ⅩⅩⅡ………オレンジが遅れて③
「……なるほどね、柏木さんがくるのはわかった」
ショッピングモール・ミオン一階、食品と暮らしのフロアにて。
クラス委員長、横山愛衣が僕らの説明を聞いて、柏木さんの買い出し参加を許可した。
が、問題が一つ。
「で、その柏木さんは一体どこにいるの?」
待ち合わせ時間からすでに三十分。柏木さんはまだいない。
「あと進藤も」
そして玲志もまだいない。
松本さんはついに堪忍袋の緒が切れたのか、「があああっっ」と竜のような叫びをあげ始めた。
「柏木さんはともかく何であいつが来てないのよ。誰のせいでこうなったかわかってるの!?」
「誰のせいって、松本。あんた、漫研の仕事は実は結構早めに終わって、ほとんど部室で遊んでたって私知ってんだからね」
横山さんがキッと睨むと、松本ドラゴンはぐふっとダメージを負った。僕も同じようなものだからここは黙っておこう。
それから五分するとようやく玲志がやってきた。
「よっ、集まってるな!」
玲志がなんの悪びれもなく右手を挙げてきたので、僕はその手を無表情のまま掴み……
「いでででででっ!」
反対向きに捻る。
「もっと、もっとよ三坂くん!そのままなんちゃって吹奏楽部の指をもぎ取るのよ!」
松本さんの熱い声援に僕も自然と力がこもる。
「もげろ、ゆびぃぃいいいい!!!」
「いでででででっ!やめっ、やめろって、いででででで、ごめん!あやまる!ごめんなさい!ごめんなさい三坂様ああああ!!」
ショッピングモールのど真ん中、なんちゃって吹奏楽部、進藤玲志の土下座が披露された。
松本さんも横山さんもこれにはニッコリ。
それにしても柏木さん遅いなあ……
「……仕方ないね。三坂くんはここで柏木さんを待っててあげて。私と松本と進藤で先に買い物行っとくから。柏木さん来たら別ルートで買い物進めて」
はいこれメモね、と横山さんは僕にメモを渡した。どうやらはじめから二手に分かれる予定だったようだ。
「ええー!?私も柏木さん待ってたいんですけど」
松本さんが駄々をこねる。俺も俺も、と玲志。
「二人はダメ。二人と違って三坂くんは頑張って絵描いてたんだから。三坂くんよりしっかり働いてよね」
はい、頑張って絵を描いていた三坂です。
美術室で漫画を読んでいたのを知っているのは柏木さんだけ。黙っておこう。
「それじゃあ三坂くん、柏木さん来たら取り敢えず連絡してね」
横山さんはそう言うと松本さんと玲志の首根っこを掴んで進んでいった。
連絡、かあ……
ケータイを見てひとり溜め息。
僕は柏木さんの連絡先を知らない。そのせいで今柏木さんがどこにいるかも知りようがないのだ。
柏木さん、どうしたんだろう。
あんなに来たそうにしてたのに。何かあったのかな。
人気の多いショッピングモール。こんなにたくさん人がいるのに、まるで世界に一人ぼっちみたいだ。




