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わんもあげ~む  作者: 夜咲ひつぎ
3/4

ガイスター

 年度初めの諸々の準備のためまだ授業はなく、正午過ぎには教室から解放された。

 入部二日目であるが俺も立派なボドゲ部員。今日も今日とて部室へ行くと教室の中央に置かれたテーブルの奥で、足を組んで椅子に座っている男が一人。

「えっと、どちら様ですか?」

「ふっ」

男はただ不敵に笑う。

「俺達が語るのは盤上で。そうだろ?」

 そしてキリッと白い歯をのぞかせるながら羽織った学ランを翻した。なんだこの人……?

 ゲーム置き場となっているらしいロッカーから大きめの箱が引っ張り出された。男はやけに慣れた手つきだったので、もしかしたら部員の人かもしれない。不審者とか思ってごめんなさい。

 用意されたゲームはガイスター。ドイツ産のボードゲームでかなり心理戦要素が強いゲームである。


準備するもの

良いお化けの駒 8 (青色の印)

悪いお化けの駒 8 (赤色の印)

※駒の印は自分にのみ見えるようになっている

縦横6マスの盤


ゲームの進行

まず八個の駒を、中央四列の手前二マス内に好きなように並べる。

駒は全て前後左右に動くことができ、一手交代で駒を動かす。

進路上に相手の駒がある場合はそれを取れる。取ったあとはその駒の印を確認できる。

進路上に味方の駒がある場合その方向には動けない


勝利条件

相手の良いお化けを全て取る

自分の悪いお化けを全て取らせる

自分の良いお化けを相手側にある最奥両端のマスのいずれかから脱出させる。

※そのマスに置いた次のターン、その駒がいいお化けなら脱出し、勝利となる。


敗北条件

自分の良いお化けを全て取られる

相手の悪いお化けを全て取る

相手の良いお化けを自分側にある手前の両端にマスのいずれかから脱出される。

 準備が終わるとすぐさま男が駒を並べ始めたので、俺も流されるままについ駒を手に取ってしまった。

 俺の方は前が全て悪いお化けで後ろにいいお化けを固めた配置となっている。

「先行は譲ってやろう」

「……どうも」

 右前の駒を前に動かすと、男はその目の前に駒を進めた。

序盤から強気な手。取られる可能性を考えるとここで良いお化けを前に出すとは考えづらい。とりあえず無視することにして一つ右に動かした。


×  ×  ×


数手進んで状況は、俺が良い駒を一、悪い駒を一取っており、相手が良い駒悪い駒ともに二枚ずつ取っている。そして男は、たった今悪い駒の三枚目を取った。これで俺は自分の悪い駒を取らせれば勝利となる。

盤面は駒数の少ない俺が自陣に押し込まれるような状況になっている。流石に数の差が付きすぎているので相手の駒を一つ取る。相手の駒と隣接しているが、向こうは悪い駒であることを考えればかなり取り返しづらいはず。

 だが男はそんなこと構いもせずにすぐさま俺の駒を掴んだ。その裏は、青色。

 男がノータイムで選択したことに俺は戸惑いを隠せないでいた。

 適当?それとも読んでいたのか?

 相手はこれまでかなり積極的に駒を取ってきている。一見危険な行為だが、悪い駒が一つでもわかっていれば、他の駒はすべてとっても構わないので結局ノーリスクとなる。

 つまり今の一手は『お前の駒は全部わかっている』という意志表示という可能性もある。

 ……さて、どっちだ?

 俺が顔を上げると、男は大きく口を歪ませた。しかしその目は笑っておらず、冷たい視線が俺を射抜く。すべてを見透かされるようなその視線に耐えられず、俺は再び盤上を見た。

 いや、ブラフだ。

 俺は自分の悪いお化けの駒を力強く前に出した。男が取った瞬間、俺の勝利となる。

 さあどうする?

 再び男に顔を向けた瞬間、今度は目の動きを伴った不気味な笑みを浮かべた。それを見た俺の脳裏に嫌な予感が浮かんだ。

あの表情には覚えがある。相手が自らの策に嵌まり、勝利を確信したときの最高にボドゲを楽しんでいる目。

予感は寸分違わず、男は俺の今動かした駒以外の駒を取るために陣形を組んだ。

数でも読みでも負けている俺にもはや勝ち目はない。

 ……この人、相当強い。少なくとも、間違いなく俺よりは圧倒的に。


 さらに数手進んで、俺は相手の良いお化けの脱出を止めることができなくなり、決着がついた。

「完敗です。強いですね」

「まあ流石に新人に負けるわけにはいかんからな」

「新人?」

 その時、部室の扉が勢いよく開かれた。

「こんちは~、ってあー……」

「ちょっと桐生さん、またやってる!」

 扉の奥から現れた入江先輩が何かを察して嘆息を漏らし。麻野先輩が男に詰め寄った。それを男は飄々とした態度で受け流す。

「共有物なんだからいいだろ」

「道具はいいですけどこっちですこっち!大事な新入部員ですよ!それをなにまた苛めてくれてるんですか!」

「いや、割と接戦だったし?」

「知りません!」

 あれだけ一方的に勝っておいて接戦なんてどの口が言うんだか……。

 先輩二人の後ろにいた平野さんが、そっと俺の横の椅子に腰を下ろす。

「これ、どういう状況?」

「えっと――」

 平野さんに聞いたところ、どうやら今目の前で怒られている男はボドゲ部現部長。れっきとした先輩だったらしい。

そして先日、俺が入部を決めたあの日、ボドゲ部を訪れた平野さんを容赦なくボコボコにして麻野先輩に大目玉を受け、部室から一旦追い出された。それから俺がその穴を埋める形になったとのこと。

「手加減するのは俺のポリシーに反するんだよ!」

「ならせめてもうちょっと運要素があるゲームにすればいいじゃないでしょ!何でよりによってこれなんですか!」

「圧勝しとかねえと部長としての威厳が「そんなの初めからありません!」ひでぇ!」

 なおも言い争う二人に俺も平野さんも不安を覚えたところ、入江先輩が俺たちに顔を寄せた。

「いつものことだからあんまり気にしなくていいよ」

 それから入江先輩は二人の仲裁に入った。

「ほら、二人が見てるから」

「ぐっ……。でも桐生先輩はもうちょっと相手を考えてください……」

「わかってるって」

「うわぁ、信用できねぇ」

「なにおう!」

 喧嘩しているように見えるがその実三人ともどこか楽しそうで、俺はほっと胸を撫で下ろす。

 ようやく二人が落ち着いたところで、俺は部長に話しかけた。

「部長、ですよね?」

「おう、俺が遊戯部部長、桐生快斗だ」

「もう一回やりませんか?」

 勝負中ずっと、笑う以外表情を変えなかった部長が初めて驚きに顔を歪めた。しかしそれも束の間、また不敵に口元を揺らす。

「おし、かかって来い。何度でも相手してやる」


ちなみに他の人達ともやってみたが、平野さんがびっくりするくらい弱かった。どうやら嘘を吐けないタイプらしく、素直な動きしかしてこなかった。

……それと、部長にはただの一度も勝てなかった。


暇なときに雑に回せる神ゲー、ガイスター。二人でできて時間もかからないのに熱い心理戦が楽しめます。

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