ⅬⅡ………アオイロ②(文化祭・一日目)
器楽室を訪ねようと入り口まで行ったのだが、そこでは先程までステージで輝いていた吹奏楽部員たちが慌ただしく片付けをしていた。聞こえてくる声から察するに、明日のコンサートのリハーサルのために準備をしているのだろう。
忙しいときに訪ねちゃったな、一旦出直そうか。そう考えていたところで、甲高い声に呼び止められた。さっき司会者を務めていた丸眼鏡の女学生。背丈は小さいが、おそらく三年生の先輩だろう。
「君、誰かに用があるの?良ければ呼んであげようか?」
「すみません、急ぎじゃないので、忙しかったらまた後でもいいのですが──」
「翔太郎じゃん。どうしたの?」
「玲志!」
噂をすれば、じゃないが都合良く玲志がアルトサックス、ではなく太鼓のようなものを運びながら現れた。
「ああ、進藤の友達なんだ。この子、進藤に用事があるみたいでね。リハーサルまで時間あるし、そっち行っていいよ」
そう言うと丸眼鏡の先輩は玲志から自分の体くらいあるその太鼓を軽そうに持ち上げると、器楽室の中へさっさと行ってしまった。小柄な見た目でどこにそんな力があるんだろう。ポカーンと見送ってると、「さすが子ゴリラ先輩だ」と玲志が呟いたのを聞いて思わず笑ってしまった。
「さっきのソロ?本当に凄かったよ。松本さんが本当に幽霊部員なのか疑ってた」
「あー、そんな幽霊してる気は無いんだけどな……でも来てくれて嬉しかったぜ。それで、用事って?」
玲志は気恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いた。
「ああ、実は横山さんから、手紙を玲志に渡すよう頼まれて……」
言いながら青い便箋を玲志に手渡した。玲志はその薄花色の便箋を見ると目を丸くして驚いた。
「何でこれを横山が……」
玲志は手紙を受け取るとともに封を切り、すぐに中を確認した。半分くらいまで読んだところで玲志は僕に聞く。
「横山は今どこに?」
「え、ごめん、わからない。コンサートが終わってその手紙を僕に渡した後、すぐにどこかに行っちゃったから」
そうか、と呟くと玲志は手紙を丁寧にたたんで片付けた。一体何が書いてあったんだろう。そんな僕の心を察したのか、玲志は苦笑いして言った。
「ああ、これは前に話した、中学時代の吹部の顧問からの手紙でさ。……俺に謝りたいって。何でこれを横山が持ってたかわからないけど、横山のとこ行けばまたあの人に会える気がして……」
突然のことで玲志も状況が飲み込められないのだろう。僕も何と声をかけて良いかわからない。
「……玲志」
「ごめん。俺ちょっと横山探してくる。手紙、届けてくれてサンキューな」
玲志はそう言うと走って行ってしまった。




