LⅩⅦ………少年の罪①(文化祭・二日目)
「――ワタシを殺して」
歌うようにそういうアキに対して、きっと僕はとんでもなく間抜けな顔をしていたに違いない。アキは僕の手を握ったまま、またからかうように笑って、続けた。
「フフフ、違ったわ。もうずっと前から殺されちゃってたのね、ワタシ。やっと今日気づけたの」
僕がアキを殺した? 何を言っているのか全く分からなかった。
雨はより一層酷くなって、まるで僕らの雨宿りを嘲笑っているかのよう。
そんな雨すら嘲笑うかのように、アキがくすくすとまだ笑う。
「もうワタシ、ずっと前からあなたに掴まっていたわ。絵でも額縁でもなく、心で。翔ぼうにも、羽を広げれば檻に当たってしまうの。あなたの言う通り、好きに空を翔べないワタシは、もう死んでいるのと一緒。でも、それでいい。翔太郎の心と共に、ワタシはずっと翔び続けるから」
アキは握った僕の手を、僕の胸に強く押し当てると、そのままパッと手を放してしまった。そして僕に背を向けると、一歩屋根の外に出てそのまま行ってしまおうとするから、寸前のところで腕を持って引き留めようとして、やっぱり止めた。何を言えばいいのか、何を言っていいのかわからなくなってしまったから。伸ばしかけた僕の手を察してか、彼女はそこで立ち止まる。一度俯いて、唾を飲み込んでやっと絞り出したのがその言葉だった。
「ごめんね」
今なら、全部わかる。その時に僕が何で謝ってしまったのか。手遅れながらに気づいたんだ、僕の罪に。『選んでしまった』という僕の罪に。ナツとアキが選ばれることを何よりも望みつつ、何よりも怖がっていたことを知りながら、選んでしまったという極罪に。
きっとアキも気づいていたんだろう。けれど優しい彼女はこちらを向かず、口角だけ上げて、その言葉を残したんだ。
「ありがとう―― 私のヒーロー」




