王子が不幸になる婚約破棄~勇者の置き土産 編~
「王子が不幸になる婚約破棄~ヒロインの目的 編~」、「王子が不幸になる婚約破棄~寵妃の罠 編~」「王子が不幸になる婚約破棄~逆ハーレムはしない 編~」「王子が不幸になる婚約破棄~転生ヒロイン破滅 編~」「王子が不幸になる婚約破棄~王子は勇者に恋をした 編~」「王子が不幸になる婚約破棄~おかしいわ、ヒロインがフラグ建設をちゃんとしたはずなのに 編~」の続きではありません。別の話です。
単独で読めます。
続きはありません。
途中から、視点が変わります。
ただ今、異世界に拉致られた瀬月琴菜です。
とりあえず、状況は整理しない。
なんというか、拉致られた場所の一角にイケメンさんたちが5人いた。
これは、親友の好きな『乙女ゲーム』とやらと同じ状況な気がして来ました。
魔王を倒す旅を続けながら、イケメンさんたちの中の誰かと恋をするみたいな?
私の現在の状況と同じような乙女ゲームを熱く語る親友に私はツッコンだね。
「ずいぶん器用だな、オイ!」と。
普通に思わないですか?
世界の危機という緊迫した状況の中、拉致られたのにそんな暇があるなと。
私なら、出来ないね!!!
などと言うと友人は怒ったように、「それが、乙女ゲームの醍醐味なのよ!」と言いました。
私はゲームをしても、乙女ゲームというジャンルには一切手をつけていません。
オンラインゲームなどの多人数共同作業プレイで、『頭脳』担当です。
私は『脳筋プレイ』をしたいのに!!!
ゲームの醍醐味は、力押しの脳筋プレイなのに!
王様の話を話半分に聞き、この異世界誘拐強制労働拉致監禁が『元の世界に戻れない誘拐』だと確信する。
私が拉致られた場所にいた者たちの反応で、丸分かりです。
これで分からないと思っているのなら、馬鹿にしているとしか思えない。
だがしかし、これで元の世界に戻ることを諦める私ではございません。
王様の話は、「この世界の魔王を倒し世界を救って欲しい」ということ。
道中の魔物たちや魔王は、旅に同行するイケメンさんたちが倒すから、私の役目は『魔物や魔王を倒し終えた後に悪い瘴気が出るからその浄化をすること』だということです。
異世界拉致誘拐による強制労働としては、ベリーイージーモードですね。
ここは空気を読んで、「時給はいくらですか?」なんて訊かなかった私を褒めて欲しい。
視界の端に、性格の悪そうな顔をした美女がいました。
私を見る目がいささかキツイ。
私は彼女に何かしたのでしょうか?
魔王を討伐する旅の前準備として、勇者としての修行を開始しました。
修行は、順調に進んでます。
いいのでしょうか? こんなに簡単で。
剣道部での練習よりも、体力の消耗が少なくて楽です。
もし、部活動中にこの『勇者修行』のようなことをしていたら、顧問に怒鳴られ校舎周り10週をさせられます。
校舎周り10週を全力で走らされていた先輩たちを見ていたら、真面目に部活動をしていてよかったなと心底思いました。
時が来て、旅に出ました。
私の拉致現場にいたイケメンさんたち5人と旅の監視役として新たに加わったイケメンさん一人です。
旅に出始めた当初は、脳筋プレイ風を楽しんでいました。
ですが、すぐ飽きてきました。
やはり、力押しだけでは私が楽しめないようです。
人を陥れるスタイルばかりしていたのが、いけなかったのでしょうか?
持ち上げるだけ持ち上げてから、叩き落とす方が相手の反応が面白すぎたのが悪かったのでしょう。
それにしても、旅の仲間?のイケメンさんたちはマジで弱い。超弱い。人を嘗めるのにもほどがあるってほど弱い。
捨てて行っちゃダメ?
