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下級悪魔の労働条件  作者: 桜兎
第四章:思い出と初恋と緊張と
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第八話:弁明の機会その参

 クルメア法王は周囲に浮かべた光を射出する。

 まるで矢だ。放たれた瞬間に球体は形状を変えーーいや、実際にはそう見えているだけなのだろう。光りの軌跡が宙に直線を残す。

 光は限りなく直進して目標を穿つ為に群をなして襲い掛かる。

 人ひとりーー正しくは悪魔だがーーを殺すには過剰とも思える弾丸の嵐。

 だがクラウンはそれを剣で撃ち落としていく。先程まで対応できていなかった者と同一人物の動きとは思えない。



「…………?」



 クルメア法王は眉を細めた。

 何だ。これは……。見間違えるほどのクラウンの動きではなく、瞳に反応する魔力の色に疑問を覚える。


 一瞬魔力を使って精霊術を防いだのかとも思ったが己の内ですぐに否定した。

 だとするならばクラウンの周囲にだけ魔力の痕跡が残るはず。だというのに視界に映る全ての景色が変色したのだ。

 初めて経験する不可解な現象に内心で戸惑う。

 だがすぐに景色は元に戻った。


 気のせいーーな訳が無い。

 おそらくクラウンが何かしたんだろうとは予想がつくが、全貌はまるで分からない。


 

「貴様。何をした?」


「『何』って……剣で攻撃を打ち払っただけだけど?」


「クク。白を切るか。まあいい。直接この手で確かめてやる」



 クルメア法王は堂々とした足取りでクラウンに一歩ずつ近づいていく。


 

「白城家当主としての腕前を」



 そしてクルメア法王は剣を振るう。

 ゆったりとした足取りはまるで幻だったかのように凄まじい連撃が始まった。

 縦横無尽。変幻自在。

 どれほどまでに修練を積めばこの境地まで至れるのだろうか。一挙手一投足、その全てが悉くに意味があるようにさえ思えてくる。練達などという評価でさえ彼にとっては侮辱にしかならない。

 完成された剣技がそこにはあった。


 だがそれら全てを受けきるクラウンもまた常軌を逸している。

 クルメア法王の戦闘技能や判断速度とまるで差がないように感じられた。


 しかしクラウンは人間よりもずっと長命な悪魔だ。彼の剣術は人ひとりではとても足りないほどの長い年月をかけて築き上げてきたもの。

 だというのにクルメア法王はその若さでクラウンの剣技に迫るにまで至っている。どれほどの血と汗を流してこの領域まで至ったのだろうか。そう考えずにはいられない。


 そしてそれは剣技だけではない。

 勝利への渇望、勝利への嗅覚、勝利への確信。

 己の勝利に対する執着が伝わってくる。言葉だけではない。躊躇なく己の命を懸けるような博打、息をのむほどの豪胆さ。

 ある意味では強者にとって必須ともいうべき技能が備わっていた。


 そこにクラウンは敬服した。


 

「まさかこのボクを相手に剣だけでここまで渡り合ってくるとはね」



 心の底からの褒め言葉。

 だが彼にとっては侮辱にしか聞こえない。小さく舌打ちをしてクラウンを睨む。


 

「純粋な剣の腕だけでこの俺を凌ぐか。たかが悪魔風情が」


「剣と拳だけは長年磨き上げてきたからね。百年程度しか生きられないたかが人間風情にはまだまだ負けないよ」


「たしかに道理だな。だが同時に不条理でもある。貴様の台詞が示すところはつまり人間は貴様に勝てぬということ」



 そしてありったけの憎悪を込めて彼は言う。



「阿呆が。ならばこの俺自らをもって貴様のげんを否定してやろう」



 ≪拒絶の輝きヴァイガーン・グランツ


 ほのかな光がクルメア法王を包む。

 

