ⅩLⅡ………文化祭・一日目
8時30分。生徒会長の開催宣言とともに文化祭が始まる──はずだったのだが。
ピンポンパンポーン、という音の後にまず最初に聞こえたのは生徒会長の困惑の声だった。
『……ちょっと、止めてください!誰か!誰か助けt──』
なんだなんだ事件か?突然の緊張に僕はゴクリと息をのむ。柏木さんもじっとスピーカーの方を見つめた。
『── もう、落ち着いて!いいじゃない少しぐらい。私の方が絶対盛り上がるから──』
『ごらぁっ!何をやってるんだ!』
ん?どこか懐かしいのは気のせいだろうか。柏木さんはもう放送に興味を失ったようで、スピーカーから目を背けている。
『あっ、やべ── 第五十二回明日町高校文化祭、これより開催でーす!しっかり盛り上がって──きゃあっ!ふふ、そう二度も同じ手を食らうもんですか……いやっ、返して!私のマイク返しt──』
そこでブチンっと音がして放送終了。考えるまでもない。こんなことするのは真由先輩しかいない。心なしか柏木さんもうんざりした顔をしている。
もう一度アナウンスが入った。
『突然のトラブルにより失礼いたしました。こ、これより、第五十二回── うわあっ!』
『ひとつ言い忘れてたわ!特別棟四階にて私の入ってた由緒正しき美術部が今年も絵葉書を販売してるから、ぜっっったい!買いに来てね』
『またか柏木!お前は本当──』
そこでまた放送終了。これはもしかして僕たちが生徒会に謝りに行った方がいいのかな。
そんな不安を抱きながら、取り敢えず真由先輩がしっかりと反省してくれることを願おう。絶対ないけど。
「一般開放って明日じゃなかったっけ?真由先輩どうやって入ってきたんだろう」
「OB、OGは別。普通に二日間参加できる」
へぇー、と納得しながらも朝一からやってくる真由先輩はやはり変わり者なのだろうと思う。
気がつけば学園内がお祭り騒ぎ。窓を覗けば、わいわいガヤガヤと我が物顔で生徒たちが学内を闊歩する。あのうち何人がうちの絵はがきを買ってくれるだろうか…?
「10時からクラスのシフト入ってるから、取り敢えずそれまでは一緒に店番するね」
正直言えばクラスの方には行きたくないけど。いや、行かなければいいのかな?そうだ、忘れたふりをして行かないでおこう。
そんな僕の思いを知ってか知らずか、柏木さんは無垢な笑顔を僕に向け、「ありがと」なんて言う。眩しくて僕の中のよどんだ気持ちがチクチクと胸を刺した。
「真由が宣伝したから何人かはこっちに来るはず。……最初のうちから一人は心細い」
柏木さんがギュッと僕の袖をつかむ。僕がドギマギして言葉に詰まっていると、早速お客様一号のご来店だ。
「よっ、相変わらず遠いなぁ、ここは」
「玲志!」
記念すべきお客様第一号は友人の進藤玲志だった。しかもいつもの制服姿ではなく、スーツのようなきっちりとした服を身に纏っている。
「お前、たしか9時からシフトじゃなかったっけ?それにどうしたんだよ、その服」
昨日クラスで配られた当番表はちゃんと玲志にも写真を送ったはずである。
「ああ、それでクラスでこれ着せられたんだよ。執事服?らしい。柏木さん、どう?似合ってるっしょ?」
玲志はくるりとその場で一回転して衣装を僕らに見せびらかす。たしかに、もともとスタイルも顔もいいからその大人びた衣装は腹立たしいほどに似合っている。
柏木さんはコクリと一度うなずくと、手元の絵葉書を一枚手にとって玲志に渡した。
「玲くん、似合ってるついでにどうぞお一つ」
玲くん……そういえばなぜか柏木さんは玲志のことをそう呼んでるんだっけ。なぜかわからないけど怒りの感情が僕から噴き出す。
玲くんもとい玲志は「あちゃー、やられたな」といいつつ、ズボンのヒップポケットから財布を取り出して、一枚購入した。
「これ柏木さん?めっちゃ似てるじゃん!翔太郎が描いたんだろ?すげぇな」
絵葉書を見てそんなに感動するとは。いろいろ事情があるとはいえ、こんなに喜んでくれると流石に嬉しい。柏木さんはオーバーリアクションの玲志を見て目を丸くして驚いている。
「じゃあ、俺そろそろ戻らないと横山がうるさいから。じゃあな!」
「あ、待って。結局何しに来たんだよ?」
早々に立ち去ろうとする玲志を呼び止める。玲志は特に重大そうではなく、「ああ、」と言って立ち止まった。
「横山が一回お前の様子を見てこいってさ。そんだけだよ。あっ、そうそう──」
横山さんが?なぜ?首を捻っていると玲志がさっきよりも声を張って僕らに伝えた。
「3時から吹奏楽部のコンサートあるから、絶対こいよ!柏木さんもー!」
それだけ言うと手をふって「じゃあな」と戻ってしまった。
吹奏楽部か……。昨日の玲志の演奏姿が脳裏に浮かぶ。
「柏木さん、3時になったら店番は一旦お休みにして、一緒に玲志見に行かない?きっといい演奏するよ」
そう誘うと柏木さんは目をパッと輝かせて言葉を発する代わりに大きく首を縦に振った。




