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下級悪魔の労働条件  作者: 桜兎
第三章:精霊の舞闘会
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エピローグ

「それでは、精霊の舞闘会の閉会式に移らせてもらうね。それではまず始めに精霊を代表して、風の上級精霊ジンくんよりお言葉を頂戴したいと思います」



 今クラウンが喋っている場所は、言うまでもなく大演習場の上空ーーつまり空中である。

 これが幻術だと理解した全員は本当にすっかり慣れたもので、誰一人怪訝に思うことなく首を上げてその言葉を傾聴していた。

 

 決勝戦が終わってから約数十分。

 梓と大吾しかいなかった広い空間は余すところなく今舞闘会の参加者によってひしめき合っている。

 無論場内に入りきらない者に関しては外のモニターを見ながらの待機となった。やや不格好な形ではあるので、もし次があるならば改善すべき点となるだろう。

 ただし本戦への出場を果たした十六名だけはハッキリと区別できるよう、大演習場の最前列へと並べられていた。


 これだけの人数が集まればざわめくのも当然ではあるが、風の上級精霊ジンの登場によってその喧騒はピシャリと止まった。



『人間よ。この十日間、実に有意義な時間を提供してくれたことを精霊達を代表としてまずは感謝しよう』



 この声だ。

 開会式の時にも耳にした精霊の声。

 頭に直接降りてくるような神秘的な声、そしてそのお言葉を前に多くの人間が恍惚とした溜め息を漏らす。

 精霊の言葉を耳にするのは人生で一度も経験しない方が普通である。それだけに、この場に居合わせたこと自体を全ての人間が感謝していた。


 一方で精霊自身も人間との交流が少ないので、そんなことをここにいるほとんどの人間が思っていようとは考えておらず、彼らの反応に気づくことなく話を続ける。



『さて、この国の長であるクリストファー・バード・ディ・ローランド殿によれば、この舞闘会で気に入る人材がいれば是非契約を交わしてほしいということであったな』



 空に映る光の影がそこで一瞬間をおいた。

 

 そうだ。

 それこそが正直なところ眉唾物まゆつばものと思いながらも、皆が期待を膨らませた最大の要因だ。

 一般参加者からすれば騎士に取り上げられるだけでもありがたい話ではあるのだが、そこに精霊との契約が加わるのであれば喉から手が出るほど欲しくなるのも至極当然のこと。

 しかもこの精霊の舞闘会において、精霊と契約できるのは何も上位の結果を残した者だけではない。

 例え予選敗退であっても精霊に気に入られてさえいれば契約してもらえる可能性が残っているのだ。

 逆にいえば優勝したからといって必ず精霊と契約できるわけではない。極端な話、参加者全員が契約を成す可能性もあればゼロの可能性だってあり得るのだ。

 だがゼロでない限り、そこはやはり人間だ。もしかして、という気持ちがここにいる全ての人達の心に存在していた。



『ーー千四百七十二』



 そして風の上級精霊ジンおもむろに口ーーという部位が存在しているかどうかは分からないがーーを開いた。

 その数が何を現すのか。すぐに風の上位精霊ジンは言葉を続けた。



『此度の舞闘会において、そなたらと契約をしても良いと考えた精霊の数だ。それでは早速契約の儀を行うとしよう。何、時間はかからぬ。選ばれし人間はその心に精霊の声が聞こえる筈だ』



 そう言って唐突に契約の開始を宣言する。

 その瞬間に風の上級精霊ジンの周囲に百ーーいや、千を超える光体がブワッと出現した。そしてそれらは空に留まることなく一斉に目標に向かって直進した。

 

 緑の光は大演習場の外へ、青の光は大演習場内の千を超える人の中の一人へ、次々と契約する人間の下へと精霊が飛び交っていく。

 そして最前列に並ぶ本戦出場者らのところには、全員のもとへ精霊が集っていた。そしてそれらは彼らの胸の中へと飛び込んでいく。



『娘よ。聞こえるか?』



 梓の体内で声を感じる。

 精霊との契約は初めてではないから、この感覚は彼女にとって久しぶりだと感じた。

 しかし闇の下級精霊シェイドと契約を交わしたときよりも、声は強く、気配もまた濃く感じる。

 そして気が付けば、梓は何もない空間に立たされていた。



(何………………ここ?)



