XLIX………シャツを引かれて(文化祭・一日目)
「こんにちはー」
漫研を訪ねてみると、こっちは美術室とは真反対でお客さんで溢れていた。真ん中で漫研恒例のオリジナル漫画を販売し、それからその横でナツの作った絵葉書を、そしてさらにその端っこで柏木さんが僕らの絵葉書を売っていた。
「柏木さん、ごめん、遅くなっちゃった。こっちに移動してたんだね」
「ん、千夏の提案」
「ナツの?」
柏木さんはコクりと頷くと僕とは別の方向を向いて手招きした。なんだろうと見てみると、いつの間にかナツが目の前に。
「やあ、ショウタ。もう柏木先輩のことはいいのかい?」
ケラケラと笑うナツ。全く人がどんな目にあってたかも知らないで。
スルーして話を変える。
「よかったの?美術部の絵葉書を漫研のスペースで売って」
「大丈夫。そっちは部員二人しかいないから大変だろ?それに柏木もずっと一人だと寂しそうだったし、先輩も快く承諾してくれたよ」
そっか、柏木さん一人長く待たせてしまったのも申し訳ないな。柏木さんは席に座ったまま僕のシャツを掴むと、ナツに向かって言った。
「それじゃあ千夏、行っていい?」
「ああ、わかった。楽しんでおいでよ」
ナツがそうニコって笑ったのと同時に、柏木さんは立ち上がると、そのまま僕を引っ張って部屋の外へ。
「ちょっとちょっと柏木さん!?」
「……行こ。私も文化祭回ってみたい」
そっか、ずっと美術室から離れられなかったからな。
「大丈夫大丈夫、僕が絵葉書のとこいるから好きに柏木さん行っていいよ」
流石に、漫研に任せっきりなのはよくないだろうし。
すると柏木さんが頬をプクーと膨らませて、明らかに不満顔。
「……一緒に、行こ」
さっきよりも強い力でぐっと引っ張られる。うーん、ちょっとだけならいいか。それにまだお昼ごはん食べてなかったし、どこかでなにか食べよう。思い出したらすこぶるお腹がすいてきた。
引っ張られるがままに従っているけど、一体どこに向かっているんだろう。二階を突っ切り、一階に降りて再び突っ切り……なにかを探しているのかな?
「柏木さん、どこか行きたいとこあるの?」
「いや、わからない」
わからないとは。
柏木さんはどこか気まずそうに目をそらす。
「……文化祭なんてちゃんとまわったことないから。どこをどうすればいいか、よくわかんない」
あー、なるほど。お祭りだからってあんまりはしゃぐタイプじゃないだろうし、確か去年の文化祭でもずっと美術室にいたはずだ。
「それなら、先に何か食べに行こうよ。僕お腹すいちゃってさ」
柏木さんがお弁当を持ってきてなければだけれど。
急な提案だったが喜んでくれたようで、柏木さんはコクコクと首を縦に振った。とすれば、次は何を食べるかだ。
さっき真由先輩とまわったところ以外にも、様々なところに屋台はある。一般公開の明日になったら、近くの商店街から出張してくるところもあるとか。今はまあ、とにかく……一瞬、真由先輩が美味しそうに塩ラーメンを食べている姿が脳裏をよぎった。
「……柏木さん、塩ラーメンとか好き?」




