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サンセットオレンジ  作者: ななる
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ⅩLⅣ………みさりんシフト入り(文化祭・一日目)


「よかった、サイズはぴったりのようね」

 メイド服姿の横山さんが様子を見にきた。今思えば昨日誉めたときに「よかった、三坂くんに誉めてもらえて」って言ってたのは、僕も着るからだったのか。

 横山さんは僕にフロア係の基本業務について説明したあと、「それじゃあ、はいこれ」っと僕に数本のペンを手渡した。忘れるわけ無い。昨日僕が何も聞かされずに製作した「みさりんサイン入りメイドペン」だ。

 うんざりした顔で受け取ると、横山さんが追加で説明する。

「基本的にフロア係のサイン入りペンは出入り口でお客様に一人ひとつ好きなのを選んで貰うんだけど」

 なんだそのアイドルみたいなシステムは。

「時々直接的受け取りたいって人も中にはいると思うんだよね。それで、フロアスタッフは何本かそういうときのために持っていて貰ってるの」

 だからなんだそのアイドルみたいなシステムは。

「それではみさりん、初出勤がんばってね!」

 横山さんと松本さんに背中を叩かれフロアに出される。「待って!まだ心の準備が!」なんて僕の声は教室内に虚しく響き、お客さんや他のフロア係が目を丸くしてこっちを見る。僕はハハハと笑って誤魔化し、そそくさと壁の方で待機している玲志の方へ移動した。

「よっ、みさりん。よく似合ってるじゃん」

 執事姿の玲志が僕をじろじろ見ながら笑う。

「うんうん、サイズもぴったりみたいだし。いやぁ、やっぱ俺の目に狂いはなかったな」

 顎に手をあて頷く玲志。俺の目に狂いはなかった?

「どういうことだよ」

「ほら、さっき一回おまえのとこにいっただろ?そんときも言ったけど、あれ横山にお前のこと見てこいって頼まれたんだよ。俺、一目見ればだいたい服のサイズとかわかるから」

 なんだその超能力。というかこの短時間で僕のメイド服は作成されたのか。どっちもうんざりするほど無駄にすごい。

「てか、何でお前だけメイド服じゃないんだよ。卑怯だ!」

 普通にかっこいい衣装で、むかつくけど玲志によく似合ってる。着たいとは思わないけど、メイド服着るよりはよっぽどましだ。

「俺がメイド服着ても絶対似合わないだろ。そう横山に言ったら、なんか他の女子と話し合ってて、こうなった」

「ずるい!」

 きっと玲志を睨み付ける。そんなことなら僕もしっかり抵抗しておくべきだった。

「まあまあ、そう怒るなよ。どっちにしろよく似合ってんだから、黙ってたら男だってバレないだろ。ほら堂々としてろって、みさりん」

「みさりん言うな」

 後で絶対殴ろう。覚えとけよ。玲志はスッと僕のポケットからペンを一本取り出すとそれをしげしげと眺めてほぉ、っと息を漏らす。

「良くできてるなー、これお前が文字いれたんだろ?俺のは女子が勝手に作ったからなぁ……あ、みさりん。さっそくご主人様のご指名が入ったみたいだぜ」

 玲志がそう言ってペンで指した方を見るとナツがこっちに手を振っていた。

「はい、チーズ!……うん、いい感じ」

 近づいたとたん、どこに隠してたのか、ナツは一眼レフを取り出し僕に向かってパシャリ。

「幼稚園より前からの付き合いだけど、こんな姿のショウタは初めてだなぁ」

「ゴホンッ……お客様、撮影はちょっと!」

 なんていいながら、強引にナツの一眼レフを没収した。そういえばこれ、前に柏木さんが借りてたやつだ。

 ナツはけらけら笑いながら、携帯で再び僕のことを撮影しようとするので、もう諦めてそのままほっておくことにした。

「ナツは漫研の方とかクラスの方はいかなくていいの?」

「大丈夫大丈夫。後でいくから」

 うーん、出来れば今すぐ僕の元から消えて欲しい。いや、僕が消えたい。

 その後何分かナツは僕をからかった後、「それじゃ漫研行ってくる」と言って出ていった。取り敢えず一難は去ったかな。

 柏木さんは一人で大丈夫だろうか。いや、どうか一人でがんばって欲しい。どうかこの教室には来て欲しくない……

 何人か『みさりんペン』を持っていくのを悲しい顔をしながら見送り、強く、強くそう思った。

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