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下級悪魔の労働条件  作者: 桜兎
第二章:セスバイア法王国の狂った巫女姫
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プロローグ

 新章スタート。

 今回は超短めです。ご容赦を。

 ーーセスバイア法王国。

 法王の大地においてローランド法王国に次ぐ面積を誇る国で、人口の数でいえば全四ヵ国の内で最大である。その証拠がこの国の構造だ。


 ローランド法王国と違って自然がなく、国土の一片に至るまで人工物でひしめきあっている。国内全てに舗装された道路が行き届き、それに沿って新鮮かつ華やかな建物が並んでいるのだ。一般市民が住まう家も、歴史を感じさせないほど美しく新しいものだった。

 これだけでいかにこの国の技術が発展しているかが理解できるだろう。


 古めかしい建築物がほとんど無い為、落ち着いた佇まいを見せないこの国に「おもむきがない」と思う者もいるかもしれないが、これがこの国が発展し誇る一つなのだ。便利なこの国の環境に不満を漏らす者などいるはずもなかった。


 朝日の眩さが靄のように街道に溢れる頃、いつもなら朝市で賑わう中心街が剣呑な空気で包まれていた。ガヤガヤという表現が一番しっくりくるだろう。人々の話題の中心は隣国の情報だった。

 そしてそれはローランド法王国の三大騎士家が復活したという内容だった。


 ローランド法王国の象徴たる紋章は、白い城、大きな盾、剣と槍。この三つが組み合わさって構成されたもので、その一つ一つは三大騎士家である白城家、松蔭家、そして獏党家のシンボルとして担っている。

 ただつい数日前まで、その一つが当主不在となった為次第にすたれていき、このままではローランド法王国のシンボルが一つ減るのではないかと、隣国の同盟国の不幸に笑っていたのだが、どうやらそれがまた復活すると聞いてざわめめいていたのだった。


 無理もない話だ。

 同盟国とはいえ、セスバイア法王国とローランド法王国は幾多にも渡る血塗られた戦争の上に成り立った関係なのだ。その戦争で圧倒的な力を見せたとされる三大騎士家がどれだけの屍を築き上げてきたことか。

 二十年近くも前に起きた戦争を思い出すだけで震えがとまらない。

 今を生きる大人たちはその戦線で生き残った者と、その戦いで命を失った子どもたちばかりだった。同盟という関係ではあるが、その憎しみが途絶えることはなかった。


 そしてその憎悪を引き継ぐ者がまた一人。

 セスバイア法王国を治める巫女姫ーープラムエル・ムーデ・セスバイアが深くため息をついていた。



「はあぁぁぁぁ……」



 白銀の艶のある髪は眉と肩ほどの位置でそれぞれ切り揃えられており、それが彼女の顔だちを幼く見せる。

 髪型だけではない。細い眉や髪と同じ色を持つ小さな瞳、色素の薄い細い唇。耳につけた大きなリング状の装飾品だけは違ったが、顔のつくりも全体的に幼く、背丈も小さかった。

 それもそのはず。彼女は正真正銘の少女なのだから。

 姫という立場でありながら、膝までしかないような短いパンツの両端から出る足をパタパタと揺れ動かし遊ばせている様は年相応ともいえるが、この場においては相応しくなかったのであろう。

 艶やかな玉座に座る少女の傍らで、金髪の男がコホンと咳を鳴らす。



「ごめんてグラム。だって仕方ないじゃん。敵国・・の戦力が増大しちゃったんだよ? チャンスだと思って再戦する為の下準備に、折角めんどくさそうな……あれ? あの二人何て名前だっけ?」


住良木すめらぎ神原かんばるでございます」



 グラムと呼ばれた青年がそう答えた。

 その声は表情通りに落ち着いたもので、この静謐という言葉が相応しい空間においては実に合致しているといえるだろう。

 プラムエルが腰を据えるその場は、セスバイア法王国の謁見の間。

 その頭上ではこの国で崇拝している生命の女神・レーベンをかたどった像が部屋にいる人間全てを見下ろしており、その部屋の話に耳を傾けているようだった。

 そんな女神を気に留めることもなく、二人は淡々と会話を続ける。



「そう! それそれ! そいつらを殺して戦力ダウンさせたっていうのに、まためんどくさそうな奴が増えたってことでしょ?」


左様さようです」


「あーやだやだ。ただでさえ怪しまれてるこっちとしてはーー」


「いえ。どうやら向こうはこちらが関与していることがばれてしまっているようです」


「ハア!? もうばれちゃってるの!? ……あ~、まあいいや。遅かれ早かれこうなるのは分かってたし。とはいえ、まだ兵力差には不安があるから正直まだやり合いたくないんだけど……。そういえば新しく現れたソイツの名前は何ていうの?」



 プラムエルは横に立つグラムへと視線を投げる。

 グラムはその視線を受け止め、この報告を上げて来た兵士にそのまま投げ渡した。



「ハッ! 白城家の新しい当主の名はクラウンという名でございます」



 二人の前にひざまずきながら、その名を口にする。



「ふ~ん? 『白城クラウン』かぁ~。変な名前ねぇ~。--フフッ。そうだぁ~」



 プラムエルはその名前を吟味するように復唱すると、突然何か閃いたかのように天真爛漫とした無邪気な笑みを浮かべた。

 足もまたその表情に合わせて楽しそうに小躍りする。



「姫様?」


「ね、グラム。悪いんだけどソイツの情報をもっと集めてもらえる? 良~いこと思いついちゃった」


 

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