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サンセットオレンジ  作者: ななる
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LⅩⅡ………コンサートではお静かに①(文化祭・二日目)

「……本当にいいんですか? せっかく描いた絵が、その、こんなことになってしまったというのに」

 放送室にて田中生徒会長が心配そうにそう聞く。

 空き教室を出た後、僕はそのまま放送室に行ってサンセットオレンジが水浸しの状態で見つかったことを伝えた。そして同時に、他の生徒会の人や先生に伝えるのをやめて欲しいと頼んだのだ。

 会長は今度は険しい顔で僕に言った。

「あなたの絵をそうした犯人はまだ見つかっていないんですよ。絵が見つかったからもういいなんて、早計だと思います」

「お心遣いありがとうございます。けれど、大丈夫です。描いた僕が言うんですから、どうかこの件は無かったことにしてください」

 僕がそう言っても、会長はまだ不服そう。仕方ない。僕は苦笑いして言った。

「……実は、ちょっとした事故だったらしいんです。漫研の子が絵に飛び散った水しぶきを乾かそうと窓の外で絵をパタパタしていたら、つい手が滑ってそのまま上の階の窓に綺麗に入ってしまったみたいで……」

「そ、そんな馬鹿な……!」

 さ、さすがに厳しいかな。けれどこのまま突き通すしかない。

「その子、泣きじゃくってさっき教えてくれたんです。猛省しているようでしたし、僕もその子を犯人だなんて扱いしたくないですし、どうか穏便にすまないかなぁ、と思いまして」

 泣きじゃくっている架空の漫研部員が脳裏をよぎったのだろう。会長は「うーん」と唸って腕を組む。よし、あと一押しだ。僕は会長の耳元にそっと近寄った。他に誰もいないのに、彼女だけに聞こえるように、小さな声で。

「その子、こうも言っていました。『美術部の絵をこんな風にしたっていろんな人に知られたら、きっと柏木先輩にも嫌われてしまう』って……」

「あっ……」

 文化祭中に美術部で問題があったとすれば柏木真由が黙っていないことを察したのだろう。会長の顔色が見る見るうちに青ざめていく。いいぞいいぞ、恐れ慄け、柏木真由だぞ。

 会長は苦虫を嚙み潰したような顔をしてついに言った。

「わ、わかりました。では、この件は私まででとどめておきます。けれどまた何か問題が起こりましたら必ず報告してくださいね。それと……柏木先輩にはくれぐれも言わないように」

 僕がわざわざ言わなくてももう知っていそうだけど。それは言わずに、お礼だけ言って僕はまたその場を後にした。



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