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下級悪魔の労働条件  作者: 桜兎
第一章:初めての父親
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第五話:白城梓 VS 松蔭司

戦線を離脱した二人は安堵あんどの息を吐いていた。



「ーーあのまま続けてたらヤバかったな」


「そうだね。愛さんの戦技まで悠々と避けられちゃったし、初撃の対象が愛さんだったらとっくに戦闘不能だったかも」


「流石は松蔭家ってわけだ。一対一で勝てるイメージが浮かばねえ」



時間にしてはほんの短い間の攻防。

 その中で司の実力の片鱗へんりん垣間かいま見た愛と大吾は、先の戦闘を頭の中で反芻しながら、その続きを覗こうとしていた。

しかしその未来さきには、自分たちが勝利する姿をただの一度も想像することが敵わないでいた。



(ああは言ったけど、梓……頑張ってね」



二人掛かりでも一撃入れることが出来なかった相手を前に、不安をつのらせる。



(ダメダメ。梓は本当に凄いんだから!)



そしてすぐに思考を振り払う。



(愛さんが梓のことしっかり信じてあげないと!)



そんなコロコロと表情の変わる愛の横に並び立つと、大吾は声を漏らした。



「情けねえな、俺たち」


「……そうね」



その視線の先には未だ互いに身動きを取らない二人。

いよいよしびれを切らしたのか、司が誘う。



「来い」


「言われずともッ!」



ザッ!! と地面を蹴りつけ、自身の最速をもって突き破らんと司に突進する。

舞った砂埃すなぼこりが梓の影を追いかけるように続き、周囲へとまき散らす。

 眼前に肉薄にくはくする剣先だが、司はやはり身をずらし容易たやすく避けてみせる。


ここまでは梓の想定通りだ。

突きに放った右手から、剣を左手に持ち替えて勢いをつけて薙ぎ払う。



「こんッのぉッ!」



だがそんなゆるやかなスピードでは、当然司を捉えることは叶わない。

薄っすらと残る剣閃光を身を低くしてそれを避けた司は、無防備となった梓の体を容赦ようしゃなく剣で貫いた。



「梓っ!?」


「白城!?」



友が串刺しとなった瞬間を目の当たりに、愛と大吾の声が大きく漏れる。

ーーだが串刺した当人からも声が漏れた。



「んッ!?」



突き刺したはずの感触が司の手に伝わってこない。

突き刺した梓の形をしたソレは、すぐに黒い影へと変色し掻き消えた。


≪精霊術・二重の歩く者ドッペルゲンガー

一瞬にして自分と自分の影の位置を入れ替える精霊術。

つまり司は梓の影を突き刺したということだ。



「闇の精霊術か!?」



司がそう気づいた瞬間には、砂煙に低く隠れたほんたいが眼光を鋭くさせ、再び技を振るっていた。



「【荒波あらなみ】!」



今度は逆に下からアッパーのように切り上げられる剣。

不意を突かれた司は避けることができず防御にてっする。突き上げていた剣を引き戻すと、剣身を横にしてその中央で梓の剣を受け止めようとした。


しかし司の思惑おもわくは外れる。

およそ少女の身から発せられた衝撃ではない。

司の剣は金属音と共に弾かれ、司の手から離れていってしまう。



「何っ!?」



数秒前と違い、今度は自身が無防備の状態となってしまったことに驚愕きょうがくする。


【戦技・荒波】

梓の所有する剣の精霊と、白城の剣技の合わせ技である。

本来であれば敵の防御を弾き、死に体となった敵を振り下ろしの一撃で仕留める剣技で、梓の祖母はこれを精霊術と合わせることなくその技術のみで敵の防御を弾いていた。


しかし梓は実践において移り変わる敵の重心を捉え、そこを崩すように初撃を放つことなどできない。

そのため自身の精霊から直接衝撃を重ねてもらうことで、力づくで防御を突破するという、いわば力技ちからわざだ。

それが今回見事に敵の防御を突破することに成功した。


周りにいる誰もが梓の勝利を確信した。

とどめの振り下ろしの一撃。


ーー勝った。


完璧な奇襲に梓自身も勝利を過ぎらせる。


ーーしかし喝采かっさいが起こることはなかった。



「≪精霊術・二重の歩く者ドッペルゲンガー≫」



そう紡がれた声と共に司の影は両断され、霧散むさんする。



「え?」



疑問符を頭に残したまま振り下ろした剣の勢いを利用され、梓は地べたに投げつけられる。



「ッあッ!?」



甲冑の中で響く衝撃に一瞬目を閉じて、苦痛が漏らしてしまう。


ーー何が起こった?


梓は一体自分がどうなってしまったのかさえ分からないでいた。

観戦に徹していた他の騎士生でさえ、その一瞬の攻防に何が起きたのか理解出来ないものが半数以上。

唯一そこ時間の流れを垣間見たることが出来たのは大吾と愛だけだった。しかし理解しても信じられないというように目を見開くばかり。


地面の感触を甲冑越しに確かめながらようやく叩きつけられたことに理解する。

そして目を開いた時には、その喉元に梓の手から離れた剣が突き付けられていた。



「お前たちの負けだ」



剣を握る司が梓を見下ろしながら言葉を残し、短い決闘が終了した。


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