第?話 はじめのいっぽ
セーラー服姿の少女が、凶弾で負傷した俺を胸に抱きしめ、周りをはばからず泣いていた。
「――パイ、――センパイ! 先輩!!」
つい一時間前まで白で統一されていた殺風景な廊下は見る影もなく。
周囲には破壊されたバケツ型の防衛ロボットの残骸や、重傷を負った警備員たちが倒れ伏している。
「ヨ……ルカ……」
胸の傷は相当深いようで、とめどなく血が流れていた。 はじめは激痛で熱さを感じたが、いまは手足の先からどんどん感覚がなくなって、寒さを感じ始めてくる……。
「先輩、どうして……どうして私なんかのために……」
本当に、優しい子だな……。 と、俺は心の中で呟く。 いろんな表情を見せてくれたし、出会ってまだ一週間も経っていないこんな俺のために泣いてくれている。
そんな女の子だから、不死身――アイツの口からは、確かにそう言葉は聞いた――と知っていてもつい体が動いて庇ってしまった……。 まぁ、どんな奴にたいしても俺は同じ行動するかもしれないが――。
それにしても、こんな近くで華蓮の顔を見たのは初めてかもしれない。 血のような真紅の瞳は潤み、目からは涙がとめどなく溢れ、赤くなった頬を伝い俺の顔に落ちていた。 艶がかった黒髪が時おり俺の顔に掛かり、撫でられているような安心感を覚える。
少し幼さを感じる綺麗な顔立ちだが、シミひとつない頬には俺が撃たれた時に飛び散った血が付着しており、俺を抱きしめる手や服は真っ赤に染まり、華蓮を自分の血で汚すことに罪悪感を覚えた。
「スマ、ン……ありがと、な」
言いたいことは……伝えたいことはいろいろあったが、体力も気力も打ち止めらしい。 薄れゆく意識の中、最期に見る光景が可愛い女の子ということに幸福感を覚えつつ、その人生の幕を閉じた。
『一つだけ、方法がありますが――?』
否、人としての生涯を終えた。