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下級悪魔の労働条件  作者: 桜兎
第二章:セスバイア法王国の狂った巫女姫
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エピローグ

 ローランド法王国から遥か西、【放牧の大地】はおよそ人間が住むには適していない。

 その理由の一つとしては神々の悪戯ともいえる局地的な環境変化である。ある一角では大雪に見舞われて壮大な雪原の地となっているのに、ある一線を越えると緑豊かな草原が広がっている。その草原もまたある境界線を越えることで灼熱の溶岩が流れる火山地帯となったりと、通常では在り得ないはずの環境が入り混じっているのだ。

 また人が住む環境としては過酷過ぎる反面、特定の生物からすれば自分の住処を守ってさえいれば生活しやすい為、人間以外の様々な生き物が入り混じって住んでいる。その中には人間をかてとする動物が数多くいる為、とてもじゃないが人間が生活することは難しいだろう。

 

 そんな大地の一区画には、大きな湖を森林が囲う、いわば密林のような場所がある。

 しかし不思議なことにその湖のほとりには、明らかに人の手によって造られたであろう建築物があった。

 樹木の幹や枝を主要な構造材として使用された、いわば丸太小屋である。ただし小屋といっても正直小さいとはいえない。どれだけ大きな木を切り倒して作ったのか、壁を形成する丸太は太く長く伸びていて、広い面積を占有していた。

 とはいっても何十人もの人間を収納できる程までには広くないので、あくまでも一般的な小屋と比べるとーーという程度である。

 しかしこんな場所に小屋など造って誰が使うのだろうか。この地に放り出されてしまったのならば唯一の安全地帯となりうるかもしれないが、そもそもこの地に人間自体やってくるのは稀である。

 その証拠にこの丸太小屋、暫く使われていないのか、伸びたつるが小屋の周りをむしばんでいる。その長さと量をみるだけで、かなりの年月が経っていることが分かるだろう。扉もつるが鍵の代わりを担ってしまっているので、らねば開けることすらできない。 

 だがそんな状態だというのに、その中には人影が存在した。いや、厳密にいうとたった今出現したといったほうが正しいだろう。


 小屋の中は家具が置かれているわけでもなく、何もない部屋にただ木の匂いが漂っているだけのもの。

 その中心に突如、小さな光の粒子とともに二つの人影が現れる。

 一つはかなり巨大。一つ一つの部位がこの丸太小屋の丸太のように太く逞しく、一瞬にして小屋が小さくなったように感じるほどだ。何故か亀裂が入っていたり、箇所によっては欠損してしまっている鎧を身に纏い、顔には不気味な一つ目が描かれている。

 もう一つは片方と比べるとかなり小さい。もともと小さいのだが、その巨大な影の横に立つとその小ささが際立って目立つ。

 扉も開けず目立つようにいきなりその場に現れた影ーー単眼の巨人キュクロプスことシグマとセスバイア法王国の巫女姫ことプラムエルは、物静かな場所を確認して、戦線を無事離脱出来たことを確認した。



「……何だったのあの人?」



 プラムエルは大きく手を広げながら床に大の字で倒れ込んだ。ぷはーっと息を吐き、天井を見上げながら自分が戦っていた相手のことを思い出す。

 三大騎士家というのも大したものだ。玄武や静香らに苦戦することはなかったが、それでも剣を振るう速度や戦いの経験から生きた戦術というのは、素人からするとやはり勉強になるものも多かった。ただし結局はプラムエルが誇る魔力量と精霊術の力押しで何とかなった。

 だが最後に現れた白城家の当主はまるで想像を超えていた。

 人間の速度でおよそけることの叶わない≪雷の上位精霊トール≫の攻撃を防ぎ、かわされてしまったのだ。挙句の果てには剣で斬りつける、棍棒で叩きつけるといった殺すつもりの攻撃などではなく、まるでしつけるようにお尻を叩かれてしまった。

