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下級悪魔の労働条件  作者: 桜兎
第四章:思い出と初恋と緊張と
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第七話:戦争その参

 尊大な態度は言葉だけではない。

 最初の一撃でそれは十分すぎるほど理解した。巨体からは想像もつかないスピード、見た目以上の剛腕。

 ローランド法王国が誇る三大騎士家当主を二人同時に相手取り一蹴した実力は想定以上だ。

 大吾は己の中にあったシグマの情報を修正しなおす。

 

 口では大きく叩いてみたものの、大吾はどう出るべきかと攻めあぐねていた。

 先程と違いいつでもかかってこいと仁王立ちする怪物。その視線の先はーー仮面を被っているので実際には分からないがーー当然大吾である。

 蛇に睨まれた蛙のように微動だにしない。

 恐れて動けないわけではないーーが、まともに攻撃を受けては最悪一発で倒れてしまう可能性を考慮しいつも以上に慎重になっていた。



「どうした? 早くかかって来い」



 中々一歩を踏み出せないでいる相手に、シグマは手を動かして挑発する。



「……ま、剣を振るわなきゃ始まらねえ話だしな」



 いよいよ腹をくくって、両手を強く握る。

 そして一気に大地を蹴った。



「どおっりゃあぁッ!」



 突進しながら大剣を斜めに切り上げる。

 普通なら甲冑があっても両断されてしまうだろう。仮にそれが免れたとしてもその質量に吹き飛ばされてしまうかもしれない。

 だがシグマの鎧は普通ではない。尚且つシグマの尋常離れした巨体がそれを許さない。

 左腕一本曲げるだけでその一撃を易々と受け止める。



「……おいおい。そんなんじゃねえだろう。さっき俺様を殴った一撃はよ」



 つまらなさそうに大吾を見下ろす。声には落胆した声がみられるが気のせいではないだろう。



「へっ。じゃあ遠慮なく!」



 大吾はそんなシグマの期待に応えるべく、大剣ごと体を回転させる。

 ただ遠心力で叩くだけでは駄目だ。まずは異常に硬い鎧をどうにかせねばシグマには勝てないだろう。さっきまでは≪武器強化ヴァッフェ・フェアシュテルケン≫で攻撃していたが、まともに通用したのは最初の一撃のみ。

 それでは時間もかかりすぎるし魔力も使い過ぎてしまう。

 理想の戦いとは一撃で敵を屠ることにある。戦争という長期戦ともなればそれが出来るか出来ないかで戦況は大きく変わってくる。

 ならば今ここでシグマが傲慢ともいえる余裕の態度をとっている序盤こそが機会チャンスだ。

 

 大剣に魔力を通して思い切り振るう。



「ーームッ!?」



 襲い来る斬撃の直前、シグマの体が一瞬ピクリと反応する。 



「くらいな! ーー【一刀両断】!」



 その一刀に斬れぬものなし。

 元法王守護騎士シュプリンガー隊長が編み出した個に対しての絶対的な戦技。

 まだまだ技術は荒いが、その威力は下級精霊の力で放つ喇叭らっぱのものよりも上回る。司と並んでローランド法王国内で事実上最強の戦技だ。

 未だこれで斬れない物に出くわしたことがない。

 あの頑丈な肉体を持つ迷宮を彷徨う牛悪魔ミノタウロスですら、その太い首を両断することの叶った一撃なのだから。

 それほどまでに大吾が絶対の信頼をおいている戦技。防げるはずも無し。そう信じきっていた。

 

 ーーが、すぐにその認識が覆されてしまう。



「……あぶねえあぶねえ。うっかり切られちまうところだったぜ」



 シグマはまたもや片手で受け止めていた。  

 しかもその腕に届くどころか、傷一つ負わずに。

 唯一さっきまでと違うのは声色だろうか。仮面をしてても分かる。さっきよりも随分と機嫌が良いものに変わっていた。


 だが大吾からすればとても気分の良いものじゃない。

 正直腕を切り落とすぐらいは出来るものだと信じていたのだがーー結果は最悪を下回ってしまったのだから。


 