 見たことのない精霊術。

 クラウンは再度気を引き締める。



「いくぞ」



 息をつく暇など与えぬ怒涛の連撃。

 並みの騎士なら今の一瞬で粉微塵の肉塊へと変貌したことだろう。だがクラウンはそれすらも容易く防ぐ。

 特にクルメア法王の速度や膂力が向上したわけでもない。凌げぬはずもなし。

 だが以前消えぬ光に疑問は消えない。注意を払いながら攻撃を受け流し続ける。



「『貴様が床に足をつけることを拒絶する』」



 クルメア法王が呟いたと同時に彼を纏う光が一瞬燃え上がるように煌めく。

 その瞬間、クラウンは地面を蹴って宙に跳んでいた。


 

「……え?」



 いきなり見失った重力感覚にクラウンは戸惑う。 

 確かに自分で床を蹴って跳んだ。脳がそう筋肉に指示を出したのだ。

 しかしクラウン自身はそう肉体に命令した覚えはない。動かしたという感覚は残っているが、実際にはそうするつもりがなかったという違和感。


 何が起きた?


 だがクラウンに考える猶予など与えられない。

 宙に跳んだクラウンを追って強力な一撃が迫り来る。咄嗟に剣をねかせて防ぐがその衝撃は直接ダイレクトに全身へと伝わっていく。

 踏ん張る足場もないままクラウンは壁へと叩きつけられる。


 それでもまだまだ攻撃は終わらない。

 痛みの中微かに聞こえたクルメア法王の足音に、何とか防御を間に合わせる。



「……ねえ。今の一体何?」


「さあな。『貴様が俺の剣を防ぐことを拒絶する』」



 また不可解な現象が起こる。

 クラウンが突然両手を広げて自らの胴体を曝け出したのだ。


 

「……ゥん?」



 え。

 何でボクこんなバカな真似してるの?

 クラウンは己の指揮下を離れて動く手足に驚きを隠し得ない。こんな真似したら剣で斬られてしまうではないか。

 慌てて自分の両手を引き戻そうとする。だがもう遅い。

 スパッとクルメア法王の剣がクラウンの腹を斬りつける。



「あ…………」



 ピッと血しぶきが周囲に飛ぶ。

 クラウンは身にはしった痛みにそのまま背中から崩れていく。



かしらッッ!?」



 その光景を見ていたブラックが叫ぶ。

 慌ててクラウンの元へ駆け寄ろうと体の向きを変える。



「悪魔。邪魔はさせない」


「ここでお前も朽ちろ。悪魔」



 だがそうはさせまいとレイとロン。



「邪魔や。ねェ!」



 仕えるべき主君が目の前で斬られたブラックにとって、もはやクラウンに命じられていた加減するほどの心の余裕はない。

 彼女を纏う空気が激しい怒りによって歪み始める。それは決して幻などではない。ハッキリと目に映る程具現化し、ブラックの姿さえ変貌させる。


 身に纏うスーツさえ全身を覆うように広がったかと思うと、体格が骨格から別の形へと誘い始める。

 人間らしかったはずの口元は大きく横に裂け並んでいた歯は牙へと姿を変える。

 瞳は大きく鋭く、烈火の色がレイやロンを無視してクルメア法王に殺意を飛ばしていた。


 その姿を一言で表すなら犬という表現が正しいだろう。

 だが無論ただの犬ではない。人間よりも一回りも二回りも大きい。猛獣だ。

  

 ブラックはその大きな口で轟く。

 法王の塔が傾くかもしれないと思う程の咆哮が衝撃となってレイとロンの二人をずっと奥の壁まで叩きつける。

 気絶してしまったのだろう。立ち上がる様子がない。

 クルメア法王は満足そうに笑う。



「面白い。それが貴様の正体か。犬」


「あぁヴぁああアアァあッ!」


「もはや怒り狂って会話も出来んか。いいだろう。すぐに主の後を追わせてやる」



 普通、目の前に巨大な怪物が現れれば生じるであろう恐怖。

 クルメア法王はそれを微塵も感じさせず、クラウンと戦っていた時のように剣を構える。

 

 ブラックはその巨大な脚と爪を怒りに任せて眼下の標的に振るう。

 地震でも起きているのではと思う程の衝撃が床を鳴らす。大きい=遅いという方程式は成り立たない。確かに怒りに任せた一撃は大振りではあるが、人間大だった頃の速度は衰えることなく顕在だ。

