師と弟子
第5話『師と弟子』
自分はなんでもできると思っていた。王族であるため金に余裕はあるし、頭もいい、何より才能がある。だからすぐに強くなって、誰にも負けない男になれると思っていた。しかし…
『おりゃぁああああ!!!』
『お?いい攻撃、だけど下がお留守だよ』
渾身の一撃を軽く躱されて、そのまま足払い、勢いそのままに前へ転びそうになるが、剣を進行方向とは逆に振り、クルッと身体の向きを変えた、しかし勢いを殺せず背中から倒れる。倒れてすぐ立ち上がろうしたが、目の前に剣先を向けられて、戦意が喪失した。
『よし、じゃあちょっと休憩にしようか』
『くそぉーーーーまた負けた』
『甘い甘い、私に勝てるには100年早いわよ』
『100年って・・・そりゃないですよ師匠』
しかし、あながち嘘ではない、それほどまでに彼女の剣技は美しく強いのだから
『そう?私には100年だし、王女様にも、うーんそうね、10年くらいじゃない?』
『そ、そんな・・・・』
てっとり速く、強くなれると思って師匠に弟子入りしたのに・・・・
あまり嘘をつかないタイプ人だからこそ、この言葉結構なダメージになる。
すくっと立ち上がり、気分転換に散歩しに行く。
『あ、あれ?どこ行くの?』
『便所ですよ』
庭から城内に行く途中、城門から一人の女性が入ってくのが見えた。誰だろうか、その女性は兵の人に案内されている。 気になった俺はその後ろを追いかける。案内された先は王室、そこに彼女は自分の家のように入って行った。
少し開いたドアの隙間から覗くと、彼女は王様と、とても親しげに話していた。
『イズ姉とあんなに親しげに話しているあの人は、何者なんだ・・・』
じっと見つめていると後頭部に痛みが走る。
『コラッ、帰ってこないと思ったらこんなとこでサボって』
『あ、すみません、そんなことより師匠、あの人、イズ姉と親しげなんですけど何者か知ってますか? 』
『そんなことって・・・貴方はもう、どれどれ、あーあの子ね、友達だよ、女王様の』
『いや、それはわかるんですけど・・・・』
チラッともう一度彼女を見ようとするとと首の後ろををガッと掴まれる
『さ、修行再開するよ、女の子に鼻の下を伸ばしてるやつは厳しくしなきゃね』
『あーそんなぁー』
そのままズルズルと引きずられて、庭に戻り修行を再開した。
その夜、寝床についた所で、あの時聞いた話を思い返して整理する。
『魔王討伐』に『特殊能力』そんな言葉が出ていた。
魔王討伐って女の子一人で?そもそも魔王なんて、それと能力ってなんだ、そんな・・・・結局わからないことをいつまでも考えても意味はないので、明日イズ姉に直接聞きに行くことにした。もしかしたら旅に出れるチャンスかもしれないし、旅に出れるということは初めてこの国を出れる、幸い明日はアコ師匠に用事があるから修行は休みって言ってたし。
翌日、イズ姉を見つけた時、彼女の目は赤く充血していた。
『あ、やっと見つけましたイズ姉様、ってあれ?泣いてました?』
『う、うるさい、それより何の用よ、リョク』
『あ、そうでした、その、私も魔王討伐の旅のメンバーに入れて欲しいんです。ほら、その女の子一人だと危険もありますし』
『リョク…貴方盗み聞きしてたのね、まったく・・・でもそれなら安心して、魔導師のさちちゃんもいるから平気よ、それに』
『あ、え、さ、さち様も一緒なのですね、いやしかしあの魔導師さち様と言えどやはり女性ですし、ここは男手として私を『もう行ったわよ』メンバーにいれてって、え?なんて』
『先ほど旅に出ていかれました』
横にいる大臣が一言
『ええええ!?はやくないですか???昨日こちらに着いたばかりじゃないですか!!』
『ふふ、あの子の性格だからね、それよりも貴方が行った方が私の心配事が増えるだけよ、ダメよ』
『し、しかし』
『あ、もしかして惚れちゃった?、なら余計にダメよ貴方はそういう子だもの、私の友人に手出し無用よ?』
『ち、ちがいます!!純粋に私は・・・』
『ダメったらダメです、諦めなさい』
そう言いながら彼女は王室に帰って行った。
『い、イズ姉様、』
ガクッと膝から崩れ落ちた。
とぼとぼと自室に戻りベッドに倒れこむ。こんなにも早く出て行くとは計算違いだった。俺はどうしたらいいかと考える。簡単には諦めきれない理由がある。俺はこの国の外を出たことがないのだ。物心つく頃には戦争が終わっていた。王族の身である以上危険にな場所に出ることは許されなかった。
それと、あの麗しい女性に近づけるチャン・・・それは置いといて旅に出れる口実があるこのチャンスを無下にはできなかった。
その夜、考えた結果、俺はこっそり国を抜け出すことにした。彼女たちに追いついて活躍でもすればイズ姉に怒られることもないだろう。