「っかっかっか……。……まじかよ」



 辛い笑みを溢す。

 攻撃を逸らされてしまう、避けられてしまうのならばまだ良い。納得がいくのだから。

 しかし結果は見てのとおり。己の持つ最強の戦技を正面から受けても通用しない相手が初めて現れた。

 予想もしていなかった現実に、どうしたものかと汗が流れる。



「正直腕一本はもらえると思ってたんだけどな」


「そうかい。そりゃあ悪いことをしたな。しかし腕一本くれてやるにはまだまだ物足りんな。もっともっと俺様を楽しませてくれんと」


「楽しませるっつっても攻撃が通用しないんじゃ一方的だろうが」


「フッフッフッ。確かにな。しかし大吾よ、思い出せ。お前は最初の一撃でこの俺様の鎧に見事傷をいれたじゃねえか」



 トントンと胸元を指で叩く。

 そこには小さい傷痕。

 そんなもんがなんだってんだ。声を大にして言いたくなる。  

 シグマはそう顔に現れている大吾を見ながら愉快そうに言葉を続けた。



「それにさっきの一撃だが、もしも俺様が鎧に魔力を流さなきゃ本当に斬れていたかもしれんぞ」


「……『魔力を流す』?」


「おうとも。この鎧は俺様の自信作でな。何もせずとも並大抵の攻撃じゃ傷一つつかんが、俺様の上質な魔力を流せば更にその防御性能は跳ね上がる」


「……つまりアンタが魔力を流してさえいなければ、俺の攻撃が通用するかもしれないと?」


「そういうことだな。あるいは俺様の魔力が枯渇するまでさっきの攻撃を続けるか、だ。まあ次からはそう簡単にくらってやらんがな」



 そう言ってシグマは大剣を振り払って再び拳を握る。



「そら。そろそろいくぞ」



 シグマの拳が一、二、と大吾に放たれる。しかし最初の時と違いそこに俊敏性はない。大振りでブンブンと振り回す感じだ。それでも甲冑を着ている者らが簡単に避けられる速度ではないが。



「チッ。舐めやがって」



 だが躱せない速度ではない。

 大吾は手加減をする化け物相手にありがたいと思いながらも、己の性格がそれに憤る。

 拳を半身になって避けると、すかさずその無防備な腕を再度切り落とさんと武器を振り落とす。ーーが、結果は変わらない。

 ギンッ、と音を立てて鎧の表面で押しとどめられてしまう。

 そして逆にその硬直時を狙われて、拳が大吾に突き刺さる。



「…………カ……ッ!?」



 二度三度転がって何とか体勢を立て直す。衝撃で胃の中のものが全てぶちまけそうになるのを必死に抑えながら。



「そう言うな。余裕とは強者にのみ持ち得る特権だ。文句があるなら俺という化け物を打ち倒す英雄様にならんとな」



 そしてまた追撃しないのも強者の特権だと言わんばかりに、ゆっくりと一歩ずつ大吾との距離を詰めていく。



「ほんと嫌な野郎だぜ。アンタの言動も、それに甘えてる弱い俺自身もな」


「そう言ってやるな。手加減しているとはいえこの俺様相手に数分っているだけでも上出来だ」



 そこでシグマは「しかしーー」と付け加える。



「ーーいざ口では勇み足を踏んだものの、こんなもんじゃあ少々いかんだろうよ。少々落胆するぞ? 確かに攻撃一つひとつは本気なんだろうが、踏み込みも足りなければ出足も鈍い。有効打を狙うための賭けも張ってこない。有りていに言って強敵相手に勝ちを狙う戦いじゃないな。それではこの俺様を倒すことなぞ夢物語だぞ?」



 仮面の化け物は諭すように言い聞かせる。


 

「重ねて問おう。舐めているのはどっちだ? 俺様という強敵を前にしながら全力を尽くさないというのは一体どういうことだ? 松蔭家のご子息殿という援軍待ちなら立派な戦術だが、お前さんからは一人でも俺に打ち勝とうとする気持ちが表れているようだしな」