 昔は心の中で会話した程度で契約が終わった。

 にも関わらず、今は昔と勝手が違うらしい。先ほどまで大演習場の土を踏みしめていた足は、何もないーーそう、ただただ真っ黒な影の上に立っていた。

 下だけではない。右も左も、正面も背後も、全てが闇に包まれていた。

 しかしその空間の中でも自分自身の姿は色濃くハッキリととらえることができているのだから不思議である。

 正直何がどうなっているか理解の追い付かない梓に、再び先ほどの声が届く。



『娘よ。我が声が届いたのであれば返事をせよ』


「は、はい!」


『よろしい。ならば改めて名乗ろう。我が名は風の上級精霊ジン。お前と契約を望むものだ』


「え!? 風の上級精霊ジンってもしかして……先ほど皆にお言葉を授けてくださっていたあの上級精霊ジン様!?」


『その通りだ。そして娘、もしお前も我との契約を望むならば我はお前と対等の立場となる存在となる。敬称など不要だ』


「わ、わかったわ」


『では問おう。娘よ。お前は力を欲して何とする? 力を成して何を望む?』



 唐突に風の上級精霊ジンからの問いかけが始まった。

 もしかすると契約前の最期の試験のようなものなのだろうか。だとすれば下手な回答は出来ない。

 梓は両目を閉じて、暫しの間その問いの答えを自分の中で探し続ける。時間にして十秒。視線を正面に向け、意を決して自分の考えを述べた。



「分からないわ」



 それが梓の結論であった。



『分からない……だと?』


「ええ。正直、力を手に入れて何をしたいかって言われても分からないわ。個人的な話であれば私は私の家の復興と繁栄を願っている。けどそれだけなら精霊の力がなくとも実現できるから、貴方の力を使ってどうするっていうのはすぐに思いつかないわ。ただ……そうね、目の前に困っている人がいるなら、騎士としてその人を助けるために遠慮なくその力を貸してもらうかもしれないわね」



 それ以上はない。というよりもやはり思いつかない。

 思いついた事に関しては全て言い切った梓は満足そうな顔で正面を見据えた。

 そしてそんな少女の解答はすこぶる愉快だったのか、風の上級精霊ジンは先ほどまでの威厳ある声が吹き飛ばんばかりに笑い声をあげた。



『ーーフ、フフフ……、フフフフフ、アハハハハハハハ! いやいや、すまんな。あのお方より聞いていた以上に面白い娘だ』


「あのお方?」


『ああ。気にしないでくれ。いいだろう、娘よ。気に入った。契約を交わそうではないか。それでは娘よ、其方の名を』


「白城梓よ」


『よろしい。白城梓、人の子よ。お前の透き通った心を認めて、なんじが我の力を求め、その代価を支払い続ける限り、我もまた汝に力を貸そう』



 その瞬間、闇に包まれていた空間が白く透き通った部屋へと変貌した。

 空気が一気に入れ替わったような気分だ。



『これで契約は成った。では白城梓よ、また別の機会で会えることを楽しみにしているぞ』



 その声を最後に、梓の視界は元いた大演習場へと引き戻される。

 梓自身、いや梓だけでなく精霊と契約を交わした全員が気づいていないのであろうが、精霊と心の中で対話していた時間は現実世界で一瞬にも満たない間である。

 それ故に周囲でその光景を見ていた人達からは、精霊が人の胸の中へと入っていった程度にしか見えていなかった。


 

『……これにて契約を望む全ての精霊の契約が完了した。これをって我らは帰還とさせてもらおう。またこのような機会が設けられることを楽しみにしていよう。さらばだ』



 その言葉を最後に、精霊たちは完全に気配を消失させる。 



「はーい。それじゃ何が起きたのか全く理解できていない子もいるかもしれないけど、次いっちゃうね。あ、騎士団からのスカウトに関しては後日発表させてもらうからよろしくね。それでは最後に、クリストファー・バード・ディ・ローランド様よりお言葉を頂戴したいと思います。みんな静かにするように」