 まさに脅威の猛攻。一つ一つが絶大であり必殺。

 それをクルメア法王はギリギリのところで全て回避する。



「五月蠅い奴だ。『貴様が動くことを拒絶する』」



 クルメア法王が何かを紡ぎ、眩い光が瞬間的に部屋を包む。

 すると今まさに振り落とそうとしていたブラックの脚がピタリと静止した。


 その隙を逃すことなくクルメア法王はブラックに一太刀浴びせる。

 しかしサイズがまるで違う。その一撃はまだまだ絶命に至らない。ブラックの怒りを増幅させただけだ。

 だがそれもクルメア法王の狙い通り。

 怒りを増したブラックが突っ込んでくるのを笑いながら精霊術を放つ。

 

 ≪光の弾丸クーゲル・リヒト


 先程クラウンに使った精霊術だ。

 無数の光が宙を舞い、ブラック目掛けて放たれていく。


 目に追えぬ速度の光の弾丸は流石のブラックも防ぎようがない。的が大きくなった分格好の狙い撃ちだ。

 幾数の攻撃を受けて巨大な悪魔もクルメア法王の前にひれ伏してしまう。


 

「無様だな。だがそれが貴様らには相応しい」



 動かぬ体を恨みながら、ブラックは精一杯の憎悪を込めてクルメア法王を睨む。

 だがそれすらもクルメア法王は愉悦だと言わんばかりに嘲笑し、切っ先を向けた。


 これで終いだ。

 クルメア法王はそう言葉を落として剣を振るう。


 だがブラックの額を突き刺そうとするまさにその瞬間、その切っ先をピタリと静止させた。


 

「……いつからだ?」



 クルメア法王は目を見開くようにして言葉を漏らした。

 

 彼が感じる違和感。

 それは彼の瞳に映る世界の色。

 どこかおかしい。ついさっきまでと若干だが色彩が異なっている。差し込む光の加減、漂う礫砂。誤差の範囲といえばそれまでだが、クルメア法王は直感的に感じ取った。

 最初にこれを感じたのはクラウンと戦っているときだ。

 クルメア法王はパッとクラウンが倒れていた方に視線を向ける。血を流し、依然倒れたままのクラウン。

 クルメア法王はその死体状態のクラウンとの距離を一気にゼロにし、持っていた剣でクラウンの胸を貫いた。


 

「あれれ? もう気づいちゃった?」



 ーー死体が笑った。

 クラウンは胸を貫いたはずの剣を気に留めることもなく、そのままズブズブと柄のところまで自身の体をもっていく。


 

「にしてもキミの精霊術反則的だね。一瞬とはいえ意のままにありとあらゆる現象事象全てを捻じ曲げる能力。物理的にも威力のある技。きっと他にもまだまだあるんだろうけど、これ以上は御免被るよ」


