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サンセットオレンジ  作者: ななる
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ⅩⅩⅩⅧ………明日はきっと④


 取り敢えず変態馬鹿教師二人を床に正座させて問い詰める。尋問官は僕と松本さん。それをナツが苦笑いしながら静観している。柏木さんに至ってはもう興味すらないようで本を読み始めてしまった。

「一体どういう計算で三桁以上も絵葉書を印刷したんですか?」

「ほんと何で!?馬鹿なの?ねぇ馬鹿なんでしょ?馬鹿だから200枚も刷ったんでしょ?」

「いいじゃん200枚で。こっちは500枚だよ。全校生徒の八割だよ!?売れっこないよそんなの!」

 阿鼻叫喚している僕らに倉田先生が申し訳なさそうに説明しだす。

「……はじめは20枚程度を予定していました。先に見本だけ何枚か作って、それから発注をかけようとしてたんです。佐野のイラストはとてもいい出来でしたが、もともとちっぽけヒーローという作品自体マイナーですし、画風も原作とは少し違う。毎年販売している同人誌よりは販売数は伸びないと考えていたのです」

 たしかに僕もちっぽけヒーローなんて知らなかったし、あとで漫画を読んだとき、ナツの描いたキャラクターと原作のキャラクターは画風が随分と違った。そういえばナツはどうしてわざわざ画風を変えたんだろう。ナツであればそっくりそのまま描き上げることだって可能だったはずなのに。未だにそれがわからない。何を伝えようとしてるのか、未だに。

「それで注文票に『20』と書き込んだちょうどその時、阿立先生がやってきたんです。『おい倉田ぁ!お前んとこは何枚刷るんだ?まさか小村さんがかかってんのにしょっぼい枚数にしてんじゃねえだろうなあ?』って──」

 途端に視線が一気に阿立先生に集中する。彼はわざとらしくそっぽを向いて吹けない口笛を精一杯演じている。

「そこでついかっとなってしまって、そのまま20に0を付け足して提出しました……」

 松本さんは割としょうもない理由で怒る気力さえ忘れたのか、額に手をあて「はあぁ……」と深い深いため息。対照的に「あっはははは」と豪快に笑いだしたナツを「他人事じゃないからね」としかりながら、松本さんは審判を下した。

「もういいです。でも、売れ残った分はちゃんと先生に買い取ってもらいますからね。部費から出すなんて許しませんよ」

「わかってる……本当に申し訳ない」

 こうやって素直に謝られるとなんだか丸く収まったかのように錯覚してしまうが実際のところ何も解決してない。

 僕はいまだに音無し口笛を吹いている阿立この野郎の事情徴収を始めることにした。

「それで安立先生はなぜ500枚も?もしかして勝負だからって調子乗っただけとかじゃないでしょうね?」

「んなわけあるか。俺だって最初は50枚くらいにしようとしたさ。もともと漫研より遅れてたからな、見本制作は無しでそのままうちのマシンを使って刷ったんだが……」

 先生の家は印刷所かなにかなんだろうか。

「50と設定していたはずが、ちょっと目を離した間にその10倍に……」

 ……。

「インク代やら葉書代やら手続き代やらでもう色々と取り返しつかねぇし、仕方ないから、そのまま500枚にして諦めたのさ。で、何か悔しいから倉田にちょっかいだして道連れにしようと──」

「三坂くん」

 松本さんが静かに僕の肩に手を乗せた。

「ちょっと安立先生借りるね」

 もはやナツにも止める気はないようで、僕はオフコースと答える代わりに静かに頷いて一言──「ヤれ」

 瞬間、松本さんの赤フレームの眼鏡が光ったかと思うと、もうそこには安立先生と松本さんの姿はなかった。恐らく隣の漫研の根城、第七職員会議室に連れ込まれたのだろう。

 静かになった図書室閲覧スペースで、僕はナツと柏木さんと顔を見合わせながら、笑った。もちろん、苦笑いである。

「じゃあ倉田先生、今日はもうこれでお開きでいいですか?他になにか確認事項とかありますか?」

 ナツが立ち上がりながら未だ正座の倉田先生に聞く。すると彼はあっと何かを思い出したようで大きく目を見開いた。

「その、単価設定を各部で事前に決めておかなければなりません。決定したら明日の文化祭開催時間までに互いの部で連絡し会うようにお願いします」

 流石こういうところはちゃんと真面目な倉田先生。連行された誰かとは違い最後までちゃんと仕事をする。

「わかりました、それじゃあお先に失礼します」

 ナツがそのまま出ていこうとするので僕もそれに続く。柏木さんもいつの間にか本をおいてついてきていた。

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