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第三章 ミドリ

まどかを守るためにライトに立ち向かうミドリ。

誤解だとわかるもののライトの性格は悪いと決め付ける。


ライトの視線を感じつつも、翠の口は止まらなかった。正直怖かった。

「ヘンタイ、バァーカ!」

相手がどんな人なのかもわからないから、とにかく罵声を浴びせて気持ちを奮い立たせていないとどうにかなりそうだった。

「ケーサツ呼んだるさかい、おとなしゅうつかまりぃや」

手先が震えるのはとめようもなかったが、それでもまどかを守らなきゃいけないという一心で次々と叫ぶ。


「ミドリ、ちょっと待って!」

まどかは、小刻みに震えているミドリの手を取り自分のほうへ引っ張りながらライトとの間に入る。

「ライトさんはいい人だよ、ミドリが思っているような悪い人じゃないんだよ」

そういうまどかの顔を見て、翠は少し驚いたようにたずねる。

「まどか・・・ひょっとしてこのひと、アンタの知り合い?」


・・・ウチの早とちりやったんか?せやったら謝らへんと。

「ううん、さっき初めて会った人」

無邪気そうな顔で答えるまどかを見て、翠は頭が痛くなってきた。

・・・アカン、この子の悪いクセがでよった・・・

まどかは、とにかく人を疑うことを知らない・・・というより疑いたくないと思ってるのだろう。

それはきっと素晴らしいことなのだろうけど、とっても危ういことでもあると翠は思う。

世の中は、まどかが言うような「良い人」ばかりではないことを翠は知っている。

良い人でないばかりか、人の善意に付け込んでくる「悪人」も沢山いることも。

そして、そういう輩ほど見かけは「いい人」に見せる術を持っていたりするからタチがわるい。

だから私が守らないと・・・と翠は思うのである。


「ライトさんごめんね。ミドリちゃんも悪気があるわけじゃない・・・と思うの」

「いや、まぁ・・・いいんだけど・・・」

まどかと話すライトを翠は改めて見てみる。

さっきは夢中で気づかなかったが、見た感じ温和で優しそうな印象を受ける。

話し方も優しそうで性格のよさが伺えるし、まどかのいうように良い人なのかも?悪かったかなぁと翠が反省していると、目の前にライトがやってくる。


「えっと、そこの口の悪いおちびちゃん?」

・・・訂正、コイツはいい人じゃない!


「誰がチビやねん!ウチに喧嘩売るんか?」

「いや、先に言って来たのはそっちだろう?」


ライトがあきれ返ったように言う。


「まぁ、オトナの俺としては、おちびちゃんの言うことは気にしないけどな」

まどかと話しているときと違い、からかうような口調で言ってくるライト。

・・・コイツの性格最悪や!


翠は、自分の背が低いことを気にしていた。翠の背は142cm。同じ年代の子に比べてもやや低めであり、それが翠の密かなコンプレックスになっている。いつも一緒にいるまどかは145cmとそれほど変わらず、普段は気にすることもないのだが、160cmあるクラスメイトの美音子と並ぶと自分の背の低さを思い知らされる。

でも、ライトと話しているまどかを見て、アレ位の身長差もアリかもね・・・などと考えていただけに「おちびちゃん」とからかうように言ってくるライトに対していい印象が持てるわけがなかった。


うつむいて黙ってしまった翠を見て、ライトは内心「しまった」と思った。

決して傷つけるつもりはなかった。

先ほどの罵詈雑言の軽い仕返しのつもりだった。

「あー、えーと、・・・ゴメン」


「このロリコンがウチに・・・」


「ライトさんっ!メッです!!」


声を発したのは三人同時だった。

ライトは謝罪を、翠はお返しの悪口を、まどかはライトへの注意を・・・。


「えっ・・・」

「っ・・・」

「あは・・・」


三人とも一瞬言葉につまり、その後お互いの顔を見ると思わず笑い出してしまった。

「えっと、さっきはゴメン。許してくれるかな?」

笑いが収まったところで、ライトが翠に改めて謝罪をする。

「ええよ、ウチも悪かったわ。先に色々言ったのウチやし・・・」

「馬鹿にするつもりはなかったんだ。それに女の子は背が低いほうが可愛いしね。」

ライトが笑って言う。

「ソレ、完全アンタの趣味やん。ロリコンは犯罪やで♪」

にっこりと笑顔で翠も答える。

「・・・・・・。」

ライトが絶句したことで翠は溜飲を下げ、まどかのほうに向き直って問いかける。

「で、結局まどかは何してたんや?」

「うん、エンコーってのしてた」

まどかの発言にその場の空気が凍りつく。

そして、翠が無言で携帯と取り出すと110をプッシュする。


「もしもし、警察でっか?・・・」

「ちょっとまてーっ!」

ライトは慌てて携帯を取り上げる。


・・・冗談じゃない 。こんなわけの判らないことで警察呼ばれてたまるか!