 自分自身叱咤し続けていた本質を全て見抜かれてしまい、大吾はぐうの音も出ない。

 分かっていた事だ。このままでは勝てないと。 

 大吾は再び構える。



「そういやレヴィやクラウンさんにも言われ続けたことだよな。技を見せる間もなく敗退するのは三流の人間がすること……ってな」



 フッと笑みを溢してシグマを見上げる。



「確かにアンタの言う通りだ。慢心して舐めていたのは俺の方だ。後の事を考えて体力や魔力を残した状態で勝とうなんてしてた。だがそれでも言わせてくれ。こっからは出し惜しみなしだ。うっかり首が刎ねられるなんてこと無いように気をつけろよ。俺もどこまで通用するか試してみたくなったからな」


「言うじゃねえか、大吾! それでこそ、だ。それでこそ騎士、それでこそ男、それでこそ俺と戦う資格があるってもんだ! ならばこそ俺も今一度言わせてもらおう。そう豪語するだけの実力をこの俺様に見せてくれ!」


「ああ。じゃあいくぜーー≪音速の剣闘士クラング・ケンプファー≫!」



 大きく叫んだ大吾の姿が戦場から掻き消える。


 

「んッ!?」



 突如獲物が視界から消え失せた事に、流石の怪物も声をあげる。

 油断をしたつもりはないが想定以上の速度。目で追う事が出来ず完全に見失ってしまった。

 そして初めて己の身に危険を察知する。



「ーーッと!?」



 首筋にはしるちょっとした空気の流れにシグマが初めて避けの体勢を見せた。

 屈むようにして下げた顔を再び上げると、そこには砂煙を生みながら地を滑る大吾の姿。

 


「ちっ! 避けやがったか」



 それだけ言い残して再び大吾の姿がシグマの視界から離れる。

 直後にシグマの軸が大きくぶれた。

 第三者から見れば何が起きているか全く理解できないに違いない。空気中に残された金属音だけがその事象のヒントになり得ていた。

 よく見るとシグマの甲冑が少しずつ欠けていたのだ。それは小さく、風に乗って飛んでいきそうなほどだが、それでも確実に攻略すべき第一歩を築きあげていた。



「こいつぁ……おったまげた」



 自慢の鎧が少しずつダメージを受け始めているというのに、シグマは満足そうに笑う。



「随分と面白い精霊術を使うじゃねえか。これが最初に俺様の鎧に傷をつけた攻撃ってわけだ。成程。目を凝らしてなきゃ全く見えんな。だがーー」



 シグマはそう言って自身の鎧を強化する。



「こうすれば流石に俺様の鎧には傷が入らんだろう。それにーー」



 何もない場所へ両腕を振り抜く。

 それはさっきまでの遊びとは違い、シグマが垣間見せた本気の速度だった。

 一体何をしたのか。

 そんな事は一目瞭然である。大吾の胴体を鷲掴みにしていたのだから。



「こうしてしまえば速さなんてのは関係ないことだしな」


「がっ……、くそ! 放しやがれ!」



 掴まれているので大剣を振り抜くことが出来ず、必死で柄でシグマの両手を攻撃する。

 だが当然の如くびくともしない。



「確かに速い。俺様の全力すら大きく上回る速度だ。おそらく地上の誰よりも速いだろう。だが戦闘というのは速さだけではないからな。それだけでは俺様に勝つのは無理だ。いや……それどころか松蔭玄武にも敵わないだろうよ」



