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サンセットオレンジ  作者: ななる
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LⅣ………青の時間から朝を運んで

 朝が始まる直前の、青の時間。夜が更けるその直前。日の光が顔を出すその直前。世界が淡い青に包まれる。

 昨夜も結局ほとんど寝られなかった。

 ついにはこうやって日の出の時間も外をぼんやり見ながら過ごしてしまった。

 今日を待ちわびながら、同時にどこかで今日が来ないことを願ってた。朝日が昇る、その瞬間まで。青の時間が終わる、その瞬間まで。

 窓を開けて外に身を乗り出した。日の光が眩しくて、顔をしかめる。なれた頃に町を眺めると、全てがビビッドに目に写る。

 パジャマのままリビングに降りて、朝御飯の準備。家族はまだ寝ているようだけど、昨日のうちに僕が早く家を出ることは伝えてあるから気にしなくてもいいだろう。

 マーガリンを塗った食パンに砂糖をまんべんなく振りかけ、トースターでこんがり焼き目がつくまでじっと待つ。その間にミルクをコップに注ぎ、冷蔵庫からミニトマトを2つとハムを1枚取り出した。それらをできたてトーストと一緒にお皿に盛って、コップとお皿をランチョンマットの上に並べて準備完了。いただきます、とボソッと呟いて、ぼんやりとした頭で甘いトーストにかじりつく。

 甘いトーストに飽きた頃に、旬でないミニトマトが少し酸っぱくてちょうどいい。トーストとミニトマトを平らげて、ミルクを飲み干して、最後にとっておいたハムを食べた。

 皿を洗って、歯磨きして、服を着替えて準備完了。

 ……いや、寝癖を直していなかった。

 時計を見るとまだ6時にもなってない。急ぐ必要もないけれど、早い方がいいというのは確かだ。

 支度を終えて、鞄を肩にかけ、布をかけたそれを両手で抱える。雨は降りそうになかったが折り目や傷がつかないよう、念には念をいれて額縁に入れてから運ぶ。

 玄関を出て、人通りも車も少ないことに安堵した。

 こんな異様な光景、あまり人に見られて噂でもたったら困りものだ。だからできるだけ早くに学校まで運ばなきゃ。

 ナツにも柏木さんにも会わぬよう辺りを見ながら気をつけて進む。登校時にも帰り道にも通らない道を選んで、早足で。

 学校についた頃には少し汗をかいていたけれど、ここからが本番だ。出来るだけ知り合いに会わないよう気をつけて、本来なら今日は立ち寄らなくていい美術室へ足を運ぶ。学校は昨日の朝よりは静かだった。遠くの吹奏楽の音がよく聞こえるくらいには。

 4階まで上がったときには緊張感と疲労でもうヘトヘトだった。廊下から美術室の中を念入りに確認する。


 柏木さんはいない。


 ふぅ、と息をついて持ってきた()()()を布をかけたまま隠した。これで終わるかどうかはわからない。終わったとしても、それはただの自己満足かもしれない。けれど、他に僕にできることなんて無いんだ。

 会えない人には謝ることもできない。もう後悔なんてしたくない。だからこそ、今いる人には精一杯伝えなければならない。言葉が届くうちに。手が届くうちに。

 まだ漫研に集まる時間までは十分に余裕がある。

 僕は席に座って少し仮眠を取ることにした。……眠れるかはわからないけど。

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