「貴様。なぜ生きている?」


「だってボク悪魔だし。胸を貫かれた程度では死ねないかな?」



 クルメア法王はクラウンから刃を引き抜き、今度は首を切り落とす。

 ごとっ。床に転がる首は未だに笑ったまま喋り続ける。



「痛いなぁ。ボクが悪魔じゃなきゃ死んでるよ」


「馬鹿が。首を刎ねられて生きている生物なぞ存在しない。……幻術か?」


「すごいね。大正解」


「……なるほど。この見える景色全てが覆われるような感覚。俺の≪光の弾丸クーゲル・リヒト≫を払いのけた貴様の姿も幻術だったということか」


「その通り」


「だが魔力の色はあの時ハッキリと見えていた。しかし今は注意を払わなければ気づくことができん。どういうことだ?」


「ま、簡単に言えばそれすらも幻術で調節したってところかな」


「五感もハッキリし、意識も確実に存在する。だというのにこれら全てが貴様の手によるまやかしということか」


「そーいうこと。どうする? この状況でまだ続ける?」



 クラウンのその言葉にクルメア法王は両目を閉じる。

 そして数秒と待たずして結論を出す。



「…………いや。もういい。貴様の望む通り話を聞いてやる」


「ありがとう」



 ピシッという音と共に周囲の景色がガラスのように割れて落ちる。

 そこにあったのは元の景色。

 ところどころ破壊されてしまった壁や床。気絶したままのレイとロンの姿。

 腹を抑えているクラウンと、その傍らでクルメア法王を睨む人間の姿のブラック。



「キミの力を使えばボクの幻術も突破出来たんだろうけど」


「愚問だ。俺が幻術に嵌っている内に俺を殺そうとしなかったこと。それが貴様の言葉を聞くに値すると判断したまでだ」


「なるほど……ね」


「それで? 確か貴様の言い分だったか。この俺が納得できるものを聞かせてもらえるんだろうな?」 


「どうかな? それは本人を直接見て確認してもらわないと分かんないんだけど……」


「本人だと?」


「口で言うより見た方が早いしね。ビヒー。そろそろ入ってきて」



 クラウンは扉に向かって言葉を投げる。

 すでに開ききっている扉だが、その端からひょこんと呼びかけに応じた人物が登場する。

 本人の与り知らぬところで物語の中心となっていた小さな悪魔が。

 

 その顔を目の当たりにしたクルメア法王は隠しきれないほどの憎悪を曝け出す。

 当然だ。親兄弟を殺した憎き顔がすぐそこにあるのだから。

 飛び掛からなかっただけでも奇跡に近い。

 

 

「入ったとたんに殺意を向けられるとは思いもよらなんだぞ……」



 ただし身に覚えのないビヒーとしては無礼極まりない。

 少し引きつった顔で最初の一声目を落とす。



「この子がビヒー。キミのいう敵とやらにあたるらしいけど……」


「うむ。やはり身に覚えがないの。そもそも我がここに来たのは初めてじゃし」


「……っていうわけ。だから心当たりがあるかもしれなかったのはブラックだったんだけどーー」



 クラウンは一度ブラックを見て、クルメア法王に「違うんだよね?」と念を押す。



「……ああ。そいつじゃない。俺の目の前で殺しを働いた悪魔の顔はまさにこの顔だ」



 ビヒーの顔を、姿を、睥睨する。 

 だがすぐに付け加える。



「しかしーー同一人物ではない」



 その言葉にクラウンは表情を明るくする。



「ほんと?」


「確かに外見は瓜二つだが、雰囲気がまるで違う。ビヒーだったか? 悪いが魔力を少し放出してくれ」


「うん? まあよいが……」


 

