ⅩⅩⅤ………レモンティーにブラックコーヒー②
ボトールコーヒーという名のコーヒーショップ。その名の通り飲み物をボトルに入れて提供するという一風変わった全国チェーンのカフェ。このミオンにもその支店がインショップしている。
店内は物静かで席にも余裕があった。
柏木さんはレモンティー、僕はおすすめと書いてあったブラックコーヒーを持って端っこの席に二人向き合って座る。
席についてまず、柏木さんはかぶっていた麦藁帽をゆっくりと隣の席に置いた。
取り敢えず無言で二人、それぞれのボトルを口元へ傾ける。……苦っが。
僕がこほこほと咳込んでいると柏木さんがフフッと笑った。
なんだかちょっと恥ずかしいな。しかもこのコーヒー、ボトルいっぱいになみなみとつがれているからまだまだたくさん残っている。
苦いのをこらえちょびちょびと飲みながら、柏木さんに聞いた。
「そういえば何で買い出しに来たかったの?」
柏木さんはボトルから手を放すとさっきのペンでいっぱいになった袋を取り出した。
「……今日は楽しかった。休日に家族以外と外に出たことなんてなかったから、もう満足」
そういうと柏木さんは袋から一本、青い色のペンを取り出すと、残りを僕に渡した。
「残りは翔太郎に返す。これだけもらってもいい?」
「いいけど、どうかした?」
彼女はゆっくりとレモンティーを口に運ぶと、そのあともボトルをじっと見つめて動かない。言葉に迷っているようだった。
やがてゆっくりとそのボトルテーブルに置くと、遠い目をして話し始めた。
「……母は私を外に出させない。美しくない、と私を罵り、部屋に閉じ込める。普段は海外にばかり出ていて、最近もほとんど家にいなかったのに……今日に限って私を閉じ込めた。真由が助けてくれなかったら、きっと来ることすらできなかった」
……。
柏木さんの言葉に驚きつつも、それで今日あんなに遅れてきたのかと納得した。
しかし、美しくない、か……。
「母は芸術を何よりも愛している。それを生み出す芸術家も。そしてその素質がある人も。……私にはなかった。画家柏木真鹿の娘なのに、柏木真由の妹なのに。私には芸術を生み出す能力はおろかそれを愛する心すらなかった。……故に母は私に出会う度に言うの」
『美しくない』と……。




