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サンセットオレンジ  作者: ななる
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ⅩLⅠ………文化祭・直前②

「………柏木さん!柏木さん起きてー!!」

 トントン、と机を指で叩く。すると柏木さんはうーん、と顔をしかめて反応した。起きるまでもう少しかな。

「柏木さん!時間だよー!」

 さっきよりも大きな声で、そして強めに机を鳴らす。すると「うるさいっ」とお腹に頭突きを入れられてしまった。

「── ごふぅっ」

「……あ、ごめん」

 目を擦りながら立ち上がって柏木さんは謝るけれど、ちょっと今は反応できそうにない。そういう専門家がいるならば、きっとさっきのは百点満点クリティカルの頭突きだった。……吐きそう。

 柏木さんは申し訳なさそうにもじもじして、それから周りの変化に気がついたようで今度は目をキラキラと輝かせた。

「すごい!いつの間に!」

 なんたって、もうそこはいつもの暗く物寂しい美術室の姿はないのだから。文化祭仕様にデコレーションされた、言うなればそう、学校の中に突如現れた美術館──

「お遊戯会場みたい!」

……そうイメージ通りにはいかないか。

ようやく回復してきたので、僕はゴホンと取り繕って説明する。

「ちょっと先に目が覚めたからさ、一通り準備をしといたよ。飾り付けるっていっても折り紙しかなかったけど、いつもよりはマシかなって」

 本当はずっと起きてたけど。そんなことは口にしない。

 柏木さんはもう一度ぐるりと部屋を見渡したあと、ブース横のあの絵と、僕の顔と腕を交互にじっと見て……フフッと笑った。

「……ありがとう。……それから、素敵なアナログ時計ね」

 慌てて僕は左手首につけてるボタンなんて無い秒針がカチカチうるさいアナログ時計を後ろに隠した。どうやら全部ばれてしまったようだ。そんな僕の様子を見て、また柏木さんはクスクスと笑った。

 ちょっと恥ずかしかったのでまたわざとらしく咳払いをして話題を変える。

「……あとは葉書の値段を決めるだけ。去年は何円だったけ?」

 そこで柏木さんは何かを思い出したようだ。ハッ、としてスカートのポケットをあさった。

 出てきたのは小さなメモ用紙。読みながら、柏木さんが言う。

「安立から伝言。『漫研は一枚100円で売るらしい。そこでうちは去年と変えずにそのまま120円で売る!向こうより高めで少しでも利益を出すぞ!  PS.もう倉田に伝えてあるからわざわざ漫研に伝えにいかなくていいぞ。感謝しろ』……とのこと」

「120円って……確かに去年といっしょだけど向こうより高かったら売れないんじゃないかな」

 ただでさえ漫研と美術部じゃ認知度が違う。

「そう思って伝えたら、『いやでももう小村さんの前で言っちゃったし、今更変えれねーよ』とのこと」

 ……心のそこから顧問変えたい。今更無理か。とはいえ決まってしまったものは仕方ない。もともとそこはノープランだったし、勝負はもうついたようなものだし……負けたようなものだし。

 一周回ってスッキリとした気分になったので、にっこりとして聞いてみた。

「ねぇ、柏木さん。大根おろし器って何円くらいするかな?ちょっとすりおろしたい人がいるんだけど」

「おちつけ。安立すりおろしても汚いだけ」

 ああ、なんと清々しい朝の会話だろう。僕らは一瞬の沈黙のあとアハハと爽やかに笑った。

 そんなこんなで、そのあとはもう少し室内を飾り付けたり、店番の時間の打ち合わせをしたりしてあっという間に一時間がたった。

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