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サンセットオレンジ  作者: ななる
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LⅨ………つかのま(文化祭・二日目)

「柏木さん、お疲れ様」

 ナツと廊下を歩いていたところで柏木さんとばったりと出会う。ナツが右手を挙げて笑う。

「よっ、柏木。白お化けマークⅡボルカニックカスタムしっかりなりきれたか?」

「完璧。白お化けマークⅡボルカニックカスタムそのものだった」

 だからそれなんだよ。かっこいいけど。

「一時間くらい前から漫研で倉田先生と阿立先生がお絵描き対決してるんだけど、その間にお昼休憩しようかなって。それで柏木さんを迎えに来てたとこ」

「ほら、今日は中庭にハンバーガー屋来てるだろ?あれみんなで食べようぜ」

 こくこくと頷く柏木さん。さっそく三人で移動する。

 僕が頼んだのがチーズバーガー、ナツがエビフィレオ、柏木さんがベーコンエッグバーガー。声をそろえていただきます、って合掌しそれぞれのバーガーを頬張る。

「そういえば、松本さんは今どうしてるんだろう?」

 最後に見たのは2-2教室の裏方。まさかまだ手伝いをしているわけではあるまい。

「ああ、優子なら気にしなくていいよ。今は忙しいはずだから」

 ナツが苦笑いで答える。そんなに大変なことなんてあっただろうか。漫研での先生たちの活躍によりそれなりに絵葉書は売れたけど、その場には松本さんはいなかったし。

 思えば真由先輩もあれから見てないな。意外と目立たないものだ。注意しなければ。

 満点の青空の下、ファストフードを食べながら過ごすのどかな時間。それでも僕は警戒を解くわけにはいかなかった。

「柏木ぃ、ソースが口についてるぞ」

 にやにや笑いながら、ナツが柏木さんの口元をぬぐう。

 柏木さんにとってファストフードは物珍しいらしく、つたないしぐさでハンバーガーに食らいつく姿は小動物のようで愛らしい。有名画家の娘だもんな。普段はいったいどんなものを食べているんだろう。

 時刻は午後一時ちょっと前。文化祭も残すところあと半日だ。

「二人はこの後どうするの?」

「とりあえずミスコンの時間は漫研に残って店番かな。たぶん柏木先輩も登場するだろうからって漫研部員ほぼ全員がそっち行くから、私が代わりにお留守番」

 真由先輩の謎人気はさておき、ナツは残るのか。柏木さんも続いて言う。

「私も千夏といる。ミスコンに興味ない。……たぶん漫研には私と千夏だけになると思う」

 最後やけに尻すぼみに柏木さんが言う。お客さんがミスコンに取られることが不服なんだろうか。それにしても二人とも残るのか。僕もそうした方が安全だろうか。

 一人悶々と考えていると、ナツが声を大にして言った。

「ショウタも一緒にどう?と言いたいところだけど、残念ながらそれは難しいみたいだ」

 え、なんで?と僕が聞く間もなく、肩に手がポンと置かれた。同時に柏木さんが顔を背け、ナツがケラケラと笑う。

 恐る恐る後ろを振り向くとそこにいたのは悪魔・真由先輩──ではなく、松本さんだった。それに僕を囲うように一定間隔に見慣れた漫研の部員たちが。嫌な予感がする。

 赤いフレームの眼鏡をギラリと光らせ邪悪な笑みを浮かべて言った。

「ごめんね?柏木先輩に頼まれちゃってさ──確保!」

 松本さんの号令と同時に僕に襲い掛かる漫研部員たち。逃げる間もなく拘束されてしまった。……漫研怖い。

 おまけに口にガムテープまで張られたから思うように叫べない。ここまでするか、普通。

「んーーっ!んーんーーっ!!」

「無駄だよ、三坂くん。いえ、みさりん!あなたは今日、ミスコンで伝説の星になるんだから!」

 みさりん言うな!だが、悲しいかな。この声すら誰にも届かない。

「それじゃ千夏、柏木さん。店番お願いね!絶対みさりんを優勝させて、絵葉書の宣伝大成功して見せるから!!」

「んーんーんーんーーっ!」

 助けての声も届かない。それどころか、ナツは縛られた僕を見て腹を抱えて笑い、柏木さんは「ばいばい」と一言。

 くそっ、みんなみんな敵だったなんて!!もう何も信じられないよ!

 全てをあきらめて、僕は静かに目を閉じた。

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