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これが最後の僕の嘘  作者: PeDaLu
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これが最後の僕の嘘

「千景ちゃん。君にはよく遊んでした男の子が居るよね?」


「圭吾のこと?」


「そう。圭ちゃん。そして……」


「待て!その話はそこでおしまいだ」


「それじゃ僕の復讐は終わらないよ。君はそこで黙って見てるんだ」


「ふざけるな!うぉぉ!?……がはっ!!」


「落ち着きなよ」


なんだ?何が起きたんだ??地面に寝転がっている。いやに背中が痛い。


「大丈夫。綺麗に投げ飛ばしたから。受け身、取れないの?それだとちょっと痛いかな?」


「ふざけ……うぅっ!!」


「おとなしくそこで地面に這いつくばっていなよ」


「おっと、話が途中だったね。なに、そんなに怖がらなくてもいいさ。どうせコイツは……」


「やめろぉ!!!」


「うっ!!くっそ何をする!なぜ君が僕の邪魔をするんだ!」


「千景が困っていたからな。千景の敵は俺の敵だよ」


「元春か。サンキューな」


「間に合って良かった。で、コイツはどうするんだ?


「うがぁーっ!!死ね死ね死ね死ね!死ねぇ!!この人殺しが!なんでのうのうと生きてるんだ!この!」


「水野。本当の犯人は僕だよ。僕がサッカーボールを池に落とさなければ、君の妹も死ぬことは無かった」


「悪いのは全部僕だよ」


「圭吾、本当に良いの?」


「ああ。それが一番だ」


「千景!僕は誰だ!?」


「え?圭吾、でしょ?」


「そうだ。僕は圭吾だ。圭一じゃない!」


「え?うん。だから圭吾。圭吾は圭吾。私の大好きな圭吾」


「そうだ。僕は圭吾だ。水野、あの時池に落ちたのは圭一兄さんであって僕じゃない」


「嘘だ……じゃあなんで僕の妹は死んだんだ?そんな!千景ぇっ!お前が嘘なんてつかなければ!」


「嘘じゃないさ。千景は嘘なんてついてない。僕は圭吾さ。水野は池に落ちたのは圭吾で助かったのは圭一だと思ってるんだろ?違うよ。僕は圭吾だ。圭一になりすまた圭吾じゃない。僕が圭吾だ」


「じゃ、じゃあ、妹の手術適合拒否で死んだのは……」


「こんなことを言うのはあれだけど、千景のせいじゃない。妹を亡くして悲しいのは分かる、でも僕も兄を亡くしている。とても悲しいことだ。分かってくれ。だから千景にそんなことをして何になる?」


「僕は……僕は……妹に……小夜子になんて言えばいいんだ……!」


「なにも言わなくてもいいさ。水野が生きてさえ居ればそれでいいと言ってくれるさ」


水野は自分がここまで生きてきた意味を失って膝をついて天を仰いでいる。


「さて。ここまでは良いけど。問題は千景だな。千丸。そのサッカーボール貸してくれ」


千景は目の前で何が起きたのかわからずに少々怯えている。そりゃそうだ。あんなことがあれば誰だってそうなるさ。


「千景。このサッカーボールに見覚えはあるか?」


「ない」


「それじゃ、こうしたらどうだ?」


僕は目の前の池にサッカーボールを投げ入れた。


「どうだ?」


「あ……ああ……」


千景は両手でこめかみを押さえてガクガク震えだした。


「思い出すんだ。これは重要なことだ。ちょっと怖いけど、大丈夫だ。僕がいる」


「ああ……けー……ちゃん……」


「そうだ。思い出すんだ。悲しいけど、怖いけど。思い出すんだ」


そう。あの時、千景が蹴ったサッカーボールが池に落ちだんだ。それを取りに行った双子の兄弟は池に入った。思ったより泥がすごくて歩きにくて。そしてあんなに深いとは思っていなかったんだ。


「け、圭吾!!」


「けーにい!すぐに引き返して!こっち深い!水草が足に絡まって……うっっぷ……!」


あの時に本当に溺れたのは圭吾だ。僕の弟。水野の妹の本当の移植適合者は僕。千景が溺れたの僕、圭吾じゃなくて圭一兄さんって言ったから。


千景は圭吾のことが大好きだった。あの事故があってから圭吾は死んでないってずっと泣いてて。僕は千景を救いたかった。あのままでは壊れてしまいそうな千景を助けたかった。


だからあの日から僕は圭一をやめて圭吾になったんだ。


「どうだい。思い出したかい?ここはあの悲しい事故があった場所だ。僕の兄さん、圭一兄さんが死んだ場所だ。千景は悲しい出来事だからってずっと胸に仕舞っていたのかもしてないけど、いつかは思い出さなきゃいけない時が来る。今の千景なら大丈夫。圭一兄さんもきっと千景のことを許してくれるさ」


「ひっぐ……ひっぐ……本当に?圭吾なんだよね?今、私の前に居るのは圭吾なんだよね!?」


「ああ。僕は圭吾だ」


「圭吾……圭吾……私……」


「大丈夫。大丈夫だから」


それから僕たちは水野を家に送り届けた後に、神名峰の家に集まった。両親の帰ってきていない家に千景を一人にしておくわけにはいかない。しばらくしたら千景は泣きつかれたのかベッドで眠ってしまった。


「ねぇ圭吾、本当にこれでよかったの?」


「ああ」


「だってお前、これじゃ……」


「分かってる」


「そんなにお辛い人生を選ばれるなんて……」


「千丸。そんなわけで、こんな僕でも付いて来てくれるかい?」


「仕方ないわね。買い物、沢山付き合ってよね」


「ああ。いいよ」



千景は圭吾なしでは生きていけない。


だから僕は圭一をやめたんだ。


千景が千景のままで居てくれるなら。


だから


これが最後の僕の嘘だ。

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