裏門からでて門番のジャイアントゴーレムを軽く撫でてから、俺は生まれて初めて外の世界に足を踏み入れた。
彼女たちが旅に出てから半日以上たっているが、すぐに追いつけるとそう思っていた。しかし考えは甘かった。いや甘すぎた。
しばらく歩いてからふとあることに気づいた。
『あ、まずどこに向かったか知らねーじゃん!!!』
暗闇の中、悲しい声がこだまする。
今更、国に戻るわけにもいかず、どうしようかと思って立ち止まっていると、暗闇から殺気を感じた。
『よう。にいちゃん』
見るからに悪そうなゴロツキ、すかさず剣を構え臨戦態勢になる。
『おう、おう、そんなあぶねーもん持って、おとなしくすれば命はたすけてやるからな?お金になりそうなものだけ出してくれればいいから』
ほれほれと半笑いで近づいてくる。呼吸を整えて
『やらねーよ』
見下すように言い放つ
『あーそうかい、じゃあ大人しくしてから貰おうかなぁ!』
ゴロツキはふところからククリナイフだしてこちらに向かって走ってくる。切り下げてきたナイフに対してナナメに剣を当てそのまま誘導するように去なし横に躱す。あまりにも軽く躱されて、苛立ったのか『チッ』と舌打ちをしてもう一度こちらに向かってくる、今度は剣を当てずに横にひらりと避け、手首を峰打ちで叩く、するとゴロツキはナイフを落とす。
『て、てめぇ何をした』
『何をって、ちょっと手首を強めに叩いただけだよ、まぁしばらくは痺れて何も持てないだろうけど
こちらは命を取る気は無いさ、できればそのまま、さっさといなくなってくれないかな』
『あぁ??調子乗ってんじゃねーぞガキが!おい!てめーら出てこい』
そう言うと9〜10人が物陰からぞろぞろと現れ、すぐに囲まれた。
『だから言ったじゃ無いっすか兄貴。一人は舐めすぎって』
『うるせぇささっさとこのガキを殺れ!!』
『『『へい』』』
『へ、へ、来いよ!!』
想像してた人数よりはるかに多く、声が震える。
右前方から来た敵を躱して、反対側から来た敵と衝突させ、次に後ろから斬り下げに対して下からはじき返して、開いた腹部を殴ろうとした時、身体が急に動かなくなり膝をついてしまう。剣を持ち上げようとしても重すぎて持ち上がらない。
『こ、これは重力魔法か!』
重くなった剣はうまく上がらず、敵の攻撃に防御が間に合わない、振り降りてくる刃がスローモーションに見え、死気を悟った・・・・
俺はなんでもできると思っていた、それ故の甘さから来た敗北に数時間前の自分を呪った。あ、終わったと思い目をとじた。その瞬間
『キンッ』
来るはずの痛みはなく高い金属音だけが聞こえた、恐る恐る目を開くと降りて来るはずの刃は視界の外から伸びる剣に止められていた。
『悪いねお兄さん、いくらできの悪い弟子でも、こんな私を好いてついきてくれるんだ。そんな子を簡単に.あっちには行かせられないんだ』
そこからは一瞬だった、そのまま敵のナイフを頭上に弾き飛ばしガラ空きになった腹を蹴り飛ばし、後衛に控えてたいた奴らごとぶっ飛ばす。その後、後ろから飛んで来た矢に対して剣を使い、クルッと回りながら勢い殺さずに方向転換、その先いる術師の杖に当てる。術者がびっくりして後ろに倒れると同時に、先ほど飛ばしたナイフが落ちてきて、それを蹴り飛ばして弓使いの弓を破壊した。
俺を含め、その場いる彼女以外の全員が一瞬の出来事すぎて何が起きたか理解できなかった。
『ひ。ひいいい』と、完全に戦意喪失したゴロツキたちは情けない声を発しながら逃げて行った。
『ほら。立てるかリョク』
優しく差し出される手
『た、たすかりました師匠』
怪我はないようだねと安堵する師匠みてふと思う。
『てか、師匠なんでこんな所に?』
『リョク…こっそり抜け出したと思ってるけど、女王様にはバレバレだからね』
『え、じゃあ。師匠はイズ姉に頼まれて、俺を呼び戻しに来たと言うのですね!!』
『違うけど』
『俺は戻りませんよ!せっかくの、、って?違うんですか?』
『私は女王様から貴方を連れて、勇者に追いつき、共に魔王討伐するって命令されたのよ。本当は明日の朝出るはずだったのに、貴方が夜中に飛び出すって言うもんですから表門で見張ってたのよ、そのあと裏門も あったことに気がついて、そっちにまわったら貴方はすでに出たあとだったからあわてて追いかけてきたのよ』
いや、それでもなんで正確な場所がわかるんだよと疑問に思ったがそれは声に出さなかった。
『どうせ、リョク、貴方の事だからちゃんと準備もしないまま出て来たでしょう、これ王女様からよ』
食料が入ったリュックサックを渡される。
『それじゃあ行こうか、きっとすぐ追いつけるよ。たまたま方向は合ってるみたいだしね』
『はい!』
続く