Ⅴ………強制招待と初めてのオレンジ①
高校では部活に入らないことにしよう──そう決めていた僕は当然だけど、どこの部の見学にもいかなかった。ナツに一度、漫研に誘われたが丁重にお断りした。ちょっと意外だったのはナツが美術部に入らなかったことだ。………いや、意外でもないか。
高校生で部活をしていない人というのは別に少なくない。だんだんとそれぞれの部活の勧誘活動も収まってゆき、去年の今頃、四月の最後の週にはもう完全になくなった。
そんなある日の朝。僕の靴箱に茶封筒が入っていた。中に紙が一枚、何か書いてある………
『放課後、体育館裏で待つ。逃げたらツブす!!』
やけに荒々しい、力強い筆文字。
だけど何故だろう。それを見ても特になんの感情抱かなかった。
僕はその日、そのまま帰ってしまったんだ。
すると次の日、昼休憩にこんな放送がかかった。
『三坂翔太郎!ちょっとなんで昨日勝手に帰ったのよ!待ってた身にもなりなさい!スッゴク寒かったんだからあ──くしゅんっ』
『会長、放送室の私用は困ります………』
『なによ、いいじゃない、ちょっとくらい──』
『ごらぁっ!何をやってるんだ!』
『あっ、やべ──いい?三坂翔太郎、今日の放課後は直接美術室に──きゃあっ!ちょっと、返しなさい私のマイク!』
──プチンっ。
そこで放送がきれた。何なんだ、一体。
「今の、生徒会長の柏木真由じゃないか?」
そう話しかけてきたのは高校入っての最初の友達、進藤玲志だ。ちなみに、二年生になった今年も同じクラス。
「知ってるの?」
「そりゃあ、生徒会長だぞ?まあ、それ抜きでも有名人だけどな。なんでも、あの柏木真鹿の娘らしい」
「柏木真鹿って画家の?」
画家、柏木真鹿はこのあたりでは知らない人はいない有名人だ。国内外問わず活躍している売れっ子でテレビにも出演している。
「そう。それから柏木先輩自身も絵が上手で何度も賞をとっているらしい。しかも勉強も運動も何でもできる上に美人。男女問わずみんなの憧れ。──そして、その妹が同じクラスの柏木瑞希さんだ!」
と言って玲志は席についてる柏木さんに両手に向けた。
確かその時も彼女は本を読んでいたと思う。
「な、美人だろ?声かけたいんだけど、彼女クールでさぁ。ああ、もうどうしよ!」
と体をよじる玲志。何をどうするんだ。
僕はそれを苦笑いで返し、もう別のことを考えていた。
結局なんで呼び出されるんだろう、と。