 シグマの推測はいやというほど当たっていた。

 実際に音の精霊イスラフェルと契約してから手合わせをしてもらったことはあるが勝利することはできなかった。

 無論ある程度は勝負出来たがまだまだその程度。当然レヴィ相手でも全く通用しない。

 虚をつくほどの速度は出せるが、それだけでは倒せない相手もいることは重々承知している。……こうやって完全に掴まれてしまうというのは予想外だったが。



「さてどうする? まだまだ物足りんがどうにかせねばこのまま握りつぶしてしまうぞ?」



 万力の如くキリキリと大吾を握る力が強まっていく。

 やろうと思えば一瞬で潰すことが出来るはずだ。なのにそれをやらないのが化け物曰く強者の特権である。

 大吾はジワジワと力を入れてくる化け物を睨んだ。


 

「ーーけッ。ならこういうのはどうよ?」



 大吾はニヤリと笑って大きく息を吸う。抑圧される身体に精一杯の空気を取り込んだかと思えば、それを一気に解き放った。



「ーーガ……ッ!?」



 鼓膜ーーが存在するかどうかは不明だがーーが破れんばかりの大きな音に、シグマは堪えられず両手を放してしまう。

 それだけでなはない。空気を伝わり発生した叫びは物理的な衝撃ともなって悪魔を襲う。


 ≪精霊術・竜の咆哮ゲブリュル・ドラッヘ≫ 


 大吾の放ったこれは何倍にも膨れ上がせた音を砲撃化する精霊術。

 その気になれば周囲三百六十度にも放つことが可能な上、今のように狙いを定めて放つことも出来る。しかもその場合の方が威力は増幅する。

 そして何よりーー音という衝撃は鎧という強固な護りを容易く掻い潜る。

 シグマも何とか吹き飛ばされないように両手を交差させて必死に堪えようとするが無駄なことだ。その巨体は一気に後方へと運ばれてしまう。勢いよく足を擦りながら後退する。

 その音がようやく途絶えた時には、流石のシグマも片膝を地につけてしまっていた。

 そしてその隙を大吾は見逃さない。


 音速で渾身の一撃を再び振るう。【戦技・一刀両断】


 シグマも慌てて鎧に魔力を這わそうとするーーが、身体に直接響くダメージのせいか上手くいかない。

 咄嗟に身を起こして何とかその剣閃を避けようとするが少し遅かった。

 

 スパッと、これまでの攻撃が通じなかったことが嘘のように鎧に刃が通る。

 腹筋を斜めに斬る形で、シグマの腹から血が噴き出す。



「ぐぬゥ……ッ!」



 片方の手を傷痕にあてる。そこには真っ赤な血が湯水の如く垂れ流れていた。

 そしてようやく自慢の鎧が切り裂かれた事に気づく。


 

「っしゃ! どんなもんよ!」



 ようやく負傷を与えることが出来たことに大吾は満面の笑みで喜ぶ。

 大吾自身気づいてはいないがこれは快挙である。

 シグマの鎧はまさに自身が誇るだけあって、今は亡き元法王守護騎士シュプリンガー隊長の喇叭らっぱも、大吾と同じく第一騎士団の副官である松蔭司、またその父であり第一騎士団を率いる松蔭玄武、それと並ぶ獏党静香でさえその鎧を切り裂くことは敵わなかった。

