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サンセットオレンジ  作者: ななる
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ⅩⅩⅩⅦ………明日はきっと③


「じゃあ、くれぐれもお静かにお願いしますね、ここは図書室ですから。特に──先生方?」

 びくっと鋭く体を痙攣させる二人の変態教師。小村さんはそれだけ言うとその場をすたすたと離れていった。

 それから柏木さんが僕の左隣に座り、ナツと松本さんは倉田先生の右隣。

 席に座った途端、松本さんが空いた右の席を見ながら倉田先生に問う。

「先生、先輩方は来ないんですか?」

「三年は漫画担当ですからね。今は一年と一緒に部室の装飾などしているでしょう」

 そう答えてから倉田先生は机の下から紙袋を取り出した。

「さて、本題に入りましょう。阿立先生も持ってきていますね」

 倉田先生に言われてむっとしたのか阿立先生は荒々しい様子で机の下から紙袋を取り出した。中に入っているのは絵葉書のようだ。それを確認した倉田先生は生徒の方を向き直り説明を続ける。

「漫研、そして美術部のみなさん、お集まりいただきありがとうございます。集まっていただいたのは他でもない、明日からの文化祭におけるお互いの部室をかけた勝負事の──」

「あーめんどくせぇ。ようするにルール確認だ。ルールはいたってシンプル。ガンガン売って、売上金額が多い方が勝ちだ」

 途中で阿立先生が割り言ってきたのが気に入らなかったのか、倉田先生はむすっとした顔でコホンと一度、咳払い。逆に阿立先生は満足そうにニヤッと笑った。

「大体は阿立先生が話した通りですが、私からは補足説明を。まず販売時間ですが、これは文化祭の開催時間と同じです。一日目も二日目も午前八時から午後五時。それ以外での販売は禁止とします。それから絵葉書の金額設定ですが、これは各部の判断に任せます。ただし途中での変更はなし。まとめ売りもなしです。最終的な売り上げ計算が大変になるので、事前に設定した金額で二日間変えないようにお願いします。あ、そうそう、売上金額を競うという話ですが――」

「うわ、倉田お前こんだけしか刷ってねえのかよ」

 ガサゴソという音とともに阿立先生が倉田先生の紙袋から勝手に絵葉書を取り出す。その枚数は約十枚。

 また話を遮られてむすっとしている倉田先生は、険しい顔で阿立先生を睨んだ後、大袈裟に溜め息をついて首を横に振った。

「いえ、それは見本用で他は部室においてますよ」

 見本用か……うちにはなかったな、と思い阿立先生を見たけど全く気付いてないようだ。ナツの描いた絵葉書を「へえ……」と感慨深げに眺めている。

「そういえば結局何枚印刷したんだろ」

 不意に松本さんがナツに聞いた。どうやらナツも知らないようで、首を傾げたあとそのまま倉田先生の方へ視線を向けた。

「あれ、伝えてませんでしたっけ」とナツたちの方を向きながら倉田先生が答える。

「200枚ですよ」

「200枚!?」

 松本さんが素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。

「なんでそんなっ!いくら何でもそんなに売れるわけ……」

「まあまあ、落ち着けって。全部は売る必要ないんだからさ。たくさんあるにこしたことないよ」

 ナツが宥めて松本さんも少しは落ち着いたのか、「それもそうだね」言いながら席につく。

「いえ、売れないと困りますよ。さきほど阿立先生に遮られましたが、今回の売上金額っていうのは『設定金額×売り上げ数』から『設定金額×売れ残り数』を引いた額とします。ですから、売れ残れば売れ残るほどマイナスが大きくなり、場合によっては合計売上金額自体がマイナスになることも」

「何言ってんの馬鹿ぁっ!」

 松本さんが再び勢いよく立ちあがる。そのまま倉田先生に掴みかかろうとするところをナツが寸前で引き留めた。俗にいう羽交い絞めだ。

「優香落ち着けてって。たしかにこいつ馬鹿だけど流石に暴力はよくないって」

「離して!一発ぶち込まないと気が済まない!」

 何と物騒な。とは言えこれは倉田先生が悪い。漫研で毎年販売しているオリジナル漫画だって用意している数は50冊くらいだと聞く。僕らが売らないといけないのは絵葉書で、しかも良くできているとはいっても書いているのは無名の学生だ。200枚もあったらたとえよく売れたとしても売れ残りでマイナスの方が大きくなってしまうだろう。可哀そうに。

 とは言えこれはもう勝ったも同然だろう。よほど何かとんでもない馬鹿をしでかさない限り安泰だ。

 今も暴れている松本さんを横目に僕は阿立先生に聞いた。

「うちは何枚印刷したんですか?」

 漫研の騒動をあひゃひゃと笑いながら見ていた阿立先生はさも当然かのように口を開いた。

「ん?500枚だけど?」

「ふざけんなこの馬鹿ぁーーっ!!」

 どうやら我が美術部にもすでにとんでもない馬鹿がいたようだ。

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