな? ……まぁ人間社会に馴染んでいるようで何よりだけどな」


 本当に……もう二年も経つのだ。この妻と結婚してから。長いようであっという間だったな。


「もう何年も人の中で暮らしてますからね。それよりも……コウちゃんは私の擬態を看破しているようですよ? どうします?」


「……看破されたのか」


 いずれはそうなる。それは分かっていた。その時は……コウを大人として扱わないと駄目だろう。父として嬉しくもあり、また悲しくもある。羽ばたく子供に親は……見守る事しか出来ないのだ。


「一時的に出力を上げて誤魔化しました。既にかなりの『眼』になっていますね。一般の娘達なら完全にバレています。そこに限れば完全に覚醒してると言えるでしょう」


 ……マジかー。お父さん……息子の成長にガチで泣いちゃうぞ?


「……そうか。そうなると打ち明けるのも時間の問題だったのか」


 今回の事態はその予行演習になった形だ。しかしいずれは話すとしても……。


「ええ、その対応で動いていたのが裏目に出ました。まさかあんなに積極的な家出をするなんて」


「……男の子はそういうもんだぞ? 流石にペット発言には驚いたが」


 俺も若い頃はブイブイ言わせたもんだ。でもペット発言はしたことねぇな。


「……どうして止めなかったのですか」


 碧色の透明な拳がラッシュを始めた。体が跳ねる。


「ごふっ! ぐっ! は、話を……」


「あなたの甘えと傲慢が此度の原因の一つなのですよ! 罰としてしばらくの間はパクチー祭りです」


 妻の断罪は俺にイカズチの如き衝撃を与えた。


「なにぃぃぃ! あんなの世界に必要無いだろうがぁぁぁぁ! あんな臭いブツゥゥゥゥゥ!」


「お黙りなさい。好き嫌いはいけないと何度も言っているでしょう?」


 オカンだ。オカンモードの妻だがそれだけは譲らん!


「駄目だ! あいつだけは駄目なんだ! あいつと俺は不倶戴天の仲なんだ! しかもあいつ、コリアンダーとかお洒落な名前も持っているんだぞ!? 信じられるか!? あんなカメムシ野郎のくせにコリアンダーなんだぞ!?」


 本当に信じられん野郎だ! あれで若い女子に人気とか抜かしてやがるんだぞ!


「……てい」


「がばはっ!」


 抜き手が……抜き手が喉に……。


「栄養価はすこぶる良いのです。確かに臭いはきついですけどね」


 臭いと言うか、もはやあれはテロだろ。


「……ぐふっ、だが……パクチーは認めん……認めんぞぉぉぉぉ!」

 

「……はぁ。本当にそっくりな親子ですこと」


 ため息ついて呆れている妻は、それでもやはり綺麗であった。結婚から二年。それ以前からも長い付き合いではあるけれど。


「あと、母さんや」


 せめてこれだけはちゃんと言っておきたい。喉が超痛いけど。


「何ですか?」


「せめて服は着てくれないかな」


 全裸なんだよなぁ。家庭内と言うか常時全裸でお父さんはいつもドキドキなんだ。プルプルで透け透けで……お父さん、本当に困るんだ。


「……えっち」


「ぐぶっ!」


 照れ隠しのスライムパンチ。それは愛する妻の愛の証しでもある……のかなぁ。


 最初のプロット、つまり物語の荒削り段階ではここで終わりでした。


『せめて服は着てくれないか』


 これで締めるはずだったんです。お父さんの台詞で。オチはこれだったんです。


 だからまだ終わりじゃないんですよ?


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