ライトは少女たちを見て「何の冗談だ?悪質ないたずらか?」と言った。


「エンコーは犯罪やで」

ライトを見る翠の目が冷ややかだ。

「冗談じゃない、誰が援交なんかするか!」

ライトが言い返す・・・大体声をかけてきたのはそっちからじゃないか。

「えっと、エンコーって犯罪なの?」

ずっと黙っていたまどかが言う。

「悪い事だなんて知らなくて・・・ただお金がもらえるって・・・」

うつむきながら、まどかがつぶやく。

「ライトさんごめんなさい。私知らなくて・・・そんなつもりじゃなくて・・・」

顔を上げて謝罪するまどかの瞳には涙がにじんでいた。


「え~と・・・とりあえず、わけを話してくれるかな?」

涙ぐみながら、必死に頭を下げるまどかに、優しく問いかけてみる。

しかし、まどかは謝るだけで訳を話そうとはしてくれなかった。


翠はまどかに近づくと、その手を握り顔を覗き込むようにして話しかける。

「まどか、いったいどうしたんや?アンタらしくあらへんで。ウチにも話せない事なんか?」


「えっとね、私どうしても明日までにお金が必要で・・・」

しばらくうつむいて黙っていたまどかだったが、翠の問いかけに答えるように話し出す。

「エンコーって言うのはお話しするだけでお金がもらえるって訊いて・・・」

まどかはそこまで話した後、またうつむいて黙ってしまった。


「急にお金が必要って・・・いったい何があったんや?」

「翠には関係ないことだから」

まどかは突き放したようにつぶやく。

しかし、そんなことで引き下がる翠ではなかった。

「関係あるかどうかはウチが決める。話してもらわんと力にもなれーへん。」


なかなか話そうとしないまどかと、必死になって説得している翠。

そんな二人を見つめて、厄介なことになりそうだ、とライトは思う。

・・・今のうちにここから離れたほうがいい。他人の厄介ごとに巻き込まれるほど馬鹿なことはない。俺はそんなにお人好しじゃない。

そう思い、立ち去ろうとするライトだったが・・・


「ウチじゃ何の役にもたたんかもしれーへん。せやけど、まどかの為に出来ることは何かあるはずや」


翠の言葉に幼馴染のまどかの言葉が重なる・・・


―――何かできることがあるはずだよ―――


彼女・・・桐原まどかはいつもそういっていた。


友達のためならどんな困難も乗り越えることが出来るよと笑っていう子だった。

きっと、翠も同じなのだろう。


「こんなときに力になれずに、何が親友や!」

「ミドリ・・・でも・・・迷惑かかるから・・・」

「迷惑かどうかはウチが決める!大体親友が困ってるのを見て迷惑やなんて思わへん」

翠の口調が激しくなる。

「まどかにとって、ウチはなんやん?頼りないんか?見捨てて逃げるように見えるんか?」

「ミドリ・・・そんな事ないよ。いつも頼れる一番の親友だよ」

まどかは涙ぐみながら答える。

「だったら・・・」

「絶対迷惑がかかる!私のせいでミドリが傷つくの耐えられないよっ!」

まどかが叫ぶ。私のせいで・・・と泣きながらも自分の意志は曲げないという頑固さが垣間見えた気がした。


「だったら、傷つくまどかちゃんを見てられないっていう翠ちゃんの気持ちもわかるんじゃないか?」

ライトが口を挟む。

黙ってみていられなかった。何故この子達の行動が、言葉が、こんなにもダブるんだろう。


―――誰かが傷つくの見たくないよ。傷つくのは自分だけで十分だから―――


忘れていた・・・忘れたかった彼女の言葉・・・。


「とりあえず話してみないか?力になれるかもしれないし」

巻き込まれる前に逃げ出すはずだったのに・・・と思いながらも、口に出すのは反対の言葉。

・・・コレも何かの縁なんだろうとライトは思う。

アテもなく車を走らせてたのに気づくと地元へ向かっていた事。

忘れていた言葉を唐突に思い出した後のみやびとの再会。

まどかとの思い出の場所で、同じ名前を持つ少女との出会い。

そして巻き込まれそうな厄介事・・・偶然というにはあまりにも重なりすぎだと・・・。


「昨日の事なんだけどね・・・」

まどかは、ミドリとライトの顔を交互に見たあと、意を決したように……そしてためらいがちに話し出した。

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