 痛みはあるがそんな事が問題なのではない。傲慢不遜に生きてきたこの身に経験することも叶わなかった屈辱。思い出すとひどく格好悪く無様なものだった。

 第三者視点でその光景を回想すると頬どころか顔全体が赤く火照ほてってしまう。



「ああ、ーーご主人様のお尻ケツを引っ叩いていた奴のことか」



 彼女が気にしていたことを土足で踏み荒らす。

 恥の赤は怒りの赤も混ざってプラムエルは爆発した。



「ちょ、見てたの!?」


「当然だろう。主人の身を護るのがしもべである俺様の役目でもあるのだから」


「なら何でさっさと助けてくれなかったのさ!?」



 もっともな意見をぶつけられ、シグマは溜め息まじりに謝罪する。



「それについちゃ弁解の言葉もない。この俺様も奴の部下に足止めをくらっちまってな」


「……シグマを足止めすることのできる奴ってどんな奴よ?」


「何だ、見てなかったのか?」


「アタシは目の前の敵だけで精一杯だったの!」



 怒鳴りつけるようにして放ったプラムエルであるが、初めて口にする自分の限界を認めた自身の発言に悔しさが込み上げる。

 自分は強者だ。精霊に認められた数少ない人間。しかし上には上がいた。そんな自分とは縁遠い名言がまさか自分が体感することになるとは。

 認めさせてしまった自分にも腹を縦ながら、シグマを低い場所から睨みつけた。



「すまんな」



 そう言ってシグマも腰を落とす。

 背丈が半分程度になったが、それでも肩幅が広いせいか巨大な岩のような圧迫感が小屋の中に残る。


 

「俺様が手間取ったのは、お嬢様をコケにしてくれた白城家当主殿の執事であろう格好をした子どもだ」


「執事? ただの執事がアナタを抑えるなんて……、もしかして人間じゃない?」



 とくに『子ども』という点に関しては気にもされず、会話が続けられる。



「おそらくな。ハッキリとは断言できんが、おそらく奴も俺様と同様悪魔なんだろうよ。俺様と同等以上の力を放ってやがった。しかもそんな奴がもう一体」



 その言葉に「うへ~」と嫌な顔をしながら、プラムエルは身を起こす。



「……あれ? ーーってことはさ、あのクラウンって人が悪魔召喚を行ったってこと?」


「おそらくな。あんな強大な悪魔を二体も召喚するたぁ、一体どれ程の対価を差し出したのやら」



 必ずしも強大な魔力を持つ悪魔が、召喚した人間に求める対価が召喚者が躊躇ためらってしまうほど巨大なものであるとは限らないが、基本は比例していると言っていいだろう。

 だがそれはあくまでも人間と悪魔であればの話。クラウン自身が悪魔と知らないシグマは、在りもしないその中身を無駄に想像する。

 悪魔であるシグマが興味をそそられたのはその代償と白城家当主の力量であったが、プラムエルはそんなシグマの呟きよりも気になった部分があった。

 


(ローランド法王国が誇る『聖』の名を冠する騎士の頂点、それが悪魔召喚してるって……)



 もしそれが事実だとすればーー。そんな事を考えるとプラムエルはまた一つ、面白い事を考えたと笑みを溢す。



「それ……使える・・・かも」



 そう微笑むプラムエルを見ながら、仮面の悪魔はやれやれと首を振った。

 まだまだ楽しみは尽きなさそうだ。小屋に居座る二人の影は次なる計画あそびを各々の内に秘めながらそんな事を考える。

 いつの間にか雨も降ってきたようだ。

 小屋を激しく叩きつける豪雨に、そんな二人の会話は誰にも聞かれることなく掻き消されていった。


 どうも皆さま、桜兎です!

 約三か月をもってようやく第二章が完結しました。とろとろと遅い更新ペースではございましたが、いつも応援・ご愛読していただいた皆様には感謝してもしきれません!


 人知れず無名の作品として更新し続け、最初は更新していても一人も読んでいただけないというのも珍しいことではございませんでしたが、最近では多くの方に目を通していただき、いつの間にかPVも10000を突破していました!

 本当にありがとうございます!


 さて、この第二章はいかがでしたか?

 初めてその戦いぶりをみせた玄武や静香、それを圧倒したプラムエルとシグマなどの新たな登場人物。もしかしたらお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は作者、このシグマというキャラクターを気に入っちゃってます笑

 作者が贔屓しちゃいかんだろうと思いますが、書いている内に、もっと活躍するはずだった玄武や静香が当初の予定よりも活躍しませんでした。ただ彼らを庇うわけではありませんが、彼らも作中の人間の中ではとても強いキャラクターです。今後の活躍に期待してください!


 そして作中に登場させた脇役ともいえるキャラ三名(第二話登場)の名前。

 これにはお気づきの方も多いと思います。完全に作者の悪ふざけです。本当にすいません。時たまに異物を混ぜるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。


 まあなんやかんやありましたが、今回はプラムエルとシグマのお喋りで幕引き。

 第三章からは戦争後の話から始めていきますので、是非次回もお楽しみいただければと思います。


 よろしければブックマーク等もぜひぜひ('◇')ゞ

 

 ではまた第三章で!

 


 

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