第五話:第一予選二日目その参
そんな赤組の快勝となった試合の後、前回同様に小さな祝勝会が開かれていた。
場所は先日と同じで大演習場の外、屋台の並ぶ人混みの中で、だ。
メンバーも先日同様に梓、愛、大吾。そして慎二である。
梓や愛は観客席で時間を共にしていたから分かるのだが、慎二はどうやってこの大勢の人間の中から彼らを見つけることが出来たのだろうか。
少年曰く、「すぐ分かる」と何とも疑問しか残らない答えだったのだが、この際そんな些細なことは気にしないでおくことにした。
折角の祝勝会なのだ。つまらないことに耽るよりも楽しくいきたい。
それでは今回のお供だが、揚げ鶏から一転、皆が片手にもっているのはトウモロコシである。
そのトウモロコシの表面には特製のタレが塗られており、網の上で焼かれたことで、より色濃く、また程よく焼け跡が残っており実に美味しそうだ。
湯気と共に鼻孔をくすぐる香ばしい匂いが、より食欲を促進させる。
ちなみに孤児院に住む慎二はお金が無い為、梓にご馳走してもらっている。
前回は皆のを少しずつ分け与えられただけだったが、今回は丸々一人分を手にしていてすごく嬉しそうだ。梓も奢った甲斐があるというものだろう。
「それじゃ、鳳くんの勝利を祝って……乾杯!」
「「乾杯~!」」
手にした飲み物は昨日と同じものだ。ゴクゴクと喉を鳴らしながら流し込んでいく。
「それにしても、良かったわね~アンタ」
「ん? どういう意味だ?」
「チームが、よ。作戦立案者が、とでも言うべきなのかな? 王道的戦略で圧倒的勝利だったじゃん」
愛は語る。
勝利を貢献したのは間違いなく、この作戦を立てた人物である。
特に捻った作戦というわけでもないが、シンプルで理に適った良い作戦だとそう評価した。
その素晴らしい作戦の立案者が大吾だとは知らずに。
珍しく自分を褒める少女に、大吾はニタ~っと笑みを見せると、どのタイミングで暴露したものかと模索する。
「……何その顔? 気持ち悪いんだけど」
「いや、別に? まあ確かにあの作戦のおかげだもんな」
「上から見ている限りはね。誰もが思いつきそうなものだけど、色々考えるあまり誰も浮かばなかったのかもね」
「まあ、そりゃ一理あるな」
「それにアンターーというよりかは、今回、特にこの人が活躍した! ってのは無かったからね。アンタがどこで戦っているのかも正直分からなかったわ」
「ひでえな。応援してくれてたんじゃねえのかよ?」
「あんな激しく入り乱れる密集地帯で人を探すって、中々困難だって」
「そうね。最後の方は何が何だか分からずに、いつの間にか旗が取られてて終わっちゃったからね」
「上から見るとそうなのかもしれねえが、下じゃ結構俺も頑張ってたんだがな」
「うん。慎二は見てた。大吾強い。剣の腕なら慎二よりも梓よりも」
「おお。ありがとよ!」
大吾はわしゃわしゃと慎二の頭を豪快に撫でる。
「……にしても、まさか毎日地形を変えてくるとは、思い切ったことするよね」
「そうね。自国強兵の為に様々な戦法をみんなに見せたいって事なんだろうけど」
「はてさて、明日はどんな地形になるやら」
「ま、愛さんにとってはそこがこの舞闘会の醍醐味の一つになってきてるけどね」
同じ環境でより趣向を凝らすというのも一興だが、やはり未知の環境という中で方法を探すというのも面白いものだ、と愛は語る。
実際明日も同じ環境下での戦いとなれば、おそらく今日と同じような戦法がとられるだろう。無論、多少のアレンジはあると思うが、劇的に変わりはしない。
あの場ではあれが模範ともいえるような戦い方なのだから。
しかしそれでは、一言で言えばつまらない。
変化があるからこそ楽しいものなのだと、そう言いたげに。
「皆、明日も来る?」
慎二は不意に梓らに質問する。
「明日か~。愛さんは予選が四日目だし、みんなは終わってるもんね」
「そうだな。まあ特別な催しだから正直見たいって気持ちは山々なんだがーーどうするつもりなんだ?」
「残念だけど私はやめておくわ。ここまでの距離を往復するのも大変だし。それに、明日は少しやりたいことがあるから」
「そっかー。梓がいかないなら愛もやめとこっかな。ところで梓は明日何するの?」
「え、別に大したことじゃないわよ?」
「ならいいじゃん。愛さんにも教えてよ~」
「……まあいいけど。単純に、最近父上が忙しそうだから、食事でも作って上げようかな~って」
「おお! いいな、それ。だったら俺も行くのはなしだ。それ手伝わせてくれ!」
「はいはい! 愛さんも!」
「え、でもーー」
「い~から、い~から。梓のお父様にはずっとお世話になってるんだし、愛さんらにも何かさせてくんないと困るって」
「そうそう。飯に、訓練に、寝床。至れり尽くせりじゃ、俺らも心苦しいわけよ。嫌じゃないなら手伝わせてくれや」
「……分かったわ。じゃあ協力してもらえる?」
「喜んで!」
「勿論!」
ということで、明日の予定は決まった。
その一連のやり取りを見ていた慎二は不思議そうに尋ねる。
「皆、一緒に住んでる?」
「あー、違う違う。まあ一週間の内半分以上は一緒だから、そういわれればそうかもしれないが」
クラウンが白城家の当主として座ってからというものの、聖騎士学校で訓練のある日に関してはほぼ毎日住まわせてもらっている。無論彼らにも帰る場所はあるので、訓練のない休日等は各自帰省しているのだが、特にここ最近、戦後に関しては聖騎士学校が一時閉鎖となっている為、ほぼ毎日一緒にいるといってもいい。
「良かったら慎二も来る?」
「慎二、行けない。孤児院で面倒をみなきゃいけない子がいるから」
「そっか。慎二はお兄さんなのね」
「そう。孤児院に住んでる子どもの中では慎二が年長。お兄さん」
「っかっかっか! 慎二も偉いな。頑張れよ!」
「うん。頑張る」
「そういえば、慎二って何歳なの? 私達と同じぐらいか、それよりも下かなって思ってたんだけど」
「知らない」
「知らない? でもさっき自分で『年長』って……」
「慎二以外は五、六歳位の子ばかり。外見で判断」
「……そういうことか。しかし、年齢が分からないって……」
「まあ、珍しいものじゃないしね」
そう最後に愛が付け足す。
実際このローランド法王国でも、自分の年齢を知らない者たちは少なからずいる。
その理由として大きいのは家庭環境だ。ローランド法王国では誕生日を祝う者がほとんどだが、中にはそれをしない家庭もある。
元々この地に住む者はともかく、移り住んできた者らの中にはそういった習慣がないということで、自らの歳を数えないのだ。
歳を知らないのは不便ではあるが、だからといって特別困るということもなかった。何故ならそういった者たちは見た目で年齢を判断されるからである。
慎二もそういった家庭で育ってきたのだろう。
であれば仕方があるまい。自分達が当たり前に思っている習慣を無理に押し付ける必要はないのだから。
そう話を区切ると、愛は立ち上がってこの場を締めくくる。
「じゃ、そろそろ帰りますか」
「そうだな」
「じゃあね慎二。また……明後日に」
「うん。バイバイ」




