ⅩⅩⅢ………オレンジが遅れて④
ショッピングモールで一人、柱によっかかって電子遊戯。
昔から人気のパズルゲーム。指をスワイプしてパズルを動かす。
ぼんやり遊んでいると、急にピロンッと通知音がして、うっかりケータイを落としそうになった。
玲志からだ。
文字で会話するSNS、ライヌ。そこの個人チャットにメッセージをが届いてる。
ちょうどいいや。個チャを開いて会話しよう。
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『柏木さん来た?』
『まだ。そっちはどう?』
『逃走なう』
『草』
『今、山村楽器で隠れてる。あ、横山と松本には内緒なw』
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そこですっと顔を上げる。
うーん、どうしよう。
とりあえず自分のみの保身のために、聞かれたらすぐ答えるようにしよう。
それにしても玲志が吹奏楽部に入るとは。なんだかんだ学校ではいつも一緒にいるけど、そんな話一回も聞かなかったな。
……まあ、そもそも部活に全然行ってないんだったら話すわけないか。
あ、靴紐が外れている。
しゃがんで結びなおしながら、そういえばと思い出す。
今日は全員制服ではなく私服なのだと。何となく不思議な感じがしていたけれど、そのせいか。
いつもの学校靴と違って、プライベート用のパステルブルーの靴。白い靴ひもが少し黒ずんでいるのが少し恥ずかしい。
松本さんは白いシャツにうす紫のパーカー、黄色のロングスカートと全体的にゆったりとした印象。
対照的に横山さんは薄桃の肩出しトップスに白のハーフパンツで活発な印象。
二人ともすごいおしゃれで自分ひとり浮いてないか凄い心配で、それもあり早く玲志にきて欲しかったんだけど、やってきた玲志はまさかのジャージ。だけどあいつ、もともと背が高くて顔もまあまあ良くて、なんだかんだ様になっているのが余計に腹立つ。よしやっぱり隠れているの報告するか。
ちょんちょん、と背中をつつかれる。
ん?と顔を上げると「ん」と声が返ってきた。
「柏木さん!?」
「ん、翔太郎。お待たせ」
暖かいオレンジのワンピース、少し大きめの麦藁帽。それから、パステルブルーの涼しげなサンダル。
……うん。
「ん?どうした?」
柏木さんが首を傾げると、麦藁帽が少しずれて落ちそうになった。
……かわいい。
気持ちを切り替えるため自分の頬をパンパンと叩いて目を覚ます。もう一度靴紐をきゅっつと固く結んで立ち上がる。
「どうしたのはこっちの方だよ。何かあったの?」
ごまかして強引にそう聞くと、柏木さんは静かに俯いて「別に……」とぽつり。
口ごもるとは珍しい。
「でも、遅れてしまって、その、ごめんなさい」
柏木さんは頭を下げると同時にぎゅっとワンピースの裾を握った。少しその手が震えている。
「……何があったのかわかんないけど、いいよ。みんなも別に怒ってなかったし。それよりほら、僕も柏木さんが来たら買いもの行くようにメモ渡されていたんだ」
そう言って横山さんにもらったメモを見せる。
柏木さんはそれを見ると、ふむ、と声を出して、周りをきょろきょろと周りを見渡した。
「……翔太郎、早く行こ!」
よかった、いつもの柏木さんだ。
そのまま僕らは人混みの中へ紛れていった。




