ⅩLⅦ………騒がしさから遠く(文化祭・一日目)
特別棟四階はいつだって静かだ。たとえ喧騒に溢れた文化祭の最中でも、それは変わらない。
真由が去って以来、ポツポツと人が訪れるとは言え、結局売れた絵はがきの枚数は片手で数えられるほど。こんなことを言うと翔太郎にはしかられてしまうかもしれないけど、正直あまり人が来ない方が安心する。
遠くの方で響く祭りのどよめき。窓越しだからか余計に自分とは無縁のもののように思ってしまう。
持ってきていた本はすでに全部読破してしまった。今はただ席に座ってうとうととするばかり。
そういえば、そろそろ翔太郎と交代の時間だ。……交代とかじゃなくて、一緒にいることはできないのだろうか。
席を立って廊下の窓を開ける。窓を開けても相変わらず文化祭の喧騒は遠い。けどそれは音量とかではなく、きっと私の自覚の問題。私がどこか、文化祭とは無関係だと思ってしまっているせい。
翔太郎は今頃何をしているだろうか。翔太郎の教室がある第二校舎棟を眺める。けれど、人が多すぎて、どこに翔太郎がいるのかわからない。
急に強い風が吹き、驚いて窓を閉める。乱れた髪を直しながら、もう一度ガラス越しに外を見て、またもとの席に戻った。
ふと、不思議だと思う。
以前の私なら、決して窓の外を羨むことなんてなかった。わざわざ見えない何かを目で追ったりなんてしなかった。『さみしい』なんて、いつぶりだろう。
売り物の絵はがきをひとつ手に取り、眺める。
「……翔太郎」
「……残念だけど、ショウタは来れないよ。柏木先輩が連れていってしまったからね」
パッと振り向くとそこにいたのは千夏。何時からいたんだろう、まるで気がつかなかった。千夏はいつも通りニッと笑うと指を一本立てて言った。
「そこでひとつ提案があるんだ。柏木もずっとここにいるのは暇だろ?」




