ⅩⅩⅦ………レモンティーにブラックコーヒー④
ミオン内を二人でぶらりと歩き回る。ゲームセンターに行ったり、たこ焼きを食べたり。
そうこうしていると松本さんからライヌがあった。
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『そろそろ合流しよ』
『それと進藤どこ行ったか知らない?』
『了解。玲志はわかんない』
『OK、最初の入り口あたりで待ってるから』
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言葉に従って最初のフロアへ。横山さんと松本さんが不機嫌そうな顔で待機していた。
「お、お待たせ。何かあったの?」
なんとなくわかっているのだが、取り敢えずそう聞いてみる。すると二人はものすごい勢いで「「どうしたもこうしたもない!」」と口をそろえて叫んだ。
「進藤がすぐにどっか行って、」
「挙句の果て、先帰る、って連絡してきて、」
「「そのまま既読スルー!!」」
「ああー、それは大変だったね……」
怒れる虎と竜をどうにか鎮めようと試みるも火に油。そのまま玲志に対する誹謗中傷、挙句の果てには殺人計画まで練り始め、僕は助けを求めて柏木さんに声かけた。
「まあ、一応連絡あっただけよかったよね。勝手に帰られてたら今頃みんなで探していなきゃならなかったし」
「ほわあぁあぁ……」
柏木さんは全く興味がないようで大きく欠伸をすると松本さんのもとに駆け寄った。
「あれ、柏木さん。ちゃんと合流できたんだね、よかった」
「ん、遅れてごめん」
そういって横山さんと松本さんに頭を下げる。一応柏木さんなりに遅刻したことについて反省していたようだ。
横山さんも少し冷静になったようで、別にいいよ、と笑った。
「そういえば、三坂くん。ちゃんとメモ通り買えた?」
「あー、ペンキ以外は買えたんだけど……ペンキは僕の家の近くの画材屋さんでこの後買いに行くよ。ちゃんと明日持っていくから安心して
「売ってなかった?」
「いやあ、見つかんなくってさ」
探してすらないけども。
横山さんは不思議そうに首をかしげたが、「そう……」と納得したようで、僕から模造紙とガムテープを受け取った。
「じゃあ今日はここで解散!ありがとね」
そう言って横山さんは手を振るとすぐに駆け出して行ってしまった。結構荷物があったのに大丈夫だろうか。
松本さんはあわただしい横山さんを見送ると、「それじゃあ私も」と言って横山さんとは反対方向に進んでいった。
「私は本屋行ってから帰るから、じゃーね!!」
と赤いフレームの眼鏡を不敵に輝かせて人混みの中に消えていった。
ぽつりと残され、また二人きり。
「柏木さんはどうするの?」
「もうすぐ真由が迎いに来る。さっき連絡した」
なるほど。
取り敢えず真由先輩が到着するまで外で一緒に待つことにした。
時刻は午後六時をゆうにすぎ、太陽は大きく傾いている。
久しぶりのオレンジの時間だ。
外のベンチに腰掛けて、それぞれカバンからボトルを取り出しゆっくりと口に運ぶ。
レモンティーが夕日にさらされて、より鮮やかに色づく。対して僕のブラックコーヒーは何とも言えぬ色合いになった。
何かを話すわけでもなく、二人並んでぼんやりする。
時間がオレンジに溶けて、ゆっくりと体に流れ込む。
疲労すら今は少し心地よい気がした。
「……あ、真由の車」
柏木さんがポツリと呟くと同時に静寂を食い散らす轟音。なんだなんだ。
音の方を向くと黒塗りスポーツカーがものすごい速度でこっちに迫ってくる。
まさかあれが……
そのまま黒塗りの車は僕らの目の前に停車。
「瑞希ー!!迎いに来たわよ!……あ、翔太郎じゃない!!ヤッホー!!」
今までにないくらいハイテンションの真由先輩の声が窓から聞こえてきた。覗くとサングラスをかけた真由先輩が。
「それじゃあ、私行くから。翔太郎、今日は楽しかった……ありがと」
微笑んで、駆けてゆく。
夕日を浴びて、彼女のオレンジのワンピースがきらびやかに輝いて見えた。
まぶしいと思ったのはきっとそのせいだけじゃないけれど。
黒い車がまた轟音を立てて進んでゆく。
見えなくなるまで見送って、それからゆっくりと歩き出した。




