ⅩⅩⅠ………オレンジが遅れて②
帰りの支度をしていると、どたばたと足音が聞こえてきた。
「おーーい、翔太郎!」
やってきたのは親しき友人、玲志。四階分の階段を駆け上がってきたんだろう、少し息切れしている。
「大変だ、翔太郎!大変なんだ!──そこにいるのは麗しの柏木さんではないか。やっ!」
柏木さんもそれに応えて、やっ、と手を上げる。
こいつ……
僕の冷ややかな目線に気がついたのか、玲志は僕の方に向き直り苦笑い。
「いや、冷やかしに来たわけじゃなくてな。それよりも大変なんだ」
「何が?」
「クラス委員長の横山がさ、俺とお前で文化祭のための買い出しに行けっていうんだよ。ほら、俺たちクラスの出し物の手伝いほとんどしなかっただろ?それで横山がかんかんで……」
あー、なるほど。確かうちのクラスの出し物はメイド喫茶。何かとめんどくさそうだったから美術部を理由に参加していなかった。
「そういえば玲志は?なんで参加しなかったんだよ?」
「あれ、言ってなかったっけ?俺今年から吹奏楽部に入ったんだよ」
吹奏楽部もたしか文化祭に出し物があるから、クラスの方は免除される……はずだが。
「……お前、いつもすぐ帰ってなかったか?」
ひゅーひゅー、とあからさまなごまかしの口笛。しかも音なってないし。
「い、いや、ちがくて。ちゃんと本番には出るし、ソロもあるし、ただ部活には行ってないだけで」
余計ダメじゃねえか。
「それで横山にさっき帰ろうとしたところを呼び止められて、俺だけ文句を言われるのも癪だったから……」
「私と三坂くんを売りやがったのよ、こいつ」
唐突に右から声がして驚いた。声の主は松本さん。漫研を理由に僕らと同じくクラスの方は手伝ってなかったはずだ。
「悪かったって。だから買い出しは俺と翔太郎の二人でするって言っただろ」
いや、なんで僕は決定なんだよ。
松本さんははあ、と大きくため息をつくとやれやれと首を振った。
「……まあ、確かにクラスにまったく貢献しなかったのは悪いと思ってたけど、まさかこいつと一緒の扱いだなんて。明後日の日曜日ね、駅前のミオンで集合だって。横山さんが見張りとしてついてくるから逃げられないわ」
なるほど、だからいやでも全員参加というわけか。
「買い出し……何を買う?」
今まで黙っていた柏木さんが急に話に参加してきた。松本さんはポケットからメモを取り出して読み上げる。
「カラーテープ、フリル、ウィッグ、それから絵具と……」
うわあ、いっぱいある。
松本さんも途中で読むのをやめメモをポケットに突っ込んだ。
「要するに大変なんだな」
玲志がもっともらしい顔でそう言うが、誰のせいでこうなったのかわかっているのだろうか。
柏木さんはふむふむと興味深そうにうなづくと目を輝かせて驚きのひとこと。
「私も行く!」
「「「ぅえ!?」」」
100パーセントシンクロした僕らの驚き声は、特別棟の長い廊下にこだました。




