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サンセットオレンジ  作者: ななる
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ⅩⅩⅩⅠ………前夜祭と白お化け①


 文化祭前日。

 授業は午前中ですべて終わり、午後は文化祭それぞれの出し物の準備のためにあてられる。クラスの方を今までほとんど何もできなかった分、今日はしっかりと働くつもりだ。気合を込めて、せっせと机などを運んでいく。どこのクラスも皆熱心で、学校中が次々と飾り付けられてゆく。

「あ、三坂くん」

 声をかけてきたのはクラス委員の横山さん。たぶん明日の衣装だろう、典型的な白黒のメイド服に身に纏っている。

「わあ、可愛いね。明日のメイド服でしょ?」

「ふふふ、すごいでしょ。クラスの女子何人かに集まってもらって皆で作ったの。よかった、三坂くんに喜んでもらえて」

 それがまるで何よりも最優先事項だというように横山さんはホッと胸をなでおろした。気のせいだろうか、周りの女子もちらりと僕らの方を気にしている気がする。

「実はね……あー、いや、やっぱいい。午後三時になったらどうせみんなに発表するし。それより、この前の買い出しで三坂くん、ペンの袋詰めしたんでしょ?」

「えっ、あー、うん……」

 やっぱりばれていたようだ。そりゃ証拠品をそのまま本人に渡してしまったんだから、当たり前。もうごまかす必要もあるまい。

 腹をくくって、潔く怒られよう。

「ごめ──」

「凄い!どうやってあんなに詰めたの!?あのあとね、お姉ちゃんと二人で戻ってチャレンジしてみたんだけど、全然うまくいかなくって。二人で大笑いしたわ」

「え!?」

 詰めたのは柏木さんなんだけど。どうやら横山さんは怒っているようではないらしい。

「ああ、それで、三坂くんに言いたかったのは、あのペンなんだけど、来てくれたお客さんにプレゼントしていこうかなっと思って。その了承を得に来たの」

 ちょっと待って、と横山さんは自身のメイド服のポケットをあさりだし、一本のペンを取り出した。

 この前の詰め放題ワゴンに入っていたペン、に黒いリボンがつけられている。

「こんな風にね、ペンをそのまま出すんじゃなくて、少しデコって『メイドペン』ってことでお土産として持って帰ってもらうの。どう?」

「へえ、いいと思う。きっとお客さんも喜ぶよ」

「でしょ?だから……」

 横山さんはくるりと後ろを向くとさっきまでちらちらとこちらを見ていた女子たちを手招きした。

 寄ってくる彼女たちは皆何かを抱えている。

「三坂くんにはペンのリボンにサインを描いてもらいたいの!あ、大丈夫。ちゃんとデザインは考えてあるから」

 そう言いながら彼女たちは僕を教室奥の方のスペースに誘導し、席に座らせる。机の上にどさりと彼女たちは抱え持っていた大量のペンを置いた。隣に置いてある紙に『みさりん』とかろうじて読めるサインマークが。これを見本にしろということだろう。それにしても──

「なんで僕のなの?」

 キョトンとした顔で尋ねると、なぜか彼女たちは狼狽えた。

 代表して横山さんがしどろもどろに答える。

「そ、それは、取り敢えず、外堀から埋めるというか……いいえ、そうじゃなくて。そう!クラスのみんなに参加して欲しいから、三坂くんにも、ほら、こういう形で、ええと……取り敢えずよろしくね!書き終わったら机の上に置いといて。時間が余ったら三時までは好きにしていいから、三時になったら戻ってきてね。明日のタイムテーブルとか説明するから。じゃあ、私たち進藤探してくるね」

 捲し立てるように、そして逃げるように彼女たちはその場を去った。わけがわからないが、取り敢えず与えられたことはやろうと、せっせとペンにサインを描いてゆく。

 いつの間にか松本さんが近くで僕の様子を見ていた。

 松本さんも手にペンを一本持っている。それには僕のとは違い黒いネクタイを模した飾りがつけられていた。

「やあ、三坂くん。調子はどう?」

「僕はこれ描くだけだから簡単だよ。松本さんは?どんなサイン描いたの?」

 クラス一人一人にサインが用意されているのだろうかはわからないけど、きっと松本さんは自作サインのはず。かっこいい系だろうか可愛い系だろうか。

 しかし答えはどちらもノー。松本さんは苦笑しながら僕に答えた。

「私は描いてないよ。店番はしないから。これは進藤の分」

「え、どういうこと!?」

 そこで松本さんはしまったという顔をして口を抑える。一気に悪い予感が。

 恐る恐る、もう一度聞いてみる。

「店番しない人は描かないっていうのは──」

「ごめん、三坂くん!私からはこれ以上言えない!だって私も見たいし……それじゃねっ!」

 と猛スピードでその場を去る赤縁眼鏡。その場に残された僕は、ただ茫然と机の上の、すでに50を超えた数のサイン入りペンを見ている。

ま、まさかそんな。

 悪い予感を振り払うように頭を振り、それからあたりを見渡す。

 誰も目を合わせてくれない。

 ふと、メイド服製作チームの方に目が行った。いくつか先ほど横山さんが来ていたのと全く同じものが並んでいる中、2つほど、完成途中のものが。

 片方のすぐ真横に『みさりん』と書いてあるネームが無造作に置かれている。

 みかりん、おそらく『三坂』からとったであろうその名──。

「いやあぁぁああああああああっっっっ!!!!」

 全力疾走。僕の悲鳴が学校中に響き渡った。

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