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サンセットオレンジ  作者: ななる
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ⅩⅢ………秋に辿り着かなかった君に①




 ナツには双子の妹がいる。いや、“いた”の間違いか。名前は千秋(ちあき)。僕は“アキ”て呼んでいた。ナツとアキは鏡写しのようにそっくりだった。顔立ちも背も、歌声も。しかも二人で服装まで揃えるものだから、なにも知らない人はドッペルゲンガーでも見ているのかと、目を見開いて驚くんだ。

 でも数分二人と接しているだけで、もう間違えることはなくなるはずだ。どんなに姿形が似ていても、ナツとアキは全く性質が違うのだから。

 例えば、ナツ。そこはかとなく明るい笑顔、ボーイッシュな言葉使い。誰にでも親しく振る舞い、誰とでも和を築いてゆける。

 そして、アキ。ミステリアスで儚い仕草。まるで謎解きのような不鮮明な言葉使い。蝶のように気紛れに人のもとに訪れて、しかし留まる場所は少ない。

 思ったことをはっきりと言うナツに対して、何を考えているかわからないアキは本気なのかからかっているのかわからない。

 そう、わからなかった。

 彼女が本気で「好きよ」と言ったのが、僕にはわからなかったんだ。


 中学最後の夏。

 僕らの学校では三年生は一学期いっぱいで最後の作品をつくって引退するのが習わしだった。6月末の時点でほとんどの三年生はみんな絵なり彫刻なり完成させていて、夏休みに入っても終わってなかったのは僕だけだった。そもそも、何を描こうか、それすら決まっていなかった。

 その日も相変わらず一人で夏休みに学校に来て、真っ白なキャンバスとにらめっこしていた僕は「ああーー」と一人ごねた。

「くっそ、無駄にハードルあげやがって。なにが『三坂くんの最後の作品、期待してるからね』だよ。僕はお前のために描いているんじゃないんだっ」

自分の髪をわしゃわしゃして、今はいない美術部顧問に文句を垂れる。

 ここは教室。僕のホームルーム教室だ。美術室にいても何も思い付かなかったから気分転換程度に移動してきたのだ。

 キャンバスから離れ、窓から外を眺める。校舎の三階であるこの位置からの景色はいつみても楽しい、ジオラマのようだ。いつもは運動部が活動しているグラウンドだが、今日は誰もいなかった。

「今日、学校に来ているのは僕を含め何人なんだろう」

「さぁ?でも、ワタシと翔太郎、二人きりだったなら、素敵だと思わない?」

 びっくりして僕は声の聞こえた教室の入り口の方を振り返る。そこにいたのは長く美しい茶髪の女生徒。

 ふいに現れたその声の主は、ゆったりとした優雅な仕草で近づいて僕のキャンバスの前に座った。

「アキ、なんでここに?」

 アキは僕の顔を見てクスクスと笑うと芝居かかったようにこう言った。

「雲ひとつない無限の青い空。あんまり素敵な天気だったから、ワタシ、ふらふらとここまでやってきちゃった」

「……で、本当は?」

「翔太郎をからかいに来たの」

やっぱり。長い付き合いの僕にはわかる。“天気がいい”という理由だけじゃ、この蝶は留まらないということが。

「もう翔太郎ったら、そんな顔しないで。さっきのはただの冗談。本当は手伝いに来たの」

 僕はいったいどんな顔をしていたというのか。まあ、それはともかく。

 アキは立ち上がって僕のすぐ横までやって来ると、耳許でこうささやいた。

「ワタシをモデルにしてちょうだい。今回だけは特別に、ね?」

「え?」

アキを、モデルに?

 今まで何度か頼んだけれど、いつも断られていた。アキはいつも「ナツの方がいいでしょ?」と言って、ひらひらと誘いをかわしていくのだ。僕がアキの写真を撮ったときはいつの間にか、アキが写ったところだけ画像編集で別の人が写っていた。それはまるで捕まることを嫌がる蝶のように僕の画から逃げるのだ。

 そのアキが、まさか自分から「モデルにして」と言うなんて、僕の驚きは大変なものだった。

「いいの?」

「翔太郎さえよければね」

その時、ふと彼女は視線を落とした。

 わかったと思っても、煙のように掴めない。

 やっぱり僕には、その時の彼女が掴めずにいた。なぜそんなことを思い付いたのか、なぜ視線を落としたその瞳が少し悲しげに見えたのか、結局最後まで理解することは出来なかった。

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