プロローグ
「野球部入りませんか!?坊主頭じゃなくても大丈夫だから!」
「テニス、テニスはどう?かわいい女子もいる!」
「ふふふっ、君も科学を探求してみないかい?」
「いえ、結構です……」
桜に彩られた校門をくぐると、そこにいるのはどこを見渡しても人のごみ。
俺がこの高校に入学してからすでに三回目の登校日で、今日から各部活の新入生勧誘が始まった。校門を通った矢先から息つく暇もなく先輩たちに呼びかけられては、全部に反応しているわけじゃなくても疲れてしまう。
自由を謳う校風なだけあって部活の数は多いが、どれもこれもいまいちピンとこない。せっかくなのだから何か一つくらい入ってみたいのだけど。
そう思いつつも人込みを避けて校舎の中に入り、駐輪場へと続く道を歩いていく。ただ漠然と何かをしたいという気持ちばかりがあって、そのくせ何もしようとしない。本当に悪い癖がついてしまったものだ。
外の喧騒とは裏腹に静寂が満ちた廊下に、コツコツと硬質な音を響かせていると、唐突に通りかかったところの扉が開いた。
「あ、君新入生?ちょっと時間あるかな?」
「え?はい。大丈夫ですけど……」
「ならよかった、こっち来て!」
急になんだ?と思った瞬間勢いよく手を引かれ、反応する間もなく室内に引きずりこまれてしまった。
「実里、新入生連れてきたぞ!」
男子生徒が大きな声で言うと、真ん中らへんで何かを話していた女生徒が呆れた顔で答えた。
「……あんたまた無理やり引っ張ってきたんじゃないでしょうね?」
「いやまさか」
『あんた』、と言われている人が惚けると、『実里』と呼ばれた女生徒は俺に疑問の目を向けた。
「えっと、どうなの?」
「少なくとも話は聞いてませんし、聞いてもらえませんでしたね」
「昴!!」
「だって……」
人差し指の先を突き合わせていじける昴?さん。そんな彼を眼中にも入れず、実里さんは俺に話しかけてきた。
「ごめんね、無理して付き合わなくていいから」
「いえ、時間はあるからいいんですが……、そもそも俺はなんで呼ばれたんですか?」
「ええ、ちょっと人数が足りなくてね……」
実里さんは指で教室の中央を指す。そこにはそこそこ大きな四角い机と椅子、そして体を縮こまらせた小柄な女の子の姿があった。
テーブルの上には白黒のカードと何かのパッケージが並べられている。
「あれはボードゲームですか?」
「そ、アルゴっていうの。もしかしてやったことある?」
「昔に何回か」
確か父さんが教育にいいとか何とかで狩ってきたんだったか。最近はやることもなくなり、物置の奥に眠ってしまっているが。
「もしよかったらやっていかない?」
「そういうことならわかりました」
「ほんと!?ありがとう!えっと……」
「深月です」
「よろしくね深月君」
それから麻乃先輩に連れられて部屋の中央に進んで椅子に座った。
「とりあえず自己紹介しよっか。私は麻乃実里、よろしくね」
「俺は入江昴だ!よろしくな」
「じゃあ次は深月君お願い」
おそらく先輩の二人の紹介が終わると、今度は俺の番になった
「深月悠ですよろしくお願いします」
飾り気もクソもない簡素な自己紹介だけど、あいにくここでネタを入れられるほどのコミュ力もなければユーモアもない。
「じゃあ最後は平井さん」
「は、はい!」
「平井唯です。よろしくお願いしますっ!」
平井さんは多分俺と同じ一年生だろう。制服が新品特有のツヤを保っていたからだ。
「早速始めよっか。ルール説明するね」
そう言いながら麻乃先輩はモノクロのカードをくみ始めた。
書きたくなったので書きました。文字という媒体でどこまでできるかはわかりませんが、ボドゲの楽しさを布教できればと思います