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賞命首  作者: じゃったん
第一章 ゲーム開始
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第七話 誠 賞命首②

  座席は全て埋まっていたので、誠は吊り革を掴む。窓の外を眺め、なるべく人と顔を合わせないようにする。この動きが本当に得策なのかどうか、誠は分からない。手探り状態だ。

  ナビがイヤホンを通して話しかけてくる。


『誠様。何も言わずに聴いてください。分かっていてほしい話です』


  トーンが一段と下がった声で話しかけられたので、誠は緊張した面持ちになった。


『先程私は、私の持つ力の概要を分析出来たと報告しました。そのことについて、詳しく説明します。さっき、ライフウォッチから飛び出た物は「ガラス」です。ただ、普通のガラスではなく、伸縮自在で盾にも剣にも形を変えることが出来ます。それにこれは、この惑星に存在する素材だけでは決して作れない、とても硬いガラスとなっています。鉄より硬いです』


  誠はあの時の状況を思い出す。確かに、母が持っていた包丁にガラスは負けていなかった。伸縮自在であるという説明も、あの後のガラスの攻撃を見れば納得がいく。


『……私は、このガラスの力の「使い方」はマスターしましたが……「発動条件」だけが、私の意思では満たせないことが判明しました』


  ……発動条件? 誠はナビの説明に聞き入っていく。


『私のこの力は、「殺意」に反応します。人間の心に生まれる「殺意」を感知し、その「殺意」が一定の度合いを超えていた場合のみ、この力の「発動条件」を満たすことが出来るのです』


  母は誠に殺意を抱いていた。だからそれを感知して、母に力を発動してしまった。


『そしてこの力は、「誠様だけに向けられた殺意」のみを感知します。……一見聞こえは良いですが、これにはあるデメリットがあります。……二日前、北のセンコ区画西部のクラタ町にて起きた事件の話をしましょう。運行していた列車が脱線し、多くの死者、負傷者が出たという事件です。関係者は、線路の点検に漏れは無かったと言っていますが、実際には事件は起きてしまっています。誠様、この事件が何を意味しているか分かりますか?』


  誠は少し考えてみたが、すぐには答えは出ない。誠はナビの話の続きを待った。


『線路に細工をした犯人がいるという話です。その犯人の目的はもちろん、「命」なんですよ。犯人がこの犯行を行った場合、これは事故ではなく故意的なものとして、そして死者が出ればそれは、「人が人を殺した」と、このゲームの主催者は捉えるのです。つまり、犯人は列車に乗っていた賞命首を間接的に楽に殺したという、極めて悪質かつ狡猾な手を使ったことになりますよね。……先程私が説明したガラスの力は、明確に「誠様だけに向けられた殺意」にしか反応しません。あとは分かりますよね?……誠様、どうかお気をつけください』


  それから少しの間、誠の耳には静寂が流れた。そして段々と、周りの雑音が入ってくる。乗客の談笑、列車の走行音。最終的には、この規則的に聴こえてくる走行音が誠の脳内を占めていく。まるでそれが、自分の命のカウントダウンを刻んでいるかのように誠は感じた。じっとりとした汗が誠の頬を垂れる。


「お前も悪趣味だな」


  ボソッと誠は呟いた。


『? そうですか?』


「ああ、いちいち情報を言うのが遅い……もう俺は電車に乗ってんだよ……」


『そういえば……そうでしたね』


  でかいため息が誠の口から漏れた。

  結局、列車は脱線することもなく、誠は無事にセンドウ駅に到着した。


『スポットは、駅から3分歩いた所にある「小野崎商店」という店です』


「……ん、分かった」


  8時45分、誠はようやく最初のスポットの「小野崎商店」に着いた。その店の向かいにバス停のベンチがあったので、誠はそこに座った。リュックからスポーツ飲料を取り出し、それを飲む。


「着いたぞ、ナビ、これでいいのか?」


『えーと、周りに人はいませんか?』


  そう言われて、誠は辺りを見渡した。駅に近い場所だが、比較的人通りが少ない場所だったので、特に怪しいと思われる人物は見当たらなかった。


「うん、大丈夫だと思うけど」


『では、これを見てください』


  誠がパーカーの袖をまくると、ライフウォッチからマップ画面が浮き出た。そこには次のスポットが表示されている。


「スポットが切り替わってるな。サクラ町、空き地(No.0253)……次はここに行けばいいんだな?」


  サクラ町は、今いるセンドウ町の南東に位置する。


『はい。10時45分までに、そこに到着してください』


「結構ハードだな……早く着けばその分、次のスポットに行く時間が延長されると思ってたんだが」


『逆ですね。スポットが提示されてからの制限時間は2時間で固定です。なので、移動が早ければ早いほど、午後は余裕が持てるようになりますよ』


「はあ……身もそうだが、心も持たんよ。さっきみたいな話ばっか聞かされたら寿命が縮む」


『失礼ですね。私は誠様に常に危機感を持っていてほしいのですよ? 私は今現在「故障中」なんです。強い力を持ったからと言って、いつ私が本当に壊れてもおかしくない状況なんです。そうなった時、誠様は一人で生き延びられますか?』


「……いやまず、お前が壊れたら、マップのスポットすら表示されなくなるよな?」


『そ、そうですよ! そうなったらもうお終いです! だから、私のことは十分慈しんでください!』


「わ、わかったよ……」


  まくった袖を戻し、誠はその場を後にした。誠はまた電車に乗ろうかどうか迷ったが、やっぱり乗った方が楽だ、という甘い考えで動いた。

  また何事もなく、誠はスポットであるサクラ町の空き地に到着した。


「さっきのスポットから50分か……良いペースなんじゃないか?」


『……』


「……ナビ、どうした?」


  誠は袖をまくり、ライフウォッチの状態を確認する。インデックスの画面に、赤いエクスクラメーション・マークが点滅していた。


「……おい」


  突然背後から聞こえたその声に、誠は振り向く。そこには、見知らぬ成人男性思しき人が立っていた。その男が口を開く。


「オマエ……賞命首だな?」


  カチカチと音を立てながら、男が右手に持つカッターナイフが顔をのぞかせている。


(……!? なんで……何故バレた!?)


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