私の理性の限界が来そうになった頃、やっと魔王城に着きました。
一時間後には、私は魔王に八つ当たりし、一方的に叩きのめしました。
見るも無残な魔王の出来上がり。
それを見ていた魔物たちは、我先にと逃げ出したらしい。
戻ってきました。
私の拉致現場に。
そこにいるのは、顔を引き攣らせた性格の悪そうな美女と王様とその他。
そして、旅の同行者の王子様は寝言を大声でほざきました。
「ルシーダ・クロス、お前との婚約を破棄する!この旅で、美しく強いコトナと心を通わせた。俺は、本当の愛に目覚めたんだ!よって、もう俺はお前を愛せない」
なに言っちゃってるの、この王子様?
心なんて全く通わせてないですよ。
足手まといなこの王子様に全く惚れる要素がない。
旅の同行者たちは、私にとってはストレス量産機。
無意識に私が威圧していたようで、焦る周りの人たち。
私は思いっきり機嫌を損ねましたと言外に伝えて、
「それでは私、元の世界に帰りますので」
冷たく言い放った。
驚く、イケメンさんたちと性格の悪そうな美女と王様とその他。
現れるボロボロになったこの世界の神様。
あれっ?
あの時から、全く回復している様子がありません。神様なのに。
もう、あれは『自称・神様』でいいですね。
そう、あれは私がこの世界に誘拐強制労働拉致監禁のこと____
私は辺りが真っ白な空間にいました。
これは、異世界召喚小説の定番、神様との会話ですね?
ここは、神様を迎え撃つ準備をしないと!
やったもの勝ちと世の中言いますし。
「出でよ!アイアンメイデンちゃん、ギロチン君、双子の三角木馬さんと重石さん!」
私がそう言うと、アイアンメイデンちゃん、ギロチン君、双子の三角木馬さんと重石さんがこの空間に出現しました。
そして、この空間に現れようとしたナニカを掴み取り、アイアンメイデンちゃんの中にぶち込みました☆
アイアンメイデンちゃんの中に入れたナニカは、まだ息の音があるようです。
もう少し、閉じて入れて置きましょう。
少し経った頃に、アイアンメイデンちゃんを開けると、
「僕、神様だよ。きみ、何をしているか分かっているの!」
と言ってきたので、ナニカの位置を少しずらし、再びアイアンメイデンちゃんの中に閉じ込めました。
ナニカの呻き声が聞こえたような気がしたけれど、私は何も聞こえない★
暇になった私は、買ったばかりの小説を取出し、本を読み始めました。
数時間後、本を読み終えると何かを忘れている気がしました。
それで、辺りを見回すとそこにはアイアンメイデンちゃん、ギロチン君、双子の三角木馬さんと重石さんが!
そうかそうか、アイアンメイデンちゃんの中にナニカを入れたままでした。
やっぱり、売られたケンカは買わないと☆
アイアンメイデンちゃんの中から、中に入れたナニカを取出すとそのナニカは、土下座して鼻水垂らして泣きながら、
「なんでもするからもう許じて...」
と言い訳を並べながら訴えてきました。
誘拐強制労働拉致監禁を実行する黒幕を許すほど優しくない私は、異世界の用が終わり次第元の世界に戻さないと、新たな拷問器具を出し、地の果てまで追いかけ回して、この拷問の続きをしてあげます♪と脅してあげました。
すると、ナニカは「それだけはしないでください」と地面に顔をめり込ませるくらいの土下座をしました。
ナニカをあの時にしっかり脅した私は、無事に元の世界に戻りました。
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【ルシーダ・クロス視点】
私は、ルシーダ・クロス。
『異世界で逆ハーレム、恋して私』というネーミングセンスの欠片も感じない恥ずかしい乙女ゲームの世界に転生いたしましたわ。
私の前世は、この乙女ゲームが大好きな女子高生でしたわ。
だって、カッコイイ殿方がたくさんの愛を囁いてくれるんですもの。
なんといっても、『逆ハーレム』ルートがあるのが魅力的。
だって、魅力的な方々ばかりで一人だけを選べませんでしたの。
大好きな乙女ゲームの世界に転生したのですが、ルシーダ・クロスという『悪役令嬢』だというのには絶望してしまいましたわ。
最後には、大好きなボープ・クロック王子様から『婚約破棄』されて『国外追放』されますもの。
でもでも、婚約者がいる殿方に色目を使うなんて常識的にありませんことよ。
にもかかわらず、被害者ぶって私を糾弾するなんてありえませんわ。
人の婚約者を堂々と寝盗るなら、その程度の嫌がらせなんて甘んじて受けなさい!
