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サンセットオレンジ  作者: ななる
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Ⅲ………題材ツアーと黄昏の日①


放課後。美術室に行くと、いつも通り柏木さんが先に一番後ろの席に座っていた。

「今日は何読んでるの、柏木さん」

「ん。『徳川家の埋蔵金のありか』」

そういうと柏木さんはすぐに本を閉じてしまった。

「けど、他のことを考えてて、全然集中できない。このままだと本に失礼」

そういうものなのか。ちょっと僕に理解できない領域だ。

 柏木さんはそのまま本を片付けて、鞄から黒いソレを取り出した。

「一眼レフ………?」

「千夏が貸してくれた。なかなか粋なものを持ってる………!」

フンッと荒く鼻をならす柏木さん。その目はキラキラと輝いている。

「何に使うの?」

まあ、大体想像はつくけれど。

 柏木さんは勢いよく立ち上がって、僕をパシャリと一枚撮った。

「ん、今日は絵、何描くか決める。そのために候補をたくさん写真撮る!」

柏木さんはもう一度、フンッと荒く鼻をならした。


────────────


美術部の毎年恒例の文化祭の出し物「絵はがき」は、まず学校の一風景を切り取った絵を描くことから始まる。それを写真にとって、ハガキに印刷する。後半は業者に頼むのか、自分でするのか知らないが、阿立先生が何とかしてくれるので僕らはただ絵を描くだけでいい。

「──で、柏木さん。僕らは一体何処へ向かっているの?」

特別棟の階段を下り校舎棟へと足を進める柏木さん。わりと歩くスピードが早い。

「ついたらわかる」

そりゃあ、ついたらわかるでしょうとも。


 結局、たどり着いたのは図書室だった。二、三人の生徒が本を探している。カウンターでは美人司書の小村さんと、例の男教師二人が立っていた。

「何で図書室に?」

僕がそう聞くと柏木さんは指を三本たてて僕の顔につきだしてきた。

「三つ。三つに絞ってきた」

「何を?」

「候補。絵にするところ、私のオススメ」

なるほど、そのうちの1つがここか。

「で、何で図書室を勧めるの?」

「図書室だから」

むしろ何を疑問に思うことがあるのかとでも言いたそうに、柏木さんは僕の顔を覗きこむ。

 そこまできっぱりと断言されると一周回って清々しいものだ。

 おそらく、いつもここで本を借りている柏木さんにとっては図書室というだけで価値があるということ………だろう、きっと。

 柏木さんは付け加えるようにしてカウンターの方を見てこう言った。

「それに、小村もいる。小村を描けば絶対にどこかの変態教師二人が大量に買ってくれる」

「確かに………阿立先生と倉田先生なら50………いや、100枚くらいまでなら──」

「誰が変態教師だ、誰が!」

「そうです!阿立先生なんかと一緒にしないでください!」

あ、大変だ。どうやら僕らの会話はすべて変態二人に筒抜けだったようだ。小村さんもクスクス笑っている。

「おい柏木、小村さんは描かせねぇぞ。それに本人の意思を無視して勝手に話を進めるな。──ねぇ、小村さん?」

「別に私は構いませんよ。柏木さんが描いてくれるの?」

「違う。翔太郎が描く」

そう言って柏木さんが僕の袖を掴んだ。

 視線が一気に僕に集まる。

「三坂あっ!お前になんかには任せられん、やっぱり俺が小村さんを──」

「何をいってるんですか!教師が描くなんて反則ですよ。──それに阿立先生には荷が重いんじゃないんですか?」

倉田先生の挑発に阿立先生がピクリと反応した。そして二人は額を擦り合わせてお互いを睨み付ける。

「あ?今なんつったんだ倉田ぁ?」

「あんたには小村さんを描けないって言ったんです!」

「何だとてめえ」

「当然のことを言ったまでですが!」


「お・し・ず・か・に!」


ピシャリと声がやんだ。流石図書室の女王、小村さんだ。

小村さんは綺麗にととのえられたショートカットの髪を耳にかけて、飾りの少ない赤い縁の眼鏡をかけ直して二人の騒々しい教師を叱った。

「ここは図書室ですよ?もう、いい加減にしてください!」

プンスカと小村さんに叱られて阿立先生も倉田先生もしょんぼりとしている。二人はまるで子供のようにごめんなさい、と謝った。

 それから小村さんは僕らの方に向き直ってにっこりと微笑んだ。

「私、一度絵のモデルになってみたかったの。私でよかったら是非また声をかけてね」


帰り際、一枚図書室の写真を撮って、僕らは図書室をあとにした。

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