表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第一話 夕日に照らされて ①

 夕方、ジーパンにTシャツ姿の若いやせた男が暗い裏路地を走っていく。 ずれた眼鏡も直さず必死に走るその姿は、まるで何かに追われているかのように見える。 否、は実際に追われているのだ。


「ハァッ、ハァッ!どうして俺がこんな目に――!」


 いくつか角を曲がったところで、前方を壁が塞いでいた。


「ち、畜生!!」


 慌てて周囲を見るが壁に囲まれており、取っ掛かりも少なくて登れそうな高さではない。 走ってきた方向から2人分の足音が聞こえてくる。 1つはコツコツと革靴が歩く足音、もう1つはぺたぺたと子供が歩くような足音が一緒に聞こえてくる。

角を曲がって姿を現したのは、子連れの男だった。 ほっそりとした長身の男で、痩けた頬に大きな隈があり、不健康な印象をうける男だ。

 一緒にいる少女は幼く、5歳くらいに見える。 女の子は4月下旬にも関わらずスタイルに合わないぶかぶかのコートで脛付近まで体を隠して、裸足というおかしな格好をしていた。


「話してくれる気になったか?」

「だ、だから知らないって言ってるだろ!」


 若者は質問に返答しながら、じりじりと壁に向かって後ずさる。 

 やりなさい……。 と、男が疲れた声色で少女に呟く。

少女は頼まれると――うん、パパ! と、嬉しそうな顔をして、若者に近づいていく。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!知ってるやつを教えるからやめてくれ!!」

「……誰だい?」

「逆式 圭介

さかしき けいすけ

っていう、すまし顔の奴だ! 上の連中とも仲が良いし、知ってるかもしれない」

「っ! 逆式……」

「あんたももしかして知ってるのか? だったら話は早い! 奴も休暇を取ってるから、町をぶらついてるはずだ!!」


 だからやめてくれ! と、懇願してくる若者を少し眺める。 聞き覚えのある名前を頭の中で反芻させて、この若者を見逃すことで生じる今後の計画をしばし考え、結論を出す。


「では、君の話を信じよう」

「ほ、本当か!よかった――」


 その言葉に安堵した若者は胸をなでおろす。 へなへなと地べたに座り込む若者を、ゆっくりと大きな影が覆った。

 へ……? と、若者が見上げると獅子の頭、ヤギの胴体、蛇の尾を持つ異形の存在がいた。 ソレは口から涎を垂らしながら、若者に鼻を近づけその周囲一帯の匂いを嗅ぐ。 おぞましい怪物を見た若者は、ズルズルと後退りしようとするも、すぐに壁際に追いつめられる。


「な、なんでだよ!?」


若者はゆっくりと唸りながら近づいてくる怪物を指さす。


「なにかね?」

「正直に言ったじゃないか!約束が違うだろう!!」

「あぁ、そうだったな……やれ」


 男は、若者と怪物に背を向け告げる。 その言葉に怪物は反応し、猫科特有の跳躍で若者に覆いかぶさる。


「約束もしていなければ、我々の顔を見た君を生かしておく道理もない」

「や、やめろぉぉぉぉぉ!!」


 大きな何かが暴れる音と、どんどん小さくなっていく悲鳴をBGMに男はその場から去る。


「逆式、貴様だけは……」


 去り際に呟いたその顔は、怒りに満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