乙女ゲームの『悪役』になって初めて分かりましたわ。
前世の親友が、このゲームのヒロインを嫌っていた訳が。
確かに、婚約者のいる殿方に色目を使って籠絡するなんて人としての神経を疑いますものね。
とうとう『乙女ゲームが始まる時』が来ましたわ。
私は、婚約者に捨てられる痛みに耐えられるかしら?
実はゲームでの私と違って、私はボープ王子様の婚約者という立場を父の権力を使って奪い取ってはいませんの。
むしろ、時期王太子として役不足だと評判のボープ王子を補佐するために私が国王様から選ばれましたの。
お父様は反対したのですが、国王様からのご命令には逆らえません。
ものすごく、ものすっごく、不本意な形でお父様は渋々国王様のご命令に従いましたの。
そして、異世界より召喚された少女は私の前世の親友『瀬月琴菜』でしたわ。
あれっ!?
あの乙女ゲームは、前世の世界では現実ではなく『ゲーム』でしたわよね?
そうですわ。思い出しましたわ。
あのゲームの原画家が、ヒロインを電車で見かける『美少女』の容姿をモデルにしたと雑誌のインタビューで答えていましたわ。
それが、前世の親友でしたのね。
なんてことですの!?
あの子は、乙女ゲームのヒロインと真逆の性格の子ですわ。
なんか、別の意味で心配になってきましたわ。
旅立ちの時が来ましたわ。
そして、琴菜からから来た『報告書』に頭を抱えてしまいましたわ。
その報告書には、旅の仲間が全く役に立たない、むしろ足手まといな、勇者が無双している様子がありありと書かれていましたわ。
報告書を読む限りでは、『勇者が、一人で行った方が早く済みますわよ』というようなことしか書かれていません。
乙女ゲームのような展開になっておりませんの。
現実なんて、無情ですわね。
旅の監視役からの報告書は、旅が順調すぎて楽だと書かれていましたわ。
そして、琴菜一人でしたことを自分たち旅の同行者たちがしたことのように書かれていましたわ。
魔王討伐の旅の報告書を読む権利乗る皆様総勢で心の中で突っ込みましたわ。
「お前・あなたたちは、勇者一人にすべての役目を押し付けて何もしていないだろう」と。
琴菜が書いた報告書の半分は、旅の同行者たちの殺意と愚痴だったというのは言うまでもありませんわ。
それから毎日、私は教会に行き「魔王討伐の旅が早く終わりますように」と力と思いを込めて祈りましたわ。
王様やお父様にどうしてそんなことをしているのか問われますと、「勇者様を『殺人者』にしたくないからですわ」と答えると、ものすごく納得されましたわ。
と同時に、一緒に教会に行って祈るようになりましたの。
ようやく魔王討伐の旅から、琴菜と旅の同行者が帰ってきましたわ。
そして、アホ王子...失礼、私の婚約者のボープ王子様は、
「ルシーダ・クロス、お前との婚約を破棄する!この旅で、美しく強いコトナと心を通わせた。俺は、本当の愛に目覚めたんだ!よって、もう俺はお前を愛せない」
とおっしゃいましたの。
私と琴菜は顔を引き攣らせ、王様とお父様は額に青筋を浮かべましたわ。
琴菜はこれ以上茶番に付き合ってられないとばかりに、ボロボロになった『何か』を脅してすぐさま用件が済んだとばかりに、元の世界に戻られましたわ。
琴菜の行動に、ショックを受け膝から崩れるボープ王子様と旅の同行者たち。
いわゆる、『自称・琴菜の取巻きたち』。
そして、取巻きたち(笑)の処罰を王様が告げましたわ。
本来なら、公の場でないこの場での発言に処罰はないでしょう。
ですが、琴菜は『旅に出る対価』として「立派な婚約者のいる旅の同行者たちが、婚約者と婚約破棄をし、自分と婚約するなどと寝言を言った時には、性癖を捻じ曲げさせる名所として有名な『ベーコンレタスな砦』にぶち込んで★」とお願いしましたわ。
その要望に、王様は快く応じましたの。
「あの者たちは、この国の将来を担う者。そのような馬鹿な気は起こさん」と笑って。
琴菜本人も、「ですよねー」と笑い飛ばして。
この時、琴菜と王様は思いもしなかったでしょう。
その馬鹿なことを旅の同行者たちがすることを...