 しかし今ようやくそれを成し遂げたどころか、鎧に護られ続けてきたはずのシグマ本体にも傷を与えることに成功したのだ。

 無論魔力で強化されていない状態ではあり、シグマ自身圧倒的優位という立場に溺れて油断した結果ではあるがーーそれでもだ。


 しかしこれで終わりではない。

 むしろようやく戦うことが出来ると、希望のある檀上に立つことが出来た状態なのだ。

 大吾は気を引き締めて再び音速で突進する。


 無論放つ一撃は変わらない。先程と同じだ。

 狙いはシグマの背中。全力で腕を振るう。



「ったく……。はやるなよ、大吾」



 しかしシグマは振り返ることなくそれを制する。

 後ろ向きのまま完全に振り下ろされる前の大吾の腕を掴むと、そのままポイと放り投げる。



「うお!?」



 空中で身体を回転させながら、地面に叩きつけられることだけは何とか回避する。

 着地した時にはシグマはすっかり立ち上がっていた。



「まずは称賛しよう。鳳大吾。……見事だ」



 先ほどの一撃を反芻し、感嘆のうめき声をらす。

 甞めてはいた。悪く言えば驕りともいえる自分の行動がこの結果をもたらしたことも理解している。

 しかしそれでも自慢の鎧どころか、己の身にさえ刃を突き立てた男を称賛せずにはいられなかった。



「運、相性、俺様自身の行動が招いた等色々と要因はあるだろうが、それでも傷を負う羽目になるとは正直思ってもいなかった」



 心の底から紡がれる本音。

 大吾はそれに黙ったまま耳を傾ける。



「この俺様を屠る事の出来る人間など存在しない。そう思っていた時期もあったが、そうではないと少し前から気づくようになった。物語の中で化け物を倒すのはいつだって人間だ。現実にそれが起こっても何らおかしくはない。そしてその資格をもった人間は正直俺様の隣にいたご主人様か、あるいは噂に名高い三大騎士家の人間ぐらいだと思っちゃいたんだが……そこにポッと出のお前さんも晴れて参入とはな」


「そりゃどうも。ならこのままとっとと倒されてくれればありがたいんだけど?」


「ハッハッハッ! そりゃいかんだろうよ。俺様にもお前にも使命がある。衝突しあう運命は避けられず、ならば力をもって押し切って見せんとな」


「ならまたとっておきの一撃をお見舞いしてやるぜ」


「フフフ。この俺様を前にして未だ『とっておき』などと謳うとは恐れ入る。しかしそれが存在したとして魔力がもつか心配だな」



(……バレバレだな)



 大吾は内心で舌打ちする。

 確かに勝機は少しずつ見えてはきた。しかしさっきの一撃で首を落とせなかったのは正直辛い。

 大吾の使用する【一刀両断】や≪武器強化ヴァッフェ・フェアシュテルケン≫、また≪音速の剣闘士クラング・ケンプファー≫などの精霊術や戦技は燃費が悪く、魔力を消費し続けていなければ効果をさない。

 確かにその分効果は絶大だが、逆に言えば使い続けなければならぬなら長期戦においては不利となる。

 だから敵が油断している内の短期決着を狙っていたのだがーー結果はコレだ。焦りが大吾の中で生まれる。



「ならもう一回試してみるか? 今度こそ首を刎ねてやるぜ」


「フッフッフ……。怖い恐い。だがもうそんな機会は与えてやらんよ。ーー来い。【邪眼の三叉槍】よ」



 その瞬間、シグマの傍で地面が隆起する。

 呼びかけに応じて出現したソレは、ズズズと唸りをあげながら彼が見上げるまでに伸び上がっていく。

 先端に尖る三本の刃は太く鋭く、特に中心のものは左右と比べても大きい。珍しい武器ではあるが、大吾自身そのような形状をした武器を見たことがないわけではない。

 だがその巨大さをはじめとして、人間が扱うにあたって大きく奇異すべき点がある。

 

 それはギョロリと大吾を覗く巨大な瞳。禍々しく気味が悪い一つ目が柄と刃の繋ぎ目に備わっていたのだ。



「おいおいおいおい……んだそりゃ!?」



 大吾も思わず顔をしかめる。

 ジッと自分を見つめてくる巨大な瞳におぞましい程の寒気が全身に奔った。



「そう言ってくれるな。これでも俺様の最高傑作なんだ」



 シグマはそう言って三叉槍を手に取る。

 その全長は明らかにシグマを越えていた。


 見た目からもそうだが、大吾は直感的にヤバイと感じた。言葉にできない絶叫が自身の肉体に上げられている。

 いうなれば巨大な肉食獣に間近で息を吹きかけられているような感覚。殺意にも似た何かが世界を染め上げ、瞬きさえできない。目を背けたいがそうすれば一瞬で心臓の鼓動すら止まってしまうような気分。

  

「さあ来い。次こそ宣言通りに化け物の首を叩き落としてみろ!」


 楽しそうに笑いながらシグマはその切っ先を大吾へと向けた。




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