ⅩⅩⅩⅤ………明日はきっと①
自分の教室に帰ると横山さんが腕を組んで待っていた。
「来たね」
僕と玲志以外はもうすでに集合し終えているようで、少し申し訳ない。
「三坂くん、進藤見なかった?」
「玲志は吹奏楽部の合奏があるって音楽室に行ったよ」
「そう……」
あれ、てっきり怒り出すと思ったのに、横山さん、意外と冷静だ。
僕が適当に座ったのを見て横山さんが説明を始めた。
「みんなお疲れ様。文化祭の準備はおかげさまでほとんど終わり!あとは実際にカフェを運営するだけね。本当にお疲れ様!」
横山さんが拍手すると同時にクラスメートも盛大な歓声。びっくりして周りを見渡すと部屋の装飾にさらに驚いた。自分が今、一体どこにいるのか分からなくなるほどの完成度。実際にメイド喫茶に行ったことはないけれど、たぶん本物とそう変わらないと思う。
何人かの女子が何か書いてある紙を配りだした。
僕のところに回ってきた紙にはクラスメートの名前とその隣に時間が書いてある。
クラスメート全員に紙が回ったのを確認して、横山さんはまた話し出した。
「今配ったのは明日明後日のスケジュール表。キッチン係、フロア係、客寄せ係に分けてあるから間違えないようにね。それぞれ自分の前の十分前には教室に来てね。何か質問はある?」
何となくもうわかってたけれど、一応表を確認する。
……あーあ。やっぱり僕はフロア係だ。つまりメイドだ。最悪だ。
一応手を挙げて質問する。
「あのお……僕がフロア係に配属されてるんだけど、何かの間違いだよね?」
「いえ三坂くん、あなたはフロア係。つまりメイドよ」
最悪だ。
「な、なんで!?ほかの男子は皆他の役なのになんで僕はメイドなんだよ?」
「ほかの男子はもうしっかりと働いたわ。ある者は段ボールを運ぶために七キロ離れた場所へ一日に四往復し、またある者は二十キロあるペンキを運ぶため早朝四時に起床し、そしてまたある者は……まあ、みんな何かしらやってくれたわ」
ううっ、と男子たちのすすり泣く声が聞こえる。
そんな必死に働いていたなんて……このクラス、なかなかにブラックだな。
「働いて働いて、彼らは考えた。……働いてないあなたたちをどうするか」
ぞわっと。何か冷たいものが背中を這ってゆく。
そんな僕の恐怖心を知ってか横山さんと後ろでさっきまで泣いていた男子たちが不気味ににちゃりと笑った。
「素晴らしい考えよね。女子も全員大賛成だったわ。……大丈夫、あなたならきっと似合うわ、三坂くん、いえ、みさりん?」
「いやあぁぁああああああああっっっっ!!!!」
再び全力疾走。僕の悲鳴がまた学校中に響き渡る中、二年二組の教室では横山さんが静かに笑った。
「それじゃあ三坂くん、明日は九時五十分には教室に来てね」
そんな声を聴きながら、僕は無意識に図書室へと向かった。