そういえば、前世の私は琴菜をベーコンレタスな世界に無理やり引き摺り込んでいましたわ。
ひょっとして、この処罰は前世の私のせい!?
あぁ、今すぐ前世の私を殴りたいですわ!
絶対に、琴菜が選んだ処罰は前世の私の影響ですわ。
彼女がいれば、「手遅れです★」と笑いながら言ってますわね。
はぁ...。
ちなみに、私のボープ王子様への『恋心』は琴菜から送られてくる報告書を読むうちに、無くなりましたわ。
むしろ、今現在は『黒歴史』として闇に葬りたい物になっていますの。
恋は盲目という言葉は、私の黒歴史のためにある言葉ですのね。
そう、この時は私は思いもしませんでしたの。
ボープ王子様が、ベーコンレタスに目覚めてあの手この手で廃嫡を目指すことを。
性癖が開発されて、自分自身に正直になりすぎて、次期国王になる資格を失ったことを_________________
【瀬月琴菜】
ゲームでは、脳筋プレイに憧れるお年頃。
兄・姉・弟・妹がいる。
一つ上の姉は、『愛される女』。
愛される姉は中途半端にいい子ちゃんのため、周囲には気付かれていないがものすごく相性が悪い。
オンラインゲームの醍醐味は、いろんな国の人とプレイできることだよねと言って、数ヶ国語操るようになった。
大学は、日本国外の学校。
後にその国の国籍を取得し、それ以降は日本に帰らない。
「あの家は、姉がいれば十分だよね」と言って。
弟と妹は愛される姉を嫌っている。
弟は逆玉の輿、妹は玉の輿に乗り、結婚後は実家とは一切連絡を取らない。
【ルシーダ・クロス】
転生者。
前世の記憶は、舞台となった乙女ゲームと瀬月琴菜のことのみ。
自分の前世のことは少しで、名前は覚えていない。
前世では、BL、GL、NLなどなどあらゆるカップリングのある薄い本を読み漁っていた重度のオタク。
作中で彼女が心配した通り、王子の処罰は前世の彼女のせいである。
【魔物たち・魔王様】
この世界のために、瀬月琴菜の犠牲となった憐れな者たち。
魔王様を倒す際、瀬月琴菜は魔力を全く奪わなかったので、魔王様は作中後に転生を果たす。
人間界への支配には乗り出さないが、自分たちが不幸になった元凶に復讐する。
【乙女ゲームの世界の神様】
瀬月琴菜の前には、日本人の少年少女を誘拐しまくった神様。
自分の神力が減るからという理由で、元の世界に戻さなかった。(召喚するだけなら、神力が減らない)
地球にある他の国の少年少女も誘拐したことがあるのだが、日本人以外は自分に報復してきたので、この世界に馴染むあるいは泣き寝入りする日本人のみをターゲットにしてきた。
今回の少女も大人しく泣き寝入りすると思い込んだが、予想を裏切り初対面直前から拷問される。
これを見た日本の神様は指差して「ざ・ま・ぁ」と笑った。
神力の大半を使い、瀬月琴菜を元の世界に戻した後は異世界の人間が精神的なトラウマになったため、拷問の恐怖から異世界召喚ができなくなった。
これを知った日本の神様は大喜び。
読んでくださり、ありがとうございました。