「えー、皆様。まずは十日間お疲れさまでした。参加者は勿論だけど、近くで露店を広げ盛り上げに協力してくれた人や参加者の応援に駆け寄ってくれた人、精霊の舞闘会の進行役やそのサポートをかってくれた三人も。みんな本当にありがとう!」



 この国の頂点に立つ人物より惜しみない感謝の言葉が全員に注がれ、みな一様に嬉しそうにはにかんだ。


  

「さっきの千を超える精霊との契約。クラウンがすんなりと進行しちゃうもんだから、正直夢なんじゃないのかなって思ったりもしたけど、夢じゃないんだよね? 実際に精霊と契約を交わしたであろう人たちの目がそう話してくれているからね。だとすれば、この国は歴史の転換点ともいえる一歩を踏み出したーーそう、偉業を成した国といってもいいかもしれない。それほどまでに凄いことなんだ! だからもう一度みんなに言わせてほしい。本当にありがとう! 願うなら、まだまだ若輩者であるこの私とこの国に住む全ての国民を支え、更なる発展の為にも、またみんなの力を貸してほしい!」



 クリストファーの言葉はどこまでも真っすぐだ。

 それ故に皆の心に真摯に響く。

 一人が呼応して次々に点火するでもなく、その場にいた全員が一気に沸きだつ。



「「「ウオオオオオオオ!」」」


「法王様万歳!」


「ローランド法王国万歳!」


「法王様万歳!」


「ローランド法王国万歳!」



 過去例の無かった精霊とのつながりを創り、それを成功させたクリストファーの名は、もはや国民全てが心から敬うほどだ。

 例え精霊に見初められることがなくとも、一般人でありながら騎士に取り上るという破格の制度。そして精霊の声を聞く機会の共有。

 誰もがこの時代に生まれて来たことを逆に感謝したほどであった。



「みんな……ありがとう! これからもよろしく頼むよ!」


「それでは、精霊の舞闘会ーーこれにて終幕!」



 そしてクラウンの言葉で、一度舞闘会は閉められた。

 しかし昂る国民の感情は夜だというのに収まる様子はない。ローランド法王国ーーそれも西部のみでどんちゃん騒ぎは夜通し続けられた。

 

 第三章終幕!

 いや~。正直中盤ダラダラしちゃった感否めませぬな。うぅ……誰か改稿してほしい。文才プリーズ。


 ま、何はともあれ精霊の舞闘会編は終了っす。

 

 梓と大吾のその後?

 もちろん四章から書いていきますよ。

 主要三メンバーはこれからまたどんどん強くなっていきますので。その辺もまたお楽しみいただければと思います。


 そういえば本当に暑かった。

 第三章を投稿し始めたのは6月中頃だったかな? はじめはストックもあった話も一気に底をついて、気が付けば暑さに原稿が追い付かないっていう。

 本当集中力続かんもんですわ。ーーいや、今現在でも正直暑いんですけどね。


 ですがやっぱ作品を作るって結構面白いから、やっぱりやめられないんですよね~。

 趣味レベルではありますが、それでも読者がいるのは正直すごく嬉しいですし。あ、いつも飽きずに読んでくださっている皆さまありがとうございます!

 熱中症にならないよう油断しないでくださいね。


 えー、何でしたっけ。

 あ、そうそう。四章の話の続きでした。

 大まかな話の構成は出来ているんですが、あとは素人の腕でどこまで綺麗な形で終着点にもっていけるか。これにかかっとるわけですよ。

 いや、本当に第三章は作者が言うのもなんですが、ほんとだれちゃった感満載や。お助けマンいつ来てくれるのやら……。

 何て言っても仕方ないので、その内余裕が出来れば読みやすいよう改稿しますね。


 今度は少し余裕をもって投稿できるようストックを貯めさせてもらおうと思いますので、四章スタートまで今しばらくお待ちいただければと思います。


 

 今後とも頑張っていきますんで、見放してくれんでくだせえ!


 評価・ブックマーク ぜひともぜひとも。


 それではみなさん、第四章でまたお会いしましょう!

 

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