 と言われた通りに少し魔力を外に出す。

 無論何かが起こるわけでもない。傍から見れば何一つ変化などなく、ただクルメア法王だけは納得がいったように頷いていた。



「やはり違う。どうやら貴様らの言っていたことは本当だったようだな」


「ほっ。どうやら疑いが晴れたようだね」


「ほなウチらに言う事あるんちゃうんか?」


「ああ。正式に詫びよう。すまなかった」



 一同はその素直な謝罪に面を食らってしまう。

 まさかあそこまで唯我独尊を貫くような男が、こうもあっさり自分の意見を覆すとは思いもよらなかったからだ。

 無論彼らにとってはこの上なく喜ばしいことではあるが、少しばかり肩透かしな結果である。



「なんだその顔は?」


「いや。何ていうか少し意外というか……」


「こうも簡単に非を認めるとは思いもしとらんかったからな」


「馬鹿か貴様ら。己の非も是も判断出来んようでは上に立つ資格などありはしない。それが出来ぬなら死んで肥しになったほうがまだ有用というものだ」


「それはまあ随分と直球な意見。でも嫌いじゃないかな」


「それでーー貴様らにつけた傷は大事ないのか?」



 クルメア法王は二人の傷に目をやる。

 クラウンは膝を穿かれ、腹を裂かれ。ブラックも斬撃を受けている。

 血は止まっているようだが傷口だけ見れば大怪我だ。


 しかし二人とも人間ではなく悪魔。

 問題ないよと軽く流す。



「そんなことより、キミの家族の命を奪った悪魔というのはビヒーにそっくりなんだよね?」


「ああ。雰囲気は違うが外見だけなら完全に瓜二つといってもいい」


「ふぅむ。我に兄弟なんぞおらんからのぉ。まるで心辺りがないわい」


「だよね。ーーていうかアリス」


「……それは俺のことか?」


「うん。アイリス・朧・クルメア。だからアリス。ボクんところの法王様にも愛称で呼んじゃってるから。ーー駄目?」


「……本来貴様との身分差を考えると不敬ではあるがーー。悪魔とはいえ仮にもこの俺を話し合いというテーブルにつかせた男だ。勝手にしろ」


「ありがと。んじゃ話戻すんだけど、キミの力をもってすればそのビヒーもどきの暴挙も止められたんじゃないの?」


「確かに。俺が最初からその現場に居合わせたのなら可能だっただろう。しかし俺が現場に辿り着いたと同時に俺の身内は消されたのだ」



 アイリスの瞳にまた憎悪の色が浮かぶ。

 それはその悪魔に対してのものなのか、間に合わなかった己への不甲斐なさからなのかは分からない。

 だが口惜しさだけは痛いほど分かった。

 クラウンは彼の気持ちを汲むようにして続けざまに問いかける。



「じゃあ逃げられちゃったってことだよね? アリスほどの腕があれば早々逃げられるなんて思わないんだけど」



 アイリスとの戦闘で悉く思い知ったが、彼ほど人間を超越した人類は存在しないだろう。

 ハッキリ言って玄武や静香以上の実力を保有している。法王の大地最強と云わしめた三大騎士家も、人間というくくりの中ではその看板も下ろさねばいけまい。

 だからこそクラウンは断言する。



「精霊術だ」



 アイリスは一言で答える。



「初めてみるが、あれはおそらく空間の精霊ゼウスの能力。首を落とす前にすぐに消え失せてしまった」


「……ん? でも待って。悪魔は精霊術なんか使えないよ?」


「そうだ。だからこそソイツを使役する人間がいると判断したのだ」


「なるほど。だからボクが真っ先に疑われた訳ね」



 だがそこでクラウンは一つの疑問に行き着く。



「あれ? じゃあボクの正体が悪魔と分かった段階で疑いが晴れてたんじゃないの?」


「多少はな」


「じゃあ攻撃してこなくても良かったじゃん!」


「……俺の中で悪魔は忌み嫌う対象でしかなかったからな。この国に蔓延る子悪党の中にも悪魔が潜んでいるくらいだ。早々に信用することなどできん」


「でもそういう発言をボクらの前でしてくれるということはーー悪魔のボクらを信用してくれているーーっていうことでいいのかな?」


「ふん。貴様らはどうやら俺の知るような悪魔ではないらしいからな」


「ありがと。それにボクは首輪つきだしね」


「……契約悪魔か」


「そういうこと。ちなみに契約者はボクの娘の梓ちゃん。今度紹介するよ」


「……娘? 悪魔が悪魔を召喚したとでも?」


「いんや。正当に白城の血を引く人間だよ。まあ詳しい話はまた今度。ただこの事実知ってるのはローランド法王国でも梓ちゃんだけだから他言無用でお願い」


「それは貴様の行い次第だがーーひとまずは黙秘しておいてやる」


「ありがと。そんな事よりもアリスの家族を殺した犯人だけどーー」


「ーー梓のお父様! お待たせしました! 剣です!」



 本題に入ろうとするクラウンの言葉を、扉から勢いよく飛び込んできた愛が遮る。その手には依頼していた剣が握られていた。

 だが元々ソレは愛を追い出す為の口実に過ぎなかったもので、時も既に遅し。

 

 愛もどうやら察したようだ。

 戦いが終わっていることに。

 

 

「……って、あれ?」



 息を切らしながら自分だけがその場の空気に馴染んでいないことに気づく。

 クラウンはいつものように、あはは、と笑いながら愛に